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詩についての考察(メモ)

詩についての考察(メモ)

私にとって、詩の執筆と写真の撮影は質的に似ている。写真は特定の瞬間におけるモノを記録し、詩は特定の瞬間における自分の感情を記録するからだ。

すると私は感じる。詩はノン・フィクションではないか?と。
写真が編集を経ても被写体を記録しつづけるように、詩はいかなる言語表現を使おうと、執筆の動機になった感情を残す。そしてこの感情は、日常生活の中から生じている。このため、詩はノン・フィクションであるように

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【短編】くそったれ!中学時代

【短編】くそったれ!中学時代

「お前らは黙って掃除することもできねぇのか。グチグチグチグチ見ていりゃさぁ!!」
俺の大嫌いな担任の教師が、湿っぽい中庭で苛立ちを発散させていた。
奴はどこをどう見たってケチだった。別館から校舎に戻る屋根付きの通路から一歩も出ずに、怒鳴り声を3人の女子生徒にぶつけていた。靴を汚したくねえんだな。

「いや別にいいだろ。てかそんなにうるさくなかったし」
俺の隣にいた芳野が小さく言った。
「あいつに聞

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【小説】生命の門 (Soul Food 2)

【小説】生命の門 (Soul Food 2)

001 

そこは比較的白い空間で、これといって目立つものはただ一つ、ロダンの『地獄の門』にそっくりな門だけだった。僕の隣を歩く衛兵は、退屈そうに槍で地面をこつこつと叩く。その音が高く響いていた。

少し開いた門の扉に向かって、川が流れていた。白い空間の消失点から流れてくるようだった。そして薄桃色をした液体の上に、マンゴーのような色をした丸いものが浮いていた。それらはみな、門へと流れて行った。

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なぜ書く・つくる・不安がる(日記)

なぜ書く・つくる・不安がる(日記)

なぜ書くのか。なぜつくるのか。
なぜ常に動いていないと不安なのか。

書くことで、認めてもらいたい。
書くことで、僕のことを知ってほしい。
そうすれば、僕は、永遠の命を手に入れることができる気がするから。
偉人はとても幸せに見える。
彼らは誰かの中で生き続けているから。
それが羨ましい。ありえないほど、羨ましく感じる。

死ぬことが許容できないから、書いている。
ならば、死ぬことを許容できてしまっ

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「wave」を歌っているのは、誰?(日記)

「wave」を歌っているのは、誰?(日記)

ボサノバの曲「wave」をYoutubeで検索すると、この動画が最初に出てきます。僕はこの演奏がとても好きだったのですが、収録されているアルバムを見つけられずにいました。しかし昨日、そのアルバムをほとんど特定できたので、共有します!(1/5)

アルバムの名前は「Páginas da Vida - Nacional」。これは「人生のページ」というブラジルの昼ドラのサウンドトラックで、「wave」は

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「皿を洗ってて、授業に遅れました」(エッセイ)

「皿を洗ってて、授業に遅れました」(エッセイ)

僕が20歳まで住んでいた寮に、インドネシアからの留学生がいた。
よく共用のキッチンで会うので、しばらくしてから話すようになった。

彼と話すようになると、ひとつ面白いことに気が付いた。それは、彼がかなりの時間を食事にかけているということだ。ある日、僕は料理をしている彼の隣でカレーを温め、自室で食べ、オンラインの授業を受け、そのあと、コーヒーを入れるためにキッチンに戻った。すると、彼はまだご飯を食べ

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いいから早く寝てくれ 【ドラマ劇】

いいから早く寝てくれ 【ドラマ劇】


***
第一幕

東京。どこかのアパートの一室。ひとりの男が、茶色い革張りのソファーに座って、窓の外を眺めている。
子ども(男性)がトイレのために、居間を横切る。
 
子ども:まだ起きているの?
 
男:眠れないんだ。珍しく、Lサイズのアイスコーヒーを飲んじまったから。
 
子ども:寝れないって、僕にはよくわからない。僕の眠さを分けてあげたいくらいだよ。
 
男:確かに俺も、子どものころは、いつ

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【小説】水のない海岸

【小説】水のない海岸

九州の片田舎の無人駅は、街と街を繋ぐ幹線道路沿いにあった。
道路にはたくさんの車が団子のように列をなしていて、どれもが異なる地名のナンバー・プレートを提げていた。運転手は誰もが退屈そうな顔をしている。

私は「ボーイスカウト・ろっかく化石発掘隊」と書かれたプラスチックの札を首にかけた小学生の間を縫って、車両の先頭にいる車掌に切符を見せた。無人駅ではこうやって降りるのが通例であるようだ。

当駅での

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【短編】マヨナカ・ランドリー

【短編】マヨナカ・ランドリー

熱い夜だ。こんな日は、誰も格好つける余裕などない。どのクラブにいる女も男も、シャツの背中に卵型の汗ジミを作ることに精進している。

私も「PLAY!」のハートが胸に入ったポロシャツに汗を吸わせながら、乾燥機が終わるのを待っていた。環七沿いの古いコインランドリーには、イケアの青いバッグがあちこちに引っ掛かっている。都市生活者の汗と汚れが、この場所に集約しているのだ。
スマートフォンの画面右上、時刻は

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長い手紙 その1

長い手紙 その1


1. 1954年8月12日

拝啓 

今年も暑い夏ですね。
わざわざ手紙を寄越してくれて、ありがとうございます。夏が始まる前、Rさんに私の居所を伝えておいて、心から良かったと思います。言った通り、私は7月の下旬から、軽井沢の旅館に逗留しています。

あなたからいただいた手紙について、あえてその内容にそのまま触れることはしません。なぜ触れないかは説明が難しいのですが、ここから私が書くことが、回り

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【短編】夏奈のカレー

【短編】夏奈のカレー

執筆年:2024
BGMにおすすめ:Billie Holiday - Solitude

「まーた、訳の分からないものを書いているの?」
背中越しに、夏奈が言った。色あせた灰色のTシャツを手であおいだ後、彼女はベッドサイドの窓に手を伸ばす。
格子状の線が入ったビジネスホテルの窓は、転落防止のためにわずかにしか開かない。けれど、たった5センチの隙間でも、夜の名古屋の空気を感じるには十分だった。車が行

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【短編】 はなむけの言葉

【短編】 はなむけの言葉

執筆年:2024
BGMにおすすめ:Chet Baker - It's Always You

サンダルウッドの香りがした。

どうして私が洒落た名前を知っているのかといえば、あなたが教えてくれたからだ。何気なく入ったデパートコスメの売り場で、TOM FORDの香水を嗅ぎながら、あなたは言った。
「わたし、サンダルウッドが好きなの」
その時あなたは、背中を紐で結ぶトップスを着ていた。それをスリット

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【短編】音楽プレーヤー

【短編】音楽プレーヤー

執筆年:2021 
BGMにおすすめ:OFFONOFF - film roll

 日暮れと共に吐き気を催すような日には、いつもより早く部屋のカーテンを閉じる。
 祖母の家から貰ってきた分厚い緑色のカーテンは、外を飛び交う痛みから部屋を守り、幼い頃に祖母がそうしてくれたように、私を抱きしめる。蠟燭の光が届かない、部屋の隅の暗がり。その緑色を見ているうちに、私は深い深い夜の森を思い始める。少しずつ木

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【小説】水に誘われて

【小説】水に誘われて

 黄土色のごわごわとしたスーツを着た長髪の青年が、運転してきた車を駐車場に停めた。彼は穏やかな手つきで、助手席の中年女性から、茶色い紙に包まれた花束を受け取った。 
 駐車場は湖を走る道路に沿って作られていて、道には観光バスが目立った。エンジンを切られた車のほとんどは、平らで灰色がかった湖のほうを向いていた。青年は首と腕を何度か回してから、花束を覗き込んだ。そこには桃色のチューリップの花が6輪あっ

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