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就職氷河期、宗教2世の悩み、体験の記録

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就職氷河期世代で、宗教2世として生きてきた人間が、これまで体験したことや、思ったことなどの記録です。
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うつ病から復帰した中年がバイト先をクビになる話。

 社員は全員帰った。
 店は九時を過ぎたころから、いつものように訪れる客が多くなってきた。
 飲み会やコンパでもあったのか、周辺の居酒屋などでそれまで飲んでいたらしいサラリーマンや大学生などのグループが、何組か同時にやって来て、あっという間に人がカウンター前に列を作って並んでいる状態になってしまった。
 今日のような週末の夜に、飲んだあとグループでネットカフェに来るような客は、その内一人か二人が店

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小さなリュック

夕方、アルバイトのため職場のネットカフェにいつものように自転車でやってくると、店のあるビルの手前に救急車が一台停まっているのが見えた。

人だかり、というほどではないが、人が十数人ぐらいいて、何かあったのかな、と思ったが、たいして気にとめもず、扉が開いていた救急車の中を見るともなく見ながら、僕は通り過ぎてビルの駐輪場に自転車をとめ、エレベーターに乗って、6階にあるバイト先のネットカフェに向かった。

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コールセンター

コールセンター

目の前にある電話機のランプが、ずっと赤く点滅しつづけていて、早く電話を取れと言っている。赤いランプの点滅は、このコールセンターに着信した電話で、まだ応対されていないものがあるということの知らせなのだ。
僕はすぐさま着信拒否解除のボタンを押し、「お電話ありがとうございます」と言い、見知らぬ誰かの電話に対して応対を始めなければならない。でも赤く点滅するランプの横に表示された、24という数字を見ると、と

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世界は僕に語りかけている。

 いつの頃からか、手足が痺れるようになってきた。
 はじめは気にも留めなかったが、段々と、頻繁に痺れるようになってきた。突然身体の右半分や左半分が前触れもなく痺れてきて、一、二分じっとしていないと、痺れが治まらなくなるようになってしまった。
 いったい自分のからだはどうしてしまったのだろう。
 仕事が終わると、いつも疲れて何もする気が起きないから、食事はすべてスーパーの惣菜や、コンビニ弁当で済ませ

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PERFECT DAYS

PERFECT DAYS

僕は今までと同じように電話を取っている。
いや、今まで以上に、今までより普通に、電話を取っている。僕はかなり自然に、淡々と仕事をこなせている。
はじめのうちは、薬を飲んでも全然効いているとは思えなかったが、しかし今では、まるで違う自分を手に入れた感じだ。
薬を飲み始めると、一日一日と経つごとに、手足のしびれや、背中の痛みが無くなって行った。些細なことでイライラしたり、感情のコントロールが出来ないと

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宗教2世 父親との再会

宗教2世 父親との再会

僕は昔自分が住んでいた家を訪ねた。大学を卒業するまで母と暮らしたマンションだ。あれから七、八年経っているが、懐かしいな、と思いながら、エレベーターで以前住んでいた階に昇った。母と僕が住んでいた部屋はいちばん奥にあるので、廊下を進んで行く。その途中、以前僕が住んでいた部屋の隣にあたる部屋の入口の前に、たぶん家族だろう、ちいさな男の子と女の子を連れた、一人の男の人が立っていた。僕が住んでいたときには見

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世界は僕らの顔をしていない

世界は僕らの顔をしていない

ネットで、うつ病、仕事、採用などとキーワードを入れて検索してみると、僕のようなうつ病歴のある人間を会社に採用しない方法や、職場から自主退職にして追い出すための方法を、社労士や弁護士が企業の人事担当者に対してアドバイスしているサイトが出てきた。
「法的に何の問題もなく、こちらに非はないのですから、わかってもらいましょう」というコメントが書かれていた。
パソコンの画面から目を離して、僕はアパートの二階

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