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路地裏で揺らぐ -内在性解離の当事者研究-

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精神的虐待サバイバーであり、内在性解離を持って生きる僕たちを記録するエッセイを集めたマガジン。10人のパーツたちがそのときどきで思ったこと、考えたことをまとめている。
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#解離

解離を秘匿しようとする、本能的防衛反応

解離を秘匿しようとする、本能的防衛反応

健忘を伴う解離性障害を持つ人にフォーカスした文章の中で、こんなフレーズを2度ほど見かけたことがある。

「自分が解離しているとは思わなかった。記憶が飛ぶな、忘れっぽいなとは思っていたけれど、みんなこんなものだと思っていた」

自分が解離していることに気づくのは難しいようだ。確かに3大疾病に比べれば、解離の認知度はまだまだ低く、誤解や偏見も多い。だが僕は「解離の自覚のしづらさ」について、他の理由もあ

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【虐待の後遺症と向き合う】サバイバーの陥るジレンマ

【虐待の後遺症と向き合う】サバイバーの陥るジレンマ

回復の途上。どこかで必ずといって良いほど陥るのではないかと思うジレンマに、よくぶつかる。

果てしない「if」を夢想してしまうこと。

もしも、自分が虐待を受けずに育っていたら?

もしも、あの時あんなことが起こらなかったら?

もしも、違う親に育てられていたら?

もしも、被害が続かなかったら?

もしも、もっと早くに対応できていたら?

もしも、もっと早くに知識を得られていたら……

可能性が

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「頭では分かってるけど……」はなぜ起きるのか

「頭では分かってるけど……」はなぜ起きるのか

「こうしたほうがいいって頭では分かってるけど、感情がついてこない」

このような自己矛盾に苦しむことは、よくある。

解離している人の場合、このような葛藤が起こるのには人格(パーツ)が関わっている可能性がある。

ジェニーナ・フィッシャー著『トラウマによる解離からの回復』にあったエピソードをもとに考察してみよう。

より詳しく知りたい方は、(分厚いが)ぜひ本書のほうをご一読いただきたい。価値ある一

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観測者って名乗ろうかな

観測者って名乗ろうかな

ストグラ配信を観るのが最近の楽しみです。

配信を観ると言ってもリアタイはなかなかできなくて、編集されYouTubeに動画として上がったものを楽しんだり、作業BGMのように配信を流しておきながら何かやったりと、まったりペースで楽しんでいます。

以前は好きな配信者さんの配信をなかなかリアタイできないことを気に病んだりもしましたが、今は「自分のペースで楽しめばいいよね、配信者さんは私たちの人生のすべ

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ASDのせいで解離しやすく、ASDのせいで記憶は失わない

ASDの人は解離しやすい、と何かの文献で読み、主治医からも似た話を聞いた。

一方でASDといえども、解離した際に出る症状や解離の様子は定型発達の人と変わらないようである。

https://www.researchgate.net/publication/359815494_Dissociation_in_Autism_Spectrum_Disorders_An_Under-Recognized

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名前と自己の境界線【僕とパーツの人生紀行】

名前と自己の境界線【僕とパーツの人生紀行】

こんにちは。亜麻です。

人間だれしもがそうであるように、私たちも矛盾を抱えていると思います。

私たちが抱えている矛盾は主に「名前」に関するものです。

私たちは主さん(本名)ではなく、パーツ(人格)それぞれの名前を持っています。

でも滅多にその名前を声に出すことはありません。

思ったり、書いたりするだけ。

「ああ、今直也が昼寝しに行こうとしてるな」とか、「賢也(監理者くん)があれこれ計画

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私的:なぜ解離性障害の情報が少ないのか

私的:なぜ解離性障害の情報が少ないのか

こんにちは。亜麻です。

※この記事は私の考えていることを記述したものであり、どこまでいっても個人の意見以外の何物でもありません。よって健康・体調等への責任は負いかねます。
より正確な情報がお知りになりたい方は学術記事や信頼できる書籍・医師専門家の診断等別の情報源に当たられることをおすすめします。

「私たちって解離してたんだ!」
と気づいた直後、「解離」についての情報を集めまくるブームが到来して

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止まった時計【エッセイ】

止まった時計【エッセイ】

「解離」が現実から、今・ここから意識が離れることだと表現するなら、フラッシュバックはタイムスリップとほぼ同義だろう。
僕たちは何度も「無数のあの日、あの時」を追体験する。鮮明に。詳細に。
タイムマシンが発明される前に、人類は思考の中でのタイムトラベルを可能にするのかもしれない。

閑話休題。

最近、怒りという感情の扱いに困る時期を過ごした。

ままならないことが起きると瞬間的に苛立ちが湧く。

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解離の自覚の中に埋もれたスキル

解離の自覚の中に埋もれたスキル

直也です。

僕たちは解離している。
11~13人のパーツたちで協力しながらここまで生き延びてきた。

それを自覚できたことを僕たちはポジティブに捉えている。
自分たちの行動原理に理由を見出せることは安心材料だし、「では、この先どうしていけば僕たち全員が生きやすくなるか」を考えることにも進めるから。

パーツたちの利害が知らぬ間に対立してしまい自己矛盾に苦しむことや、亜麻の持ち物を「監理者」が勝手

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和解を「あきらめ」て先へ進むことにした。

和解を「あきらめ」て先へ進むことにした。

「いつか分かり合える」という幻想心象風景は特別な意味を持っていると思う。

子どもの頃から今に至るまで、長い時間もち続けてきたイメージ。概念。
それは精神構造の一部に組み込まれていて、無意識のうちに考え方のクセや願いの土台になっているものではないだろうか。

僕は「和解」の心象風景を持っている。

さまざまな誤解や苦難やトラブルを乗り越えて、家族や友達は物語の最後に和解することができるのだ。

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書けなくなった僕たちが、再び書くためにやったことやめたこと

書けなくなった僕たちが、再び書くためにやったことやめたこと

物語を書くことは、約20年も続けている僕たちの趣味であり仕事だ。
「書く」ことと「生きる」ことはほとんど並列のニュアンスを持っている。

それなのに、いつからだろう。
気づいたら「書く」ことに追われていた。追われていることに気づいた。

書きはじめた頃、もっと純粋な楽しさだけがあったんじゃないか。

今目の前の原稿に追われている、この気持ちは楽しみではなく義務感だ。

書くのと同時進行の文章批判が

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「夜ふかしさん」と僕

「夜ふかしさん」と僕

どうも。直也です。

「夜ふかしさん」最近「夜ふかしさん」の存在に気づいた。累計で12人目のパーツだ。

「夜ふかしさん」は8歳の女の子で、20時を回った頃になると出てくる。
彼女はいわゆる「リベンジ夜ふかし」を担当しているようだ。

※リベンジ夜ふかしとは

発達障害の特性を持つ人に多い夜ふかしの形。昼間に家事や仕事などの「やるべきこと」に忙殺されて自分のやりたいことがおろそかになった時、睡眠時

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久々のフラッシュバックと新しい対処の記録

久々のフラッシュバックと新しい対処の記録

直也です。

※タイトルの通り、フラッシュバックにまつわる記述がある。
心の元気な時にご一読いただくことをおすすめする。

先ほどひどいフラッシュバックに襲われた。

きっかけはある意味何気ないことで、この時一緒にいた相手に非はない。
たまたま僕たちの方で、それが地雷だっただけだ。

目の前の食事が「食べモノ」として認識できなくなり、つい1秒前まで存在していたはずの空腹感は消失している。
久々に直

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生まれた理由が自分への優しさをくれる

生まれた理由が自分への優しさをくれる

どうも。直也です。

ジェニーナ・フィッシャー著『トラウマによる解離からの回復』に、印象的な記述があった。

パーツ(解離人格)たちはなぜ生まれるのかという話だ。

ジェニーナさんは、主人格を守るためだと書いている。

「自分」を守るため、過去あるいは現在の過酷な状況を生き延びるための手段として、自分を分裂させる。

振る舞いや特性、場合によっては記憶までをも分担する。

自衛のためという、シンプ

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