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掌編小説

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2000字程度で書いた掌編小説をあげていきます。 ここから短編・長編にしていくためのネタ作りの練習も兼ねてオリジナルの掌編小説書いていきます。
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記事一覧

掌編小説⑥「夜空」「時間」「囲い・塀・垣」

掌編小説⑥「夜空」「時間」「囲い・塀・垣」

 仙台駅からアーケードの中を通り、国分町方面に進む。名掛丁、クロスロード、ぶらんどーむと抜け、前方ディズニーストアが右手に見える横断歩道を渡って直進。勾当台公園の手前の商店街、三越とロッテリアの間を通る路地に立ち飲みができるカフェが佇んでいる。
 確かにそこにはカフェがあるのに、あるとき、ふとした瞬間にカフェが不思議な雑貨店に代わっているのだそうだ。
 いつ、どんなときにだけ、そこに雑貨店が現れる

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掌編小説⑤「煙」「言葉」「離れ」

掌編小説⑤「煙」「言葉」「離れ」

おとうさんのケータイがなった。
 いつもおかあさんにするようなはなしかたでデンワをしていたおとうさんをみて、デンワをしているのはおかあさんからなんだろうな。
 おかあさんとはなしたかったけれど、おとうさんはわたしとかわらないまま、デンワをきった。
 そして、わたしとらいねん小がく一ねん生になるおとうとをよんでしずかにいった。

「おじいちゃんが、亡くなった」

 おとうさんのうんてんで、いつもとお

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掌編小説④「星」「家主」「アルバム」

掌編小説④「星」「家主」「アルバム」

 街中のとある住宅街に、個性的な6人の住人たちが住むアパートがありました。
 そのうちの一室には、一人の小説作家が住んでいます。彼女は一人暮らしでしたが、実はもう1人、彼女と一緒に生活する秘密の同居人がいたのです。

「おはようございます、住人さん」
「おはようございます、家主さん」

 それは身長約8cmの一人の紳士でした。

「今日もいい天気ですね」
「ええ、そうですね」

 小さな紳士は、パ

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掌編小説③「北極星」「女の子」「地図・海図・星図」



「あの一番明るい星が見える?」

 星が見える丘の上で2人、無数に輝く星々を地に寝そりながら眺めていた。
 彼女は夜空に瞬く星の中でも、一際煌めきを放つ光に向かって指をさす。

「あれは北極星《ポラリス》っていうのよ」
「ポラリス」
「あの星の下に、ジュリアードがあるって言われているの」
「ジュリアードって?」
「遭難した船乗りのお話のアレだよ」

 それは街に伝わる船乗りの伝説のお話。おと

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掌編小説②「雨」「話す」「机」

掌編小説②「雨」「話す」「机」

 雨が降っている日に、建物の中にいるのが好きだ。
 雨のように、広範囲にわたる何か大きなものから、守られているような気分になるし、曇天で薄暗くなった外とは対照的な屋内の雰囲気の明るさに、胸がどことなくワクワクする。
 それはたぶん、小さい頃の記憶が思い出されるからかもしれない。

 父が、いらなくなった大きめのダンボールを持って帰ってくることがたまにあった。小学一年生の子供が二人入れるくらいの大き

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掌編小説①「海」「少女」

掌編小説①「海」「少女」

 サザン…サザザン…

 何度も打ち寄せる波の音、潮の香り、真っ赤な空を悠々と飛んでいくユリカモメ。私は大海原を前に、1人佇んでいた。潮風にふわりと柔らかく制服のスカートが揺れる。
 湿った柔らかい砂の上にローファーと紺の靴下を脱いだ足をのせて、遥か水平線の彼方に沈んでいく夕焼けを見つめていた。潮の香りが鼻を掠める。しょっぱいと感じたのは海水を飲んだわけではなく、両の目から静かに流れ落ちてきた雫が

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