非正規、うつ病、ひきこもり、そして宗教2世の、「氷河期ヘレンケラー」ともいえる自らの体…

非正規、うつ病、ひきこもり、そして宗教2世の、「氷河期ヘレンケラー」ともいえる自らの体験を主に書きつづる男。団塊ジュニアの悩みのデパート。ロスジェネ世代。1974年生まれ。https://twitter.com/kaorubunko

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  • 就職氷河期、宗教2世の悩み、体験の記録

    就職氷河期世代で、宗教2世として生きてきた人間が、これまで体験したことや、思ったことなどの記録です。

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何の意味もない人生

仕事に追われて原稿がろくに書けていない。何とか書き上げて賞の締切日に提出しようとしていると、携帯に、めったに掛かってこない父親の携帯電話からの着信があった。 出てみると、父親ではなく、知らない男の声で、父親の名前を言い、あなたは息子さんですか、と訊いてくる。 そうだと答えると、いまお父様は病院の集中治療室にいて、心筋梗塞を起こし救急で運ばれて来ています。直ぐに手術を行わないとお亡くなりになられる状態で、手術をしても亡くなられる可能性も高く一刻を争うのですが、(父親が信じて

    • 世界は僕らの顔をしていない

      ネットで、うつ病、仕事、採用などとキーワードを入れて検索してみると、僕のようなうつ病歴のある人間を会社に採用しない方法や、職場から自主退職にして追い出すための方法を、社労士や弁護士が企業の人事担当者に対してアドバイスしているサイトが出てきた。 「法的に何の問題もなく、こちらに非はないのですから、わかってもらいましょう」というコメントが書かれていた。 パソコンの画面から目を離して、僕はアパートの二階にある。自分の部屋の壁や天井を見回した。もう僕を守ってくれるものは、この壁や天井

      • 宗教2世 父親との再会

        僕は昔自分が住んでいた家を訪ねた。大学を卒業するまで母と暮らしたマンションだ。あれから七、八年経っているが、懐かしいな、と思いながら、エレベーターで以前住んでいた階に昇った。母と僕が住んでいた部屋はいちばん奥にあるので、廊下を進んで行く。その途中、以前僕が住んでいた部屋の隣にあたる部屋の入口の前に、たぶん家族だろう、ちいさな男の子と女の子を連れた、一人の男の人が立っていた。僕が住んでいたときには見たことのない人たちなので、僕と母が部屋から出て行った後に、隣に引っ越して来た人た

        • PERFECT DAYS

          僕は今までと同じように電話を取っている。 いや、今まで以上に、今までより普通に、電話を取っている。僕はかなり自然に、淡々と仕事をこなせている。 はじめのうちは、薬を飲んでも全然効いているとは思えなかったが、しかし今では、まるで違う自分を手に入れた感じだ。 薬を飲み始めると、一日一日と経つごとに、手足のしびれや、背中の痛みが無くなって行った。些細なことでイライラしたり、感情のコントロールが出来ないということなども、全く無くなって行った。夜もよく眠れるようになっていたのだった。

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          5本

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          こんなそばに、こんな川が流れているのに

          田舎で、勝手に見合いを画策した母親が、今度は家に来ることになった。実の息子をキツネが憑いていると言った母親が、列車に乗ってやってくるという。 僕の方から電話を掛けた折に、「ちょっとそっちに行くことにしたから」と言い出したのだ。また何かたくらんでいるのだろうか。 「駅まで迎えに行けるだろうか」と言うと、「仕事を辞めてからもう寝てるか起きてるかわからないようなヤツなのだから、来なくていい」と母親は電話の向こうで笑う。 それから数日経って、玄関のチャイムがしつこく鳴り続ける音で僕

          こんなそばに、こんな川が流れているのに

          おっぱいと男

           町のはずれに、ひとりの男が住んでいました。  休みの日、男が買い物をしにオリナス錦糸町に行くと、他の人たちは、誰かと一緒に、みんな仲良く買い物を楽しんでいました。  休憩用のベンチに腰かけた男の前を、みんなが次々と通り過ぎて行きます。誰も、男の方を見ようとはしませんでした。  男は窓から外を眺めました。窓からは大きな公園、錦糸公園が見えました。そこでは野球をしている人たちがいて、みんなとても楽しそうです。 しばらくじっと、みんなが野球をしている様子を眺めて、男がまた前を向く

          おっぱいと男

          世界は僕に語りかけている。

           いつの頃からか、手足が痺れるようになってきた。  はじめは気にも留めなかったが、段々と、頻繁に痺れるようになってきた。突然身体の右半分や左半分が前触れもなく痺れてきて、一、二分じっとしていないと、痺れが治まらなくなるようになってしまった。  いったい自分のからだはどうしてしまったのだろう。  仕事が終わると、いつも疲れて何もする気が起きないから、食事はすべてスーパーの惣菜や、コンビニ弁当で済ませていた。  そのせいかもしれないと思い、生野菜などを買って食べてみたりしたが、状

          世界は僕に語りかけている。

          【氷河期三郎のコンビニダイヤリー/第2回】初日

          夜中のシフトの募集に僕は申し込んだのに、はじめのうちは夕方からはじまる時間のシフトで働くことになった。そこで基本的な仕事を覚えて欲しい、と言われたのだった。これから仕事を教えてもらうという、バイトの先輩は、まだ17、8ぐらいの、男子高校生かな、という感じの子だった。 10も年下か、これが社会のレールから外れた人間が通るという、年下の先輩というやつだ、と僕は思った。僕が20歳の時この子は10歳、小4?と思いながら、氷河期(ひょうがき)と申します、よろしくお願いします、と僕は頭を

          【氷河期三郎のコンビニダイヤリー/第2回】初日

          小さなリュック

          夕方、アルバイトのため職場のネットカフェにいつものように自転車でやってくると、店のあるビルの手前に救急車が一台停まっているのが見えた。 人だかり、というほどではないが、人が十数人ぐらいいて、何かあったのかな、と思ったが、たいして気にとめもず、扉が開いていた救急車の中を見るともなく見ながら、僕は通り過ぎてビルの駐輪場に自転車をとめ、エレベーターに乗って、6階にあるバイト先のネットカフェに向かった。 エレベーターの扉が開き、店の中に入ると、いつもと様子が違うことに僕は気づいた

          小さなリュック

          シカセックス

           きっと一人で宮島に行ったのがいけなかったんだ。その夜から、もみじ饅頭がアパートの部屋の前に置いてあるようになった。もう三日連続で置いてある。もみじ饅頭、クリームもみじ、チーズクリームもみじ、やまだ屋のもみじ饅頭だった。にしき堂でも藤い屋でもない。いったい誰が、部屋の前にもみじ饅頭を。  四日目に、玄関の扉越しに僕は様子を窺った。息を殺して覗き穴から覗いていると、夜遅く、アパートの二階にある、僕の部屋の前の廊下に、にゅっと何かが現れた。覗き穴からの歪んだ視界で、僕は見間違いだ

          シカセックス

          いつかこれを読む君へ

           僕がいまここに文章を書いているのは、この冬に僕はおかしくなって、アパートの部屋にひきこもり、誰にも会わない生活をはじめたからで、いっそのことこれまでのすべてをどこかにあらいざらい書いておきたくなったからだった。正直僕には話す相手がいない。  でも、話す相手がいないと言っても、僕は別に森の中に一人で住んでるわけじゃない。閉めっぱなしのカーテンをめくれば、いくつか建物も見えて、その建物には窓がついている。今は夜だけど明かりがついているものもあるはずだ。周りに人は暮らしてるんだ。

          いつかこれを読む君へ

          誰も見てない

           不幸せな人間は生まれたときからそうなるように決められているのだと、父親は言った。 神さんがそうお決めになられていて、神の世界にあるその人間のノートみたいなものに、そうなる人間のストーリーは、ちゃんとそう記されているのだと。  だから人間の意思などにはなんの意味もない。人がどう思いどうしたところで、結局は神さんの決めたとおり、神さんがお書きになられた運命からは逃れられないのだと。  なんとか助けてもらえないかと、協力を頼みに行った木場に、父親はそう答えた。 人に言ったら笑われ

          誰も見てない

          【氷河期三郎のコンビニダイヤリー/第1回】面接

          アパートを出て、近所のコンビニへ向かった。これから行って面接を受けて、そこで働くことになるかもしれない。今までバイトの面接に落ちたことはないので、おそらく大丈夫だとは思うが、今年で二十七になるので、もしかしたら採用されない、ということもありえるのだろうか。そうでなければ明日ぐらいから、これから行く店で働くことになる。 じょじょに近づいてくる、住んでいるアパートの近所にあるコンビニが、何かへんな感じのものに見えてくる。近所にはあったのだが、行ったことのない店だったので、見慣れ

          【氷河期三郎のコンビニダイヤリー/第1回】面接

          消える

          今死んだらどうなるだろうと、最近考えることが多くなってきた。 夜、コンビニの袋を下げて、ふらふらと近所を歩いているとき。 最寄駅の構内を歩いていて、改札を通り抜けたりするとき。 電車に揺られながら、まだ降り立ったことのない、東京の見知らぬ町をただぼーっとながめているとき。 今死んだらどうなるだろうと、ふっと考えることがある。 いったいあの人はどう思うだろうか。悲しむだろうか。 わたしが居なくなる事で、あるひとつの、無くなる自分の未来を悲しむだろうか、と。 約束が果たされなか

          消える

          見知らぬ町の、見知らぬイオンとかのフードコートで

          日清の調理するタイプの焼きそばを作った。何の加減だか、昔食べてた味だな、と思ったら、その味が、小学生の頃駅前のダイエーで食べてた味だと思い出した。母親と自転車でよくダイエーに買い物に来て、最後にフードコートで一緒に焼きそばを食べていた。親も離婚しておらず、まだ平和だった頃の事を。 母親が買い物をしている間に上のおもちゃ売り場の階に行く時の、言葉にするのは難しい、エスカレーターを駆け上っているときの身体の感じ、プラモデルやゲーム機のカセットをじっと見ていたときの感じ、店の中の様

          見知らぬ町の、見知らぬイオンとかのフードコートで

          真夜中に、誰か訪ねてきた。

          真夜中に、誰かが訪ねてきた。 玄関のチャイムが鳴る。 僕は玄関の扉を見つめた。静まりかえった扉の向こうに、誰か人の気配がする。こわい。夜中にいったい誰だろう。 僕は税金や保険料や光熱費をいっぱい滞納しているから、それの取り立てだろうか。国や県や電力会社などから、真夜中にまで取り立てが来るようなところに、取り立ての権利が移るだなんて、思ってもいなかったのだけど、確認する勇気はなくて、玄関まで行く気にはならない。 こわいので、居留守をつかって無視をすることにした。掛かってきた電話

          真夜中に、誰か訪ねてきた。