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【恋愛小説】私のために綴る物語(6)

第一章 10年ぶり(6)

 多香子は家についてメールを確認すると、塚嶺からのメールに気がついた。
 水曜日ならば、7時に池袋に行くことは可能だった。すでにチケット代を払っていると言う事と人気のキャラクターカフェという言葉に気持ちが動いていた。今から誘える人も限られているだろう。予定もあいているし、良いですよと返事をした。すぐに返事が返ってきて、池袋の駅のところで7時に待ち合わせしようとあった。それにも大丈夫ですと書き込んだ。

 その水曜日7時、待ち合わせの場所に塚嶺が立っていた。多香子は近寄って声をかけた。
「待った?」
「来たばかりだよ」

 目的のキャラクターカフェは結構な人気で、予約番号順に並ぶように看板が立っていた。
「これって、最近テレビでも取り上げられて話題になっているやつだね。どうしたの」
「つい姪っ子にこのキャラ好きなんだよって言ったら、こういうのがあるから行きたいねって話になって、頑張ってチケット取ったら、その日は無理って。ひどいだろう」
 ふふふと多香子は笑った。
「それで、せめて限定グッズは欲しいって言われて。チケットを売ることもできなくて、一人も辛いなと思っていたら、君を思い出した」
「なるほどね。そういうことか」

 係員が来て、入店前に注文票を記入して欲しいと言ってメニューと一緒に渡して行った。
「何にする?」
 塚嶺が聞いた。多香子は値段と写真に写っている物の量を考えていた。コレをごちそうしてもらうと‥‥。それを口にするのは今更無理だと割り切って、くまのキャラクターの描かれているカレーとクリームソーダのピンクのにした。
「うん、カレーとうさぎのクリームソーダがいいかな」
「おれはそれじゃ、ラーメンとくまのクリームソーダにする」
 ケーキもキャラクターが書かれていて、人気のメニューだが、塚嶺はシェアしようとはさすがに言えなかった。そして暫く経つと店員が注文票を集めに来た。並んでいる人たちもメニューを見て興奮している様子が伝わってきた。

 また少し待って入店して、席につくとすぐに頼んだものが運ばれてきた。
「へぇ、ゼラチンのシートみたいなものでうさぎの絵が貼り付けられているんだ。かわいいね」
「見ろよ。このラーメン。あの店みたいだろう」
 クククッと笑った多香子を思わずじっと見てしまった。
「すごい、たしかに。一度行ったことあるけど。盛りはもっとあったね。万人受けするようにした感じ。でも、よくわかる」
 元になった店は女性が好むラーメン屋ではない。あの男と行ったのかと思い出していた。
「あっそうだ。食べる前に」
 多香子はスマホで、目の前のカレーとクリームソーダを撮っていた。
「澤田、それをアップするの」
「うん、だって面白いじゃない」
「彼氏は大丈夫?」
「別にいいでしょ。ここってもう来られないかもしれないんだから。塚嶺も映っていないし。カレーもラーメンも冷めちゃうよ、早く食べよう」
「ラーメンは美味いよ。カレーは?」
「十分美味しい。こういうのも楽しいね」
 そう言って笑う、多香子にドキッとした。どうしてこの女はこんなに無防備なんだろう。
 一通り食べ終わって、クリームソーダも飲み終わろうとした時、塚嶺は思い切って切り出した。
「迷惑かもしれないけど、こうして、時々でいいから、逢ってくれないか」

 目をまんまるにして、多香子は驚いていた。

 その顔を見て、塚嶺はため息をつくしかなかった。そして付け加えた。
「もちろん、友達としてだ。当然、彼氏を優先してくれて良い」
「あぁ、そういうことなら、大丈夫」
 多香子はこの前の結婚もしていないし、彼女もいないという言葉を思い出していた。
「早く彼女作りなよ」
「余計なお世話だ」
 そう言って怒ってみせた塚嶺を、多香子は笑っていた。
「ごちそうさまでした」
「どういたしまして。店を出るか。買い物しないといけないし」
「姪っ子さんに約束したんだものね」

 会計をすまして、キャラクターショップに移った。そこにはこの店でしか手に入らない物が結構たくさんあった。塚嶺はその中から姪に頼まれたものと自分用に選んでいた。多香子も自分用に何かないかなと見て、ハンドタオルとマスキングテープを手に取っていた。

「澤田、それだけでいいんだったら、俺に払わせてくれよ。会計1回で済むし」
「えっ。いいの」
「大した額じゃないし、付き合ってくれてありがたいくらいだし」
「ありがとう」
 そう言って笑って、品物をかごに入れていた。

 あまりごちゃごちゃしないで引くところは、奢られ慣れていないわけではないしと、また多香子のことを考えてしまっていた。同窓会の時は頑張ってガードを固めていたということか。

 会計が済み、べつに袋に入れてもらった多香子用の品物を渡した。
「ありがとう。結構話題になっていたから、ちょっと欲しかったの」
 そう言って、笑う多香子を見て、塚嶺もうれしかった。
「帰ろうか」
 塚嶺はそう言って、二人で歩いて駅まで来た。
 
 待ち合わせの場所に戻ってくると、多香子はこっちだからと地下鉄の方に向かって歩いていった。その様子を見送って、塚嶺も自分の乗り場の方に向かって行った。

 地下鉄に乗った多香子は、カフェの写真を開いて見た。
 この写真ならキャラもよく見えるしと思って、SNSにアップしていた。

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