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【恋愛小説】私のために綴る物語(34)

第六章 再構築の前に(3)


 一番肌に馴染んでいたはずの、史之の愛撫では素直に高まることができないでいた。もっと本能のまま貪り合いたい、ドロドロになるまでしたい願望を隠せなくなっていた。それでも、向き合って、一つになれる喜びを伝えたかった。ただ今までのように、愛していると言葉にしようとすると、つっかえるものがあった。『愛してる』がこんなに軽いものでいいのか。

「多香子愛してる。このままずっとこうしていたい。君も同じだろう」
「うん」
「あっイク。このままやめないで。うっ」
 多香子が高まり、達すると、史之も一緒に果てていた。晴久の凶暴さとは違う、優しくて穏やかで、互いを高め合う行為に溺れていたかった。
「史くん、相変わらず優しくて、素敵だった」
「僕も多香子はとても素敵だ」

 史之が優しくキスをすると、そのまま抱き合った。終わりの時間がきて、車に戻ると多香子は同じ様に後部座席に座った。結局晴久の意地悪は効きませんでした。そう報告すべきか考えていた。

 5日間で3人と寝るなんて、誰にもバレたくない。
 
 そう言えば、史之は正弘とのデートを知っていた。昨日のことを言ってしまったのは軽率だった。仕方がないと割り切ることにした。

「僕とは、やり直すこと考えてくれないか」
「友達からなら」
「それならもう友達だろう。付き合うのは」
「私、二股になっちゃう」

 この男は不思議と自信過剰だと、多香子は改めて感じていた。多香子が史之を思っているのは、当然だというようだった。

「僕はその男の存在を知ってるし、その男も僕がいることを知ってる。君の一番になれるのは、誰かなんて君にだってわからない、だろう」
「でも」
「僕は君を諦めたくない」
「考えさせて」
「良い結論を待ってる」

 史之といざよりを戻すとなると、晴久と体の関係を持ち続けるのはどうなのかと、気が重くなった。かと言ってどちらに決めることもできない。愛しているのは史之と言っても、晴久と会わないということも、心が辛くなっていた。いや十分に好意を持っている、そのことを認めたくなかった。二人の男を愛しているなんて。

「ラインで連絡するから。ブロックを解除するね」
「わかった。もう近くまで来た」
「ここでいい。あの惣菜屋さんによって行くから。ありがとう」
 言い終わると多香子は車から降りた。そして去っていく史之を見つめていた。

 家につくと、この3日間のことが思い出されてきた。そして、正弘には会って、史之と晴久の事をきちんと言おう。

 決心がつくとスマホを取り出し、メールを打った。そこには情事の最中の、歪んだ自分の顔があった。

 メル友の史之からもなにかあったのかもしれないが、正弘はすぐに返事をくれた。また、来週の水曜日に会う約束をした。史之からもメッセージが来ていたが、晴久の犬だという姿が思い出されて、返事が書けなかった。

 その晴久からは、ラインのアドレスを送ったのに返事が来ない。なんで、返事をくれないのかと不安になっていた。でも、それを言葉にすることをためらっていた。

 特に用事のなかった週末を過ごし、あっという間に水曜日になった。定時で職場を出ると、いつもの待ち合わせ場所の錦糸町駅に着いた。すでに、来ていた正弘は笑顔でいた。

「待った?」
「さっき着いたところ。変わり映えしないけど、いつもの居酒屋でいいかな」
「うん。個室の方がいいから」
 少し歩いたところにある店に入った。二人とも無言だった。


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