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【恋愛小説】私のために綴る物語(39)

初めての秘密の痛み(4)

 やってきた男に多香子は身を任せて、抱き上げられると座らされた。感じからして悪くない。
「先生も自分の恋人にこんな事させるとはね。俺は、もともとAV俳優をやってる。先生と愛のためのスローセックスというのを作ったんだ。優しくするから任せてくれ」
 わかるように大きくうなずくと、口にはめた手ぬぐいを外し、口づけをしてきた。小鳥がついばむように何回か優しく吸って、目で良いかと聞いてきた。多香子が笑いかけると、頭を抱き寄せ強く口づけをして、舌を絡めてきた。多香子も応じて受け入れていた。すると手の縄を外して両手を挙げさせ、そこで縛った。これで、多香子は随分自由が効くようになった。
 男は「これで、首を絞めるのだけは無しで」と耳元で囁いた。そして横たえると、着物を大きく開けさせて胸を露わにしていた。
「素敵な身体だ。こんなに可愛いとは。好きにしていいかな」
「あの人に見せつけたくなってきた」
 多香子は男の耳にささやいていた。

 すると、胸を優しく撫で回し始めた。キスをもう一度して、首筋から胸の谷間と降りてきて、臍のあたりを吸い始めると、体が疼くのを止められなくなっていた。その感じるままに身体は動き、吐息が漏れた。足の間の茂みは濡れていた。指が差し込まれ、胸の膨らみが舌で転がされるともう、高まりに身を任せていた。

「すごく感じが良いんだ。そろそろ入っても大丈夫かな」
「大丈夫、あなたの上に座って良い?」
 そうして向かい合って座ろうとすると、そこで多香子は迎え入れた。男の胸に抱きつき自分からキスをした。男の腰が突き上げだすと異変を感じた。

「動かさないで、痛い。もしかしたら十分じゃないかも」
「イッたふりをするんだ。それでやめよう」
 男は慌てて提案をした。でも、多香子は違うことを考えていた。
「でもさっきまであんなに……」
 ふっと晴久の方を見た。こっちの男は無表情のままベッドの様子を見ていた。あまりの表情に多香子は恐怖を感じていた。
「本当に優しいんですね。あの人はああなのに」
 多香子は笑って見せて、余裕を取り戻すと、正弘との時も駄目だったことを思い出した。誰とでもできるわけじゃないと改めて思った。だったら、こんなことをさせた晴久に、責任を取ってもらおうとひらめいていた。

「バックに、後ろからしてください」
 多香子はうつ伏せになり、足と肘を立てて改めて迎い入れていた。
「これでいいのか」
 ベッドの男はローションを塗ってくれて、おそるおそるとゆっくりと入れてくれた。しかしやっぱり痛みが襲ってきて、動く度に枕を抱きしめることになった。

「晴久、ここに来て私を見て。ここに来なさい」
 多香子はかなり切羽詰まった声を上げた。すると冷たい表情の晴久も慌てて近寄ってきた。
「多香子、君は」
「キスをして、早く」
 もう、言うことを聞かなくてはならない雰囲気だったので、言われるままキスをしていた。手の動ける範囲に来ていた肩を抱いて多香子からもキスを求めていた。すると身体が再び熱を持ち、感じられるようになってきた。

「晴久、私をどう思っているの」
 多香子はまっすぐに見つめていた。それをみた男は動きを止めて、晴久を見ていた。
「……」
「愛しているなら、そう言いなさい」

 痛みはまだしていたので、必死だった。それがプレッシャーとなって晴久に伝わっていた。困惑したまま気持ちと頭を整理するように呟いていた。

「多香子、君は。でも、君はそれを。いや、君を。でも」
 振り切るように声を上げていった。
「言えるかそんな事。僕がどうしてこんなことをしたと思ってる。君に嫌われるためだ。受け入れないと思ったんだ」
「たしかに嫌いだって言ってた。でも、愛されてると思っていた。だったらそう言って、どんなことでも受け入れるから」
「だって、言っても君は離れるんだろう」
「わかった。お望み通り、もう最後、これでお別れ。その程度のことだったんだ」

 言い終わると、身体の向きを変えて、晴久の言葉を聞くつもりはないとばかり耳をふさいだ。
「違う。僕は君が、君のすべてが欲しい。愛してる」
 愛しているという言葉だけが遠くで聞き取れた。おもわず多香子はふりむいて言った。
「よく聞こえなかったけど、なんて言ったの」
「愛してる。君を多香子を愛してる。そばにいてくれないか」

 多香子は抱きついて押し倒していた。もっとも手は縛られたままだったので、体を預ける形になった。相手をしていた男は、この事態に呆れ果てていた。

「先生が、負ける相手がいるとはね。良いものを見せてもらいました。それではこれで」
 男は手際よく服を着ると、そう言って出ていった。振り向いた多香子は笑っていた。
「ありがとうございました」
 あわてて、多香子をはねのけて、晴久は見送りに行った。

 不機嫌そうに戻ってきて、にこやかにしていた多香子の前に座った。
「多香子。君は、僕に恥を」
「恥じゃない。あなたのやったことに責任を取ってもらったの」
「責任って」
「だって、すごく痛かったんだもの。誰とでもできるわけじゃないのにさせようとしたから。愛の告白でも聞けば楽になるかもって思っただけ」
「多香子、ごめん」
「だったら、きちんとその気持を表してほしいんですけど」
 その言葉を聞いて、晴久はニヤッと笑っていた。


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