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『えっ俳優のWじゃん』
いつもの店の
いつものカウンター席で
いつものように俺が
ラーメンを啜っていたら
隣にすごいイケメンが
座ってきて
えっ俳優のWじゃん
こないだ主演映画が
公開されたばっかりだし
たしか次クールの
目玉ドラマもやるはず
なんでこんな郊外の
冴えない駅の
冴えない店に
ふらっとひとり
何を注文するのか
気になったんだけど
チャーシュー麺と
半チャーハン
んまあ
この店で頼むなら
別にふつうか
かくいう俺も
ラーメンと半チャーハンだし
俺の他に客はいなくて
注文を受けた女の子は
日本語がカタコトだから
たぶん気が付いておらず
店主に至ってはそもそも
客席に目を向けないから
せっかくだから
声かけてみるかなぁ
でもなぁ
プライベートなら
申し訳ないよなぁ
むしろ人違いであってくれ
そう思って
横顔を確かめる
まちがいなくあの
売れっ子俳優のWだ
あぁ緊張してきた
どうしよう
ところでWさんさぁ
どうして
あと10席はあるカウンターの
いちばん端に座る俺の
そのすぐ隣に
腰を下ろしたわけ?
なんでなんで
これも何かの縁かと思って
俺は思い切って
Wさんですかって
声にしようと思ったそのとき
まるでそれを制するかのように
俺の膝の上にそうっと
Wの手が伸びてきて
ポンポンと俺の太ももを
叩くわけ
えっ
これは
Wの妻はこれまた大物女優のE
まさかそっちのほうの
趣味が…
あってもおかしくないけど
だからって何もこんな
場末のラーメン屋で俺なんか
わからないもんだな
そう思っていたら
Wのところに
チャーシュー麺と
半チャーハンが
給仕されてきて
ぼうっとしている俺のことなど
かまいもせずに
豪快にものの5分でたいらげて
カウンターに札をポンと置いて
出て行ってしまったわけ
俺なんかものすごく
もったいないことをしたかな
そういう性癖はないけど
反応してあげればよかったかな
そんなことを考えて
残りのラーメンを啜ったわけ
いざ食べ終わって
会計をしようとしたら
Wが俺のぶんまで
払ってくれていたみたい
今度の映画は
必ず観に行こう
そう決めたよ