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#恋愛

偏見は気づかない×水筒×#B2B2FF

 カシャカシャと軽い音を立てながら、たくさんの書類がコピー機のなかに飲み込まれていく。社内では電子でもいいが、さすがに社外での打ち合わせではまだまだ紙ベースである。基本的に自分のことは自分で、が徹底された社内で、若い女性社員に「これコピーとっていて」をする男は嫌われる。

「渡辺さん、コピー終わりました。」

「よし、じゃあ行きますか。」

 先輩の渡辺さんはいかにも“優男”って感じで、人当たりも

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「やっちまった」×「どら焼き」× #8b968d

「やっちまった」×「どら焼き」× #8b968d

 竹中隼人は落ち込んだ。

『さとちゃんが風邪を引いたので、今日の約束はキャンセルさせてください。本当にごめんなさい。』

 彼が、内藤みゆきにいわゆるデートに誘い始めてから約3カ月。ようやく漕ぎつけた約束だった。しかし、同居人である中川さとみが寝込んでいるというのなら、それを責めるわけにはいかないだろう。隼人は、今頃献身的に看病をしているであろう彼女を好きになったのだから。

 隼人と中川さとみ

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「まぶたが開かない」×「できなかった」× d6adff

「まぶたが開かない」×「できなかった」× d6adff

 やっちまった……。扉を隔てたあちら側から、温かい匂いが漂ってくる。何も言っていないのに、さとちゃんはリビングに続く扉を少しだけ開けてくれていた。風邪のときは、みんな少しだけ心細くなっちゃうから、だって。

 少なくとも、独り暮らしのときの私は風邪をひこうが、寝込もうがあまり気にしたことなかった。寝てれば治ると思っていたし、それはほぼ正解で。常備しておいた薬を飲んで、会社の帰りに買ってきておいたス

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「とりかかるのが遅すぎた」×「板そば」×#adff2f

「とりかかるのが遅すぎた」×「板そば」×#adff2f

「やっぱり板そばはうまいよなぁ……。」

 カイさんは長方形の枠のなかに平たく盛られた蕎麦に、嬉しそうに箸を入れていく。そういえば、カイさんと初めての食事も板そばだった。

 嬉しそうに蕎麦をすする彼を見ながら、ぼんやりと大学時代を思い出す。初めて、カイさんが私をこの店に連れてきてくれたときのことを。

 いつの間にか、この店で二人で食事をとることが当たり前になって、先輩と後輩から友達になって、今

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「眠いのに」×「オーブンレンジ」× #FA8072

「眠いのに」×「オーブンレンジ」× #FA8072

『オーブンレンジが届きました。明日、午前中に私の家にきてコーヒーを淹れてから起こしてください。朝ごはんはイングリッシュマフィンのオープンサンドが食べたい。マフィンは買っておくから作ってください。夜ごはんはグラタンを作ります。』

 久しぶりに、リクから連絡がきた。いつもはこちらから送るばかりで、返信も3回に1回くればいいほうだ。

 こちらが会いたいときに、一方的に待ち合わせ場所と時間を送り付け

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「早く届かないかな」×「やることが多すぎる」×♯DB7093

「早く届かないかな」×「やることが多すぎる」×♯DB7093

 ピン、ポー……ン。

 引っ越して、4年目。最近、うちのインターホンは調子が悪い。もう少し、スムーズに来客を知らせることってできないのか。

やっぱり、大家に連絡したほうがいいのかなぁ。

「はい。」

 こんな時間に訪ねてくるのは、独りしかいない。

「……もし、俺がいなかったらどうしたの、リク?」

「カイさん、ちゃんと居たから、よくないですか?」

 まだ夜は肌寒い。寝間着は半そでに移行し

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「まだ寝ていたい」×「どこで飲むんだろうか」×#add8e6

「まだ寝ていたい」×「どこで飲むんだろうか」×#add8e6

 ふぅーと空に向かって息を吐きだすと、真っ白なふわふわが音もたてずに消えていった。

 冬の朝は、鼻の奥がキシキシと痛む。冷たい空気を思い切り吸い込むと、胸の奥から身体全体を冷やしていくような気がする。グレーの色をまとった街は、いつもよりなんだか静かだ。いつもと同じ時間のはずなのに、曜日によって街は全く違った顔を見せる。

 車移動が当たり前の地元ではわからなかったことだ。仕事が休みの人が多い朝は

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「鍵」×「ゴッホの絵のお盆のランチ」× ♯94251F / しの

 こつん、と乾いた音が落ち着いた茶色のツヤを持つテーブルの上で響く。

 店にいる人たちには聞こえていないのか、気づいていないふりをしているのか。ふと周囲を見渡しても、視線を上げる人はいない。それぞれが手に持ったケータイとか、文庫本とか、そんなものに夢中になっている。
「とりあえず、ランチセットでいい?」
 私の返事を待たずに、彼はさっさと店員に注文をする。Aセット、ドリンクはコーヒー、ホットで。

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「夜は何を食べよう」×「卵」×FFF799

「夜は何を食べよう」×「卵」×FFF799

 例えば、コーヒーを飲み終えたカップに緑茶を注ぐとか、二人しかいないのにポットにたっぷりのお湯を沸かして一気にお茶を淹れてみたりだとか。彼女にはそういう大雑把なところがある。

 だけど、正直彼女のそういうところは嫌いになれないし、というかむしろ好きだし。

 すっかり冷めた緑茶をすすりながら、ペラペラと資料をめくる彼女の姿を眺める。大雑把なくせに片付いている部屋とか、笑うときは口元に手を添えると

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「まどろむ」×「よく聞こえない」× #8FBC8F

「まどろむ」×「よく聞こえない」× #8FBC8F

 耳元で携帯の震える音が聞こえる。
 鼻にしつこいくらいにこびりつく甘い匂いに、思わず眉をひそめた。友人が海外旅行のお土産でくれたトリートメントは、数種類の花の香りがブレンドされているらしい。この調子だと、数日はこの香りに悩まされるだろう。枕にもしっかりと染みついているのが、少し恨めしい。
 開かない目でしぶしぶ携帯の画面をのぞくと、十数件のメッセージが届いていた。

「ミサ、話を聞いてほしい」

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「目が回る」×「ドアに付箋」× #00FFFF

「目が回る」×「ドアに付箋」× #00FFFF

「……よっと、靴多すぎ。ん?」

『玄関に出していていい靴は3足まで。朝香の足は何本あるの?』

 目の前に現れたカラフルなブルーのメッセージにげんなりする。はがすのも面倒だから、そのままにして無理やり足を、たくさんあるうちの1足に突っ込んで玄関を出る。

「説教くさぁ……。」

 朝香の足は何本あるの?母親のような彼の小言が頭のなかをぐるぐるする。

 朔也のメッセージは留まることを知らない。困

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