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大日本末期文学全集

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終末感が滲み出る文章がまとまったら、ここに投稿します。イラストと文を合わせて一つの作品になっていることもあるので、雑誌のような感覚でお楽しみください。
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2023年7月の記事一覧

『何年かかるんだろう』

『何年かかるんだろう』

惑星Xに到着するまで

地球時間であと数ヶ月

僕はそれまでに

このミッションのバディ兼

恋人である

ティーガンにプロポーズをしないと

狭いロケットのなかで

まいにち顔をあわせる

生活を共にして

地球時間で何年も経った

ティーガンのほうから

期待している風もあり

もちろん僕だって

彼女と結婚したいさ

一刻も早く切り出せばいいんだ

僕が勇気を振り絞って

でもひとつだけ

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『僕は酒が飲めない』

『僕は酒が飲めない』

僕は酒が飲めない

だけどアルハラなんておかまいなしに

うちの会社は飲み会の連続

欠席したら立場がなくなる

そんな会社やめちゃえよって?

かんたんに言うなよ

無能な僕が働けるのも

この会社の連中がみんな…

例によって今宵も街へ繰り出す

金曜日だからいつも以上に

その度合いは激しさを増すだろう

なんだかんだで乾杯してしまえば

みんな勝手に酔っ払うから

僕はチェイサーを飲んだり

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『「まぁたしかに、仮に同級生でもねぇ」』

『「まぁたしかに、仮に同級生でもねぇ」』

この家を建ててもう10年が過ぎたか

郊外の狭い土地とはいえ

注文住宅を購入した

私は庭とテラスにこだわり

妻はキッチンと浴室にこだわった

ある昼下がり

私と妻がコーヒーで一服していると

インターフォンが鳴って

薄緑色の作業着姿の

リフォーム業者を名乗る男

いつもならば

門前払いをするところなのだが

高校の同級生Nだ

私はモニター越しに

その男の顔を見て驚いた

何年ぶり

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『そしたら店長からいきなり』

『そしたら店長からいきなり』

新しいバイトないかなって思って

ネット徘徊したり

友達に聞いたりしてて

でもなんかどれもピンとこなくて

最寄駅の商店街のカフェで

けっこうおしゃれなとこあって

わたしたまに行くんだけど

そこで募集してるって貼り紙

時給も悪くないし

面接させてくださいって

レジの人に直接言ってみたの

そしたらその人もバイトで

店長がそのとき居ないから

あとで電話してくださいって

家に帰っ

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『痛ぇ』

『痛ぇ』

痛ぇ

ただただ痛ぇ

全身が痛ぇ

でココはどこよ

あ病院のベッド

あそうだ

兄貴分の結婚式で

俺がしくじったから

ボコボコにさ…

痛ぇ

やっぱ痛ぇ

あれ

病院のベッドじゃねぇな

なんか騒がしいし

おいこれ線路の上かよ

なんかでも果物とか

魚とか売ってるぞ

なんだこれ外国じゃねぇか

東南アジアだなこれは

兄貴の結婚式で

ボコボコにされたあと

病院に運ばれたんじ

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『えっ俳優のWじゃん』

『えっ俳優のWじゃん』

いつもの店の

いつものカウンター席で

いつものように俺が

ラーメンを啜っていたら

隣にすごいイケメンが

座ってきて

えっ俳優のWじゃん

こないだ主演映画が

公開されたばっかりだし

たしか次クールの

目玉ドラマもやるはず

なんでこんな郊外の

冴えない駅の

冴えない店に

ふらっとひとり

何を注文するのか

気になったんだけど

チャーシュー麺と

半チャーハン

んまあ

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『受付の恵美子さんが事務的に断る』

『受付の恵美子さんが事務的に断る』

「あいにく家主は留守にしております」

受付の恵美子さんが事務的に断る

「戻り時刻は聞かされておりません」

たかだかサラリーマンが

定年退職よりもずっと先まで

ローンを組んで

手に入れた一軒家

子供はふたり

妻をふくめて四人の家族

盗むモノもなければ

騙し取るカネもないんだけど

やっぱり自宅に専門の

受付嬢がいるのは

非常に便利で

「宅配便ですね、ごくろうさま」

「ピザ

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『X庵とY家とレストランZと』

『X庵とY家とレストランZと』

蕎麦屋のX庵と

うどん屋のY家は

商店街に隣り合って並び

どちらも名店として

たいへん賑わっていたわけ

マスコミの取材も多いから

近隣のみならず

遠く訪ねてくる客もいて

ただどちらの店も

老夫婦が営んでいたから

そろそろ体力気力が

キツイという話になって

とくに子のいない

うどんのY家のほうは

存続が危ぶまれたんだけど

そこへ蕎麦のX庵の一人息子が

脱サラして修行を

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『在庫』

『在庫』

「あの、すみません」

「はい、お客様」

「これの…ピンクあります?」

「お調べしますね」

「お願いします」

「お客様…あいにくピンクは在庫ございません」

「そうですか…次の入荷は?」

「メーカーのほうでも製造未定のようです」

「残念…カタチが気に入ったんだけど…」

「グレーかブラックでしたら在庫に余」

「いやです!」

「申し訳ございません…では、ホワイトなど」

「白ねぇ…そ

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『だれにも内緒』

『だれにも内緒』

お盆の一週間は

うちの会社は基本的に

全体が夏休みになります

ただ何か緊急事態

たとえば従業員の事故だとか

急ぎ対応する必要のある

大きなクレームなど

そういったときのために

誰かしらが出勤している

そんな必要があって

わたしがまいとし

その当番をしています

代わりに他の時期に

お休みをいただけるので

独り身で故郷もない

わたしにとっては

旅行などをするのにも

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『リストラされるっぽい』

『リストラされるっぽい』

リストラされるっぽい

俺たぶん

リストラされるっぽい

きょう休憩室でぼうっとしていたら

不穏なうわさが聴こえてきて

俺のような無能社員を

けっこうな規模で切るらしい

毎回評点は下位付近

部署のお荷物的存在を

自認せざるをえない

そんな俺なんて

おそらく筆頭候補

思えば入社してから

ろくなことがなかったな

営業の成績は常にビリだった

だから管理部門に回されたけど

いま

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『夏休みの楽園』

『夏休みの楽園』

カネも暇もないから

せいぜい江の島へ連れて行こう

しかし車をどこへ停めよう

あるいは電車で行こうか

砂落とすのとかだるいな

自分が子供だった頃の純粋さはもう

なくなったわけで

妻に至っては

日焼けしたくないから

留守番するなどと言っている

まったく身勝手なものだな

小学生の頃がいわゆる

バブル期の終わりだったせいか

夏休みともなると

毎日のようにどこかしらへ

遊びに連

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『見事に同僚Sの大嫌いな』

『見事に同僚Sの大嫌いな』

同僚のSがありえないことをした

こないだの飲み会でのこと

コースメニューの

唐揚げが運ばれてきて

お偉いさんも居たからか

気の利く奴と思われたい

その一心だと思う

レモンをかけてドヤ顔

いやいやいやいやいや

確認しろよ

俺は唐揚げにレモン

反対派なわけ

他にもいるはずだぞ

冗談じゃないよまったく

この恨みはぜったいに晴らす

そう思った俺は

ちょっと小耳にはさんだ

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『あるオフィス街の片隅で』

『あるオフィス街の片隅で』

クルージング旅行をしてきたからって、あの人ったら会社にお土産を配りに行くってきかないんです。

定年退職をして、少しのんびりして、それからわたしたち夫婦は、長年の夢だった船旅をしてきました。

とても優雅で贅沢な時間を過ごすことができました。ドレスコードとテーブルマナーだけはちょっぴり窮屈でしたけどね。

およそ1か月の旅程を終えて、帰国したんです。滑稽ですね、自宅に着くなり、あぁうちがいちばんな

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