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【恋愛小説】私のために綴る物語(32)

第六章 再構築の前に(1)

 前橋へは上野から特急草津号に乗っていった。その後バスに乗りバラ園もある公園にある陸上競技場に行った。競技場の周りには色々な店が出ていて、地元のものが色々食べられる楽しみの場でもあった。

 多香子は以前から好きだった、上州の焼きまんじゅうやソースカツ丼を買い、ソウルフードとして有名な鶏めしを買おうかと考えていた。これは多分帰りの駅でも買えるはずだった。

「澤田さん、それは買う必要ないだろう」

 聞き慣れた声に驚いて振り向くと、そこに史之が立っていた。ここから立ち去らなくてはと思うほど、足が動かなかった。心が釘付けになっていた。

「そこまで、食いしん坊じゃないから。もういっぱい買ったし。そろそろ席に戻らなきゃ」
「席は何処なんだ」
「メインの真ん中。見やすいから」
「一人で来たの」
「えっと」

 不覚にも次の言葉に多香子は詰まっていた。その様子から、史之は一人であることを確信した。
「ここで待ってる。来てくれるまで」
 史之はすぐ近くのバス停の案内の看板を指差した。

 多香子は最後まで聞かずに立ち去っていた。

 試合は得意どころか苦手な相手だけあって、負けてしまった。これで、早々に帰るのは千葉の人たちとなる。大した人混みにならないことも一層気が重くなっていた。競技場を出るとすぐに、待っていると言われた看板の前だった。

「やっと来た。多香子を待っていたんだけど」
「このまま、バスに乗るんだけど」
「駄目だ」
 史之に腕を掴まれていた。ここで、目立つことはしたくない多香子は、従うしかなかった。
「駐車場は何処。ついていくから」
「良かった」
 手を握って、離そうとしなかった。しかたがないのでそのままついていくと、直ぐに車についた。

 多香子は助手席ではなく後部に座った。
「隣りに座ってくれないかな」
「大丈夫、話し相手はここでもできるし」
「そう、夕食は鶏めし屋さんに行こう。あのお弁当の」
「うん、ありがとう」

 車を動かすと、すぐにその店についた。直ぐに席に通されて、唐揚げ定食といったものを頼んでいた。
「そういえば京都に行ったんだって」
「なんで知っているの」
「塚嶺くんとやり取りしているんだ。多香子からネクタイもらって喜んでいた」
「どうしてそんな事」

 多香子は面白くないといった風で、吐き捨てるように言った。史之が気軽に言うのも気に障った。

「あんまり上手くいっていないみたいじゃないか。少し悩んでいるようだけど」
「高校生の恋愛じゃないから。もう、清純な姿を考えないでほしいって思ってるだけ」
 だんだんイライラが高まってきて、何でこんなことを話さなくてはいけないのかと思った。
「僕とやり直すということもありじゃないか」
 あっけらかんと言った、史之に呆れた。
「それは、正弘と別れてからじゃないと」
「期待していいのかな」
「この話はもうしたくない。さっさと食べて帰ろう」
 多香子はこれでも、丁寧な拒絶をしたつもりだった。

 その後は無言で、食べて店を後にした。車に乗ってからも、多香子は外を眺めて、適当に相槌を打つことしかしなかった。
 史之も欲しいと思う心を持て余していた。


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