『受付の恵美子さんが事務的に断る』

「あいにく家主は留守にしております」

受付の恵美子さんが事務的に断る

「戻り時刻は聞かされておりません」

たかだかサラリーマンが

定年退職よりもずっと先まで

ローンを組んで

手に入れた一軒家

子供はふたり

妻をふくめて四人の家族

盗むモノもなければ

騙し取るカネもないんだけど

やっぱり自宅に専門の

受付嬢がいるのは

非常に便利で

「宅配便ですね、ごくろうさま」

「ピザですか？お隣さまでは？」

「新聞なんて取りません」

ただのインターフォンよりも

はるかに気が利くし

セキュリティサービスよりも

いろいろやっていただけるし

もちろん番犬を飼うよりも

受付の恵美子さんは

非常にありがたい存在

そんな恵美子さんがなくなって

はや七回忌を迎える

バブル絶頂の頃

一介のサラリーマン宅でも

受付嬢を雇っているのは

めずらしくなかった

わたしたちもすっかり

当時の恵美子さんの年齢

つまりウチで受付嬢を務めていた

その歳を越えて

娘は派遣社員だが

なんとか仕事にありついている

息子の方は

恵美子さんの足元にも及ばないけど

自宅を一日中

警備してくれている

妻は週に二回

デイサービスで

仲間と楽しくやっているようだ

わたしは重い腰をあげて

ほぼ毎日

清掃のアルバイトへ

あぁ恵美子さん

あのときはありがとうね