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【恋愛小説】私のために綴る物語(49)

第九章 ブルートパーズの首輪(2)

 晴久はクリニックを出ると、多香子との待ち合わせ場所に急いだ。

 多香子と特に何をするでなく夕食を一緒にして、夜を過ごすというのが初めてだった。まさかのライバルが現れるとは、とんだスパイスだと笑っていた。仕事帰りの普段着の多香子を見ると、やっとここまで来た感慨のようなものもあった。

「今日は家で夕食にしよう。あかねさんに言ってごちそうを作ってもらった」
「それは楽しみ。私も実はワインを持ってきたの。白だから冷やしたほうが美味しいけど」

 晴久はそれを聞いて、予定を変えようと思い立った。それにはどこかさっきの史之の顔が、思い浮かんだせいかもしれない。多香子は自分のものだと、本当なら言いたかったのだ。

「多香子、まずはじめに君を泣かせたくなった。まだ夜は始まったばかりだし、食事は後でゆっくり摂ったほうがいいだろう」
 車を動かしながら言った。冷たい声に多香子はドキッとしていた。その横顔を見つめて、情念のようなものを感じていた。
「晴久に任せる」
 すぐに家についた。車から降りる前に、晴久は抱き寄せて、多香子の口を貪っていた。性急さにさすがの多香子も驚いていた。
「どうしたの、何かあったの」
「なにもない。君こそ。応じてくれないのか」
「そんな事ない。こうして」
 多香子は晴久の顔を見つめて口付けをしていた。
「僕に言われてからのことじゃないか」

 車から降りると多香子を急かして、家の中に入れた。玄関の壁に押し付けてまた口づけをした。多香子は晴久を抱きしめて貪り合っていた。晴久は多香子のシャツを脱がすと、ブラジャーのホックを外した。スカートを捲りあげ、ガーターベルトのある太ももを撫でると、自分のものを押し当てていた。

「晴久、ちょっとまって。そんな乱暴な」
「任せるって言ったはずだ。僕を受け入れられないのなら、簡単に言うべきじゃない」
「こんなにいつもと違うこと、事前の同意じゃ無理。奴隷が欲しいのならそれは私じゃない。パートナーは対等なはず。今日はもうなかったことにしよう」

 多香子は下着を直して、シャツのボタンをはめて外に出ようとした。その腕をにぎって、晴久は止めていた。

「ごめん、すまなかった。気を取り直してくれ。君のワインを冷やしてくる」
「晴久、地下室でシャワーを浴びてるから。早く来て」

 おどろいて晴久は多香子を見つめていた。笑い返す余裕があるとは多香子は自分でも驚いていた。

 地下室に入り、電気をつけてと手順を踏むごとに落ち着いてはきた。それでも今日の晴久に怖さを感じていた。ここに来てしまったのだから、覚悟を決めるしかない。史之に言ってしまったことを隠したままで、晴久から打たれてお仕置きをされるのだ。
 体を拭いて、置かれていた浴衣を身につけると、笑いながら出た。

 そこに心配そうな顔をした晴久が立っていた。そして、鈴を多香子に握らせると、立ち上がり離れた。
「この鈴は、君がもう限界だと思ったら、落として知らせるためのものだ。気を失う前に落とすんだ。いいね」
「わかりました。大丈夫」
 そう言って笑った。自分の心を強くするためと、晴久を安心させるために。逆に晴久は厳しい顔になり、赤い縄を手に持っていた。

 縄を多香子にまとわせると、後ろ手に縛った状態でベッドの上に正座をさせていた。
「どう、気分は」
「気持ち……悪い」
「多香子、まさかこれが欲しいのか」
 割竹を多香子の胸に突きつけていた。流石に首を横に振った。打ち据えられた時の痛みが先に蘇ってきた。
「欲しいのか、嫌なのか。僕は言ったはずだ、君を泣かせると。君は同意しただろう」

 そうだった。ここに自分で来たのは打たれるためだった。晴久に打たれなくてはならなかったのに。嫌だと言っても打たれるのなら、欲しいと言おう。

「しかも、こんなに濡らして、随分いやらしくなったものだ。膝で立て」
 今度は足の間に突き立てていた。前後に動かされると、からだに電気が走ったようにのけぞっていた。
「打ってください。それを私にください」

 多香子は縄だけで十分に感じていた。感じて張ってきた胸が浴衣に擦れて、動くだけでも快感がもたらされていた。官能の中に入り込みたかった。もう壊れてしまってもいいと思った。

 骨盤のあたりをきつく突いていた。その後横に撫でられるだけで快感が回っていた。より一層の悦楽を得るため、乳房を差し出していた。
「欲しがるんじゃないぞ」

 晴久は膝の裏に押し当てていた。すると、多香子はへたり込んで前に倒れた。腰と尻に割り竹が打ち込まれた。次に肩甲骨の間に差し込まれて、快感が走った多香子は思わず顔を上げていた。そこに晴久が顔を上げたままでいるように、胸元に押し当てていた。

 涙が溢れるのを感じながら「もっと打ってください」とつぶやいた。

「良い心がけだ」
 肩と腰と尻と続けて打つと、割り竹を喉元に当てて、顔を上げさせていた。汗がにじみ、涙で目が潤んでいる表情を見ると、晴久の中にも熱が生まれていた。胸の谷間に差し込み、苦悶の表情を浮かべた多香子に明らかに欲情していた。多香子が体を震わせて、一層表情をなくすと、晴久はこの女をもっと汚したくなっていた。

 流石に肩で息をする様になっていた多香子の胸元を大きく開けて、自分の精を掛けていた。
 晴久は縛ったまま猿轡を外し、多香子を膝枕に乗せて、水を飲ませた。胸元を拭き取ることも忘れなかった。縄をほどき、体も自由にしていた。

 意識を取り戻した多香子は、晴久にしがみつくと言った。
「ごめんなさい。わたし、あなたの事、あの人に言ってしまった。迷惑をかけてしまったら、どうすればいいのかわからなくて」
 もう済んでいることだとは言えず、落ち着かせるためにキスをしてみた。
「そんなことか。多香子が気にすることじゃない。どうせわかることだ。遅かれ、早かれね。あとは君がどうしたいかだろう。もうここに来ないということもできる」
「なんでそんなことが言えるの。さっきは引き留めたくせに。ずるい、ひどい」
「多香子、落ち着きなさい。僕から君と離れることはできないのは、よくわかっているんじゃないか」
「壊されてもいいと思った。そうすれば本当に、あなたのものになれるのに」
「でも、君は壊れずにここにいる。多香子ほどずるい存在はないね」
「わかった。今度こそ晴久のしたいように、してください。遠慮無しで」

 多香子は晴久の笑顔を見て安心していた。

「ありがとう。もう大丈夫」
「夕飯にしよう。ただし食べすぎないでくれ。君の希望通り、遠慮なしで縛り上げるから。それとも星空のもと抱き合うのも良いかな。ペントハウスにベッドを置いてみたんだ」
「スリーベッドルームなんて大豪邸。残念ながら曇り空だけど」
「申し訳ないが4ベッドルームだ。客間があるんだ。それにしても君のその口、塞ぐのはこうするしかないのか」
 多香子の口をふさぎ、中を蹂躙していた。

 たまらなくなって多香子は抱きついていた。すると抱き上げて、エレベーターに乗り、食堂に連れて行った。

 晴久が見せる「男」にいつしか身を任せることを覚えていった。
 どうしようもなく自分は「女」なのだと。

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