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【恋愛小説】私のために綴る物語(56)

第十章 責め絵の女(5)

 多香子は隣の部屋に行って、お茶を飲み一息ついた。そして扉の前で息を整えていた。いちばん大事なのは史之との関係だ。さっきのことでけじめを付けたことにして、やり直す。それが、多香子の結論だった。

 リビングの入り口でドアノブを回すと、入っていった。
 史之はぼーっと外を眺めていた。

「忘れ物があるの」
「情けない男を見に来たのか。これじゃ出ていく必要なかったな」
「そんなんじゃない。あなたは情けなくなんてない」
「私と一緒に旅をしてください。あなたでなくては駄目なんです」
「さっきまで嫌いだと言っていただろう。何を言っているんだ」
「一度区切りをつけたかった。色々あったから。色んな人に嫉妬したりされたり。リセットしてやり直したい。でもここで時間をかけると、またありそうだから」

 多香子は笑っていた。最近ではあまりないくらい透明な笑顔だった。困惑気味の史之も、つられて嘲笑っていた。

「僕はお断りだ。そんなの信用できない。どれだけ君の気ままに、振り回されてきたと思ってる」
 全く予想していなかったコトバに、深夜のハイテンションもあって、多香子は泣き出していた。
「ずっと離れられないのに。約束通りきちんと話をしてきたのに。どうして。今更離れるなんて無理。そんな意地悪。酷い」
「多香子、君からの言葉には、僕はお断りだと言っただけだよ。君のように嫌いとは言っていないけど」

 史之は、今度は意地悪そうに笑っていた。

「一緒に暮らさないか。そうすれば君の応援もできる。僕もやりたいことを安心してできる。僕の嫉妬心だって、もう少しうまく折り合いをつけられるだろう。但し今は前ほど整理されていないけど」
「整理されていないってどういう事」
「リビングやベッドルームは物を置くなって、文華にしつこく言われていたんだ」
「それって、文華さんが片付けをしていたってこと」
「そう、見かねてか宿泊費のつもりかはわからないけど、でももう泊められないから」
「二人で生活していくの」
「そう、良いだろ」
「ちょっと考えさせて」
「なんで? 食事は外食でいいし、朝ごはんだって、予約して炊いたご飯やパンを適当に食べれば良い。食器は食洗機を使う。掃除は当番でする。もっとも、床に余計なものを置かなければ、ロボット掃除機を使えばいい。洗濯だって乾燥機付きの全自動ですれば大した手間じゃないだろう。しわになると困るものはクリーニングに出せば良いんだし。他に何をする。そこらへんは適当でも死なないし。それでも駄目か」

 史之は多香子を抱きしめていた。胸に手が当たるとちょっと悲鳴になるような声が出てしまった。そして史之は手を胸元から膨らみへと入れていった。
「あぁ、いいよ」
「それじゃ、決まりだ。多香子、キスをするんだ」
 もっと感じさせて欲しい多香子はキスをしていた。史之はその多香子の中を貪った。お互いに息が続く限り求めあっていた。史之はこれで多香子の言質を取ったことにしたかった。

「外を見ろ。きれいな夜景だな。多香子は後悔しないのか。こんな部屋を簡単に借りられる生活。お手伝いさんを雇える生活」
「チョーカーが重たかったの。ブルートパーズなのも。着物もドレスも。デパートの外商でって」
「チョーカーって首輪みたいなのか。たしかにブルートパーズだと、もらってもいいかなと思えるけど、実は結構するものだからなぁ。でも奥様な生活ができるのに」
「それってすっごく意地悪。自分じゃなくなりそうだったのに。この手つねっていいかな。それとも首を絞めていい? そうだ、やりたいことって何?」
「友人が始めた、近代建築の保存と研究をするサークルへの参加を頼まれたんだ。ずっと迷っていたけれど、してみようと思って。そうすると週末も時間を取られるだろう。試合観戦も減るかもしれない。多香子とすれ違ったりして、放っておくと、どこかに行きそうだから」

 胸元からおもむろに手を抜いて、多香子の前に跪いた。
「お嬢様、僕の人生のパートナーになってくれますか」
 その史之の前に手を差し出した。
「よろしいですわ。あなたも、私の人生のパートナーになってくださるのね」
「当然です」
 差し出された手の甲にキスをした。
「それでは誓いのキスを」
 お互いに見合うと、多香子はニコッと笑い、史之の唇に合わせた。史之は多香子の頭を抱きかかえていた。長く激しい口付けに多香子はそれだけで喘ぎボーっとしてきていた。

 崩れそうになっている多香子を支えて、ベッドに優しく横たえていた。そして、胸に巻かれていた縄をほどいた。

「ここから僕らは再出発だな。というか、まだ始まっていなかった、本当の恋愛を始めていくんだ」
「多分これからも、傷つけ合ったり、嫉妬もして。もしかしたらまた別に愛する人ができるかも。それでもこうして、抱き合うことをやめられないって、言葉にすると凄まじいね」
「仕方がないだろう。これが僕らの形なんだから」
 そう言うと史之は多香子の胸を貪っていた。多香子は喘ぎ声がはっきりと漏れて、思わず口をふさいでいた。
「待って、声が、恥ずかしい。きっと聞こえてる」
「槇村さんだけだったら、聞かせたかったけど。文華もいるからな。自重しよう。明日、家に帰ったら、君が嫌だと言っても止めないから覚悟しておくんだな」
 史之は意地悪そうに笑っていた。

「史之こそ、一緒に沼に落ちようね」
「受けて立つ」

 そのまま抱きしめあって寝ることにした。窓から朝日が差し込むと、目が覚めていた多香子は、何もまとわないまま景色を眺めていた。隣に居ないことに気がついた史之も起き出していた。

「すごいな。夜景もきれいだったけど、朝の景色は別格だ。しかも朝日をまとった多香子はもっと綺麗だ」
 後ろから抱きしめていた史之はその手で多香子の身体をなぞっていた。多香子はその手を胸と下の花びらに誘っていた。
「声出さないようにするから。あなたが欲しいの」
「少し離してくれ。着けるから」
「このままでいい。そのまま感じたい。本当の意味で欲しい」
「わかった。窓に手をついて。一緒に朝焼けを見よう。顔を上げているんだ」

 ゆっくりと史之が入ってくるのがわかった。こんなに優しく、抱きしめてくれるのかと、その手の力強さからもすでに喜びを感じていた。そんな穏やかさはすぐに無くなり、激しく突き上げられていた。胸も揉みしだかれ、体の熱はあっという間に高まり、喘ぎ声が大きくなりそうで口に手を当てていた。

「声を我慢するんじゃなかったか」
「意地悪言わないで。これでも我慢してる」
 そう言った多香子の顔を自分の方に向けさせていた。
「苦悶に満ちた表情を浮かべる、多香子がこんなに良いとはね」
「キスをして」
 そのままの姿勢で口付けていた。
「苦しくないのか」
「このままいかせて。史之もこのまま中で」

 そう言うと多香子の身体が大きく揺れた。身体がしなり、黒い髪が波のように跳ね上がった。崩れそうになるところを抱きしめると、史之も多香子の中で果てていた。多香子もその熱を感じて幸せを感じていた。その後も多香子は小さな痙攣を繰り返していた。

 史之は多香子から離れると、抱き上げてシャワールームに入っていった。
「こんなに素敵なことを、もっともっと欲しいんだけど」
「あんまりしがみつかないでくれ、君の胸が刺激するんだ」
「じゃぁこうする」
 多香子の唇が首筋を行き来していた。
「多香子、離れてくれ」
「嫌、史之にも、もっと気持ちよくなってもらわないと」
「そう言う言い方だと、多香子に無理なことをさせたくなるけど」

「わかった。バスタブに腰掛けて」
 多香子は史之のものに手を当てて、一度お湯をかけていた。ゆっくりと手で撫でた後、口元に当てて、舌で舐めていた。そして思い切って口の中に入れていた。歯を当てないように、下の筋にも舌を絡めていた。史之は自分のものが、大きくなったのに気がつくと、多香子の顔を押さえて抜いていた。そこで、弾けていた。

「なんで、止めさせたの。ここまでできたのだから、最後まで」
「いいかい。多香子の感じが良いのは、身体だけじゃない。味覚、嗅覚もデリケートじゃないか。嫌いな食べ物を考えるんだ。苦いものや生臭いものはダメだろ。いっておくけど、僕は多香子の苦しそうな顔は好きじゃない。まぁ達するときはそういうものだけど。決して美味しいわけじゃないものを、口にしなくていいんだ。だから、僕は手でも十分だよ」
「ねぇ、本当にそれで満足なの。そういうことができる女性に、気持ちが動くことはないの」
 付き合いだして、初めて抱かれてから、ずっと思っていたことをぶつけてしまった。小説ではそういう女に傾く男ばかりだった。
「そんなことになるのなら、とっくになって、別れてる。そう思わないか」
「なんで、気持ちがこんなに弱くなるんだろう。史くん抱きしめてよ」
「我慢してくれないか。また多香子が欲しくなる」
「えっ。そうだ、槇村さんと文華さんに見せつけてやりたい」
「どうしたんだ。急に」
「もう一度抱いて」


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