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【恋愛小説】私のために綴る物語(55)

第十章 責め絵の女(4)

 晴久は多香子のスカートを脱がすと、手の縄をほどいて胸にかけていた。あまり意味はないけれど、この姿では外に出られないことだけは、明らかにするものだった。スカートは史之が尻に敷いていた。シワになると思ったけれど、生理的欲求には敵わなかった。

「多香子、済まなかった。僕が君のことを理解しきれていなかった」
 史之は槇村に支配されつつある多香子との関係を、もっときちんと理解すべきだったと言い出していた。
「それって、槇村さんに嫉妬していたということだよね」
「そういうことだね。多香子に僕の価値観を押し付けていたことに気がついたんだ」
「それは、澤田さんが、私と夏川さんの両方を愛していることを認めるということでいいんですね」
「そうです。だから、多香子と僕と槇村さんで一度話をしてみるべきだと思ったんです」
「でも残念ながらその必要はないかもしれないですね」
「どうしてですか。槇村さんだって多香子のことを」
「さっきの澤田さんの話を聞いて、私のことは2番めなんだと気づいてしまったんですよ。私は夏川さんの下にはなりたくないんで」
「槇村さん、ごめんなさい。夏川さんと天秤にかけてしまった。でも、私には順番なんてつけられない」
「でもね、澤田さん。私はモノガミー単独性愛者なんだって実感したんだ。夏川さんのようには私は認められないんだ。所詮私は支配者ドミナントなんだよ」
 多香子は晴久のその言葉を聞いて、少し浮き上がってきた期待を深く沈めていた。晴久との関係を終わらせるべきなのは変わらなかった。
「それじゃぁ、槇村さんは多香子とのこと終わりでいいんですか」
 史之はホッとしながらも、晴久にきっぱりと言うことを求めていた。
「私は澤田さんと恋人関係は解消する。ただ願望を言えば、夏川さんと一緒に友人としてやっていけたらと思ってる」
「僕はもう槇村さんを友人だと思っていますよ」
 史之はそう言って晴久に笑いかけていた。晴久もそんな史之に頷いていた。
「ごめんなさい。ちょっと気持ちが自分でもよくわからなくなってるの」
「だったら、文華の寝ている部屋に行ったらいい。僕は槇村さんとじっくり話をしたいから」

 史之が言ったことに多香子はそのまま従うことにした。
 多香子は奥の部屋へ行き、文華の隣に寝ることにした。

「ふーちゃんを責めないで欲しい。多香子さん」
「文華さん起きていたの。ひょっとしてさっきの話も聞いていた?」
「‥‥」
「文華さんと夏川さんの事知って、あんな薄情なのおかしいです。だいたい私達に入ってくるの変だって、言ってるだけですから」
「ふーちゃんがどういったか知らないけど、本当に何も無いの」
「そんなのおかしい。運命と覚悟を感じる女性と愛し合って、思いを遂げた。一番幸せだって、夏川さんが言ったの先週ですよ。なんで庇うんですか」
「やっぱり無理だっていわれた。愛し合ったといっても、私が押し倒しただけだった。あんなに受け身な男性初めてだった。『ごめん』だって」
「そんなのやっぱり変。だって、今日だって、デートしているじゃあないですか。本当なら家に行って」
「別のベッドに寝る」
「はぁ、何なんですか。それで、こんなことに巻き込まれて、怒らないんですか。巻き込んでる側が言うのも変ですが」
 文華は、多香子を見て、切なそうにしていた。そして吹っ切るように言った。
「多香子さん、その縄がとっても似合ってる。私もしてもらえるかな」
 「槇村さん、これで今フリーだから。興味あるんですか緊縛」
「朝ごはんエスコートさせて欲しいって、言われたの。うまく行けば楽しみかも。だって女子って妄想するでしょ、素敵な男性に縛られてみたいって」
「そう言う文華さんとっても可愛いです」

 思いっきりの笑顔で言うと、文華は照れて壁に向いてしまった。

 多香子はイライラして眠れないので、別の部屋に行こうと起き上がった。さっきの居間にいくと、ソファーベッドがあるのに気がついた。そんな時後ろから抱きしめられた。史之の手だと思ったところで、振り向きざまに頬を叩いた。

「いてぇ。痛いなぁ」
「夏川さんには触られたくない」
「どうして。文華とのことか。嫉妬をしてるのか」
「嫉妬ではないけど。文華さんを大事にできない、夏川さんに失望しただけ」
「文華のことは、僕の弱さからだ。覚悟が足りないままだった。気持ちのないままで、後悔していた。それでも、君を諦めるきっかけに使ったのは事実だ」
「それで済ますつもり。まぁ友人以下の私が言うのも何だけど、捨てるときは簡単なんだ。実際あっちに行けって言われたし」
「文華は、インテリアコーディネーターを目指すと言ってくれた。応援をするつもりだ」
「あぁ、そうですか。私だって司法書士試験の勉強と、趣味の歴史の勉強をやってみようと思っているんです」
「僕との時間は」
「セフレはやめる。もっとも行為だって、不満が多かったのだから当然終わり」
「セフレって。僕との関係をそんなふうに」
「もう夜の関係はしない。本当の自分のために使う」
「僕は君を身体だけとは思ったことはない。君は僕をそういう風な男と見ていたということか」
「だってそういうことばかり、僕の身体を慰めてとか。あのときは聞き流したけど」
「僕は君のすべてが欲しいんだけど。そのそそっかしい、頭の使い方も」
「いや、だってもう嫌いだから。無理」

「こうするよ」
 史之は多香子の胸の縄を使って抑え込んでいた。
「槇村さんに教えてもらった。君が勝手なことを言ったら、こうしてお仕置きをしてたって。君はお仕置きされるの好きだと。だから僕の腕の中で啼かないってね」
「一番勝手なのは夏川さんです。なんで、きちんと説明してくれないの。それまでは絶対に許さないから」
「説明って。文華を僕は抱けなかったんだ。不様な事だけど、母親の悲しげな顔と君が頭に浮かんだ。それでせめてものことと、文華の資格取得を応援することにした」
「それでこの展覧会に」
「そうだな。実家に行った時に、親父の机にこれがあったのは幸運だった。君たちの後に入ろうと思ったんだ」
「あんなに幸せだといったのは、私と別れたかったからでしょう。それなのに迎えに来るなんて」
「確かに槇村さんと張り合うのに疲れた。別れられたらと、願った事も本当だ。そう最初の食事をの、メッセージには腹がたった。でも、すぐにホテルのロビーに居るという、メッセージには驚いたよ。僕がよっぽど困った顔をしていたのか、覗き込んだ文華が迎えに行こうと言ってくれたんだ。でも何処なのかわからないから。それで文華が、レストランのナプキンに気がついて、探し当てた」
「私のプロポーズ、何て浅はかだと思ったんだ。少しは納得した。でも、そういうあなたは好きじゃない。嘘つきだし、やっぱり嫌いだからさようなら」
「そうか、仕方がないな。だったらすぐに出て行けよ。顔を見てると、抱きたくなる」
 もう史之も疲れていて自棄やけになっていた。
「じゃぁ、あっちに行く」


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