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【恋愛小説】私のために綴る物語(41)

第七章 初めての秘密の痛み(6)

 多香子は腹ばいになって、余韻を感じているのか時々身体をよじり、枕を強く抱きしめていた。これじゃ腕枕は無理だなと思うと、その背中を抱きしめて、撫でると、キスをした。気がつくと多香子は寝息を立てていた。

「君は本当に勝手だ」
 無理矢理にでも手を当てて、多香子が横向きになると、抱きあげて、上の階のベッドルームに運んだ。エレベーターを付けておいてよかったと思った。これで、朝日を浴びた多香子が見られる。そう朝になったらおはようのキスをするだけだ。

「おはよう、多香子」
 カサコソと動き出した多香子は抱きしめられて、身動きがとれなかった。
「おはようございます、晴久さん。ここはどこ?」
 はぁと息を吐くと、晴久の方を見て、苦々しく見つめた。
「苦しいんですけど。その力では骨が折れそう」
「先ず、するべきことがあるんじゃないか」

 晴久は多香子の顔を両手で挟むと口を吸い、貪って舌を絡めてきた。多香子が受け入れられると、満足そうな笑顔を浮かべて離れていた。

「朝飯を食べたら、普通のデートをしよう。映画なんてどうだ」
 多香子は少し考えると、思い出したことがあった。
「美術館に行きたい。興味深いことをやっているのを思い出した」
「美術館ね」
 晴久はあまり興味なさそうだったが、多香子は押し切ることにした。
「その後はホテルでアフタヌーンティーをするの」
 スマホを持ってきて、その場で予約を入れようとしていた。
「良かった。空いてる。ただし夕方だけど」
「今晩も泊まってくれるなら」

 寂しそうな声で、じっと多香子を見ていた。その目に胸が痛み、ハッとして、見つめていた。

「明日には、家に帰る。やらないといけないことがあるから」
 そう言ってわざと大真面目に言うと、目線を合わせて続けた。
「晴久には、お手伝いさんがやってくれることも、私は自分でやらないといけないの。だから帰る」
「君の言う通り、僕は寂しん坊かもしれない。これも君が悪い」
「別にイベントがなくても、ここに来ることはできるけど」
 にこやかに笑ってみせた。
「たしかにそうだった。飯をくおう」
 そう言って、浴衣を差し出していた。多香子は受け取って纏うと、晴久を待って一緒に食堂に行った。

「あら、ご飯の炊けた匂いがする」
「あかねさんが飯の予約までしてくれるんだ」
「おかずは?目玉焼きならすぐできるけど」
「冷蔵庫に常備菜で、いくつかあるから」
 晴久は作り置きされた、野菜のおかずと、だし巻き卵を出した。
「味噌汁はフリーズドライでいいね」
 適当な物を出すと椀にい入れ、湯沸かしポットから注いで、テーブルに置いた。ご飯を多香子が適当によそうと支度が整った。

「いただきます」
 多香子が言って、箸をとると、晴久は笑顔になっていた。
「いただきます」
 晴久も合わせて、食べ始めた。
「今日は、電車で昼過ぎに美術館に行って、その近くのホテルでアフタヌーンティーをするの。多分ほとんど夕ご飯。足りなかったら、ここで、軽く食べても良いかも。残ったご飯は冷蔵庫に入れておこう。それで、私は昼過ぎに帰ることにしようと思って」
「わかった。任せるよ」
「そうすれば二人でお酒も飲めるし。立派なデートができるよ」
 多香子は笑いかけていた。その笑顔で、晴久も楽しみになってきていた。

 予定通り、昼過ぎにでかけた。多香子は勝負服として買った、グリーンのシャツと濃い紺色のパンツを合わせた服装にしていた。晴久は代わり映えしないものの、相変わらず隙のないシャツとジャケットのスタイルだった。

「ふーん、ワンピースはやめたんだなぁ」
「あんまり、冴えないとか野暮ったいとか言われたから、やめたんだよ」
 地下鉄を降りて少し歩くと、目的地の美術館だった。緑の多い道は結構眩しかった。
「確かこの辺だったはず」
 多香子は地図と合わせてキョロキョロし始めていた。そんな時、晴久は気になった看板を見つけていた。
「あそこに春画展って看板があるけど」
「よく気がついたね。そこだよ」
「春画って、あの?」
「多分、晴久の想像通り。行こう」

 話題の展覧会だけあって、結構混雑していた。あまり大きくない会場ということもあって、題材も題材で、皆興味津々で不思議な熱気があった。チケットを買って中に入ると、江戸時代の男女の営みの絵が次々と紹介されていた。

「どうしてここに」
 晴久は小さな声で呟いていた。
「昨夜のあれ、歌舞伎とか浄瑠璃の題材だけど、似たようなの絵でも有名なのがあったかなって。そう思ったら、興味あるかなって思ったの」

 有名な絵の前は人が多く、なかなか見ることができなかった。それでも、タコが海女を愛撫している北斎の画などは、ゆっくり見ることができた。

「結構普通に、なんか大っぴらにしてる感じがするね」
「多香子もあんなふうに覗かれたいのか」
「晴久は見せつけたいでしょ」
「そんなことはないかな。昨日のことだって、僕は行きたくないって言った」

 えーって顔をして、多香子は覗き込むように見上げていた。それを何を言っているんだというふうに受け流していた。

「それよりも、多香子にはうちに来たときには、着物で過ごしてもらおうかな。浴衣でいいから」
「どうして、どうせ脱ぐのに」
「そのままの姿で君を犯す、その感じが実感できる」
「声が大きい」

 多香子はさっさと次の部屋に行ってしまった。あわてて追いついて、手を握った。思わず声が漏れた多香子には頬に赤みが差していた。

「手を離そうと思ったけど、止めた」
 そのまま最後の展示品まで、晴久は手を離そうとしなかった。それどころか、時々手のひらや指に刺激を与えていた。
「きちんと見てる?」

 多香子は晴久が仕掛けてくる、手の刺激を我慢するのでいっぱいになっていた。頬は赤く、目は潤み口をぎゅっと引き締めている様子を見ると、晴久は秘めやかなところに手を入れたくなっていた。耳元で囁いた。

「見てるさ。でも絵に興奮している君のほうが卑猥だ。そうだ図録を買って帰ろう」
 ミュージアムショップで図録を買うと、アフタヌーンティーを予約したホテルに向かった。


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