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稲本稲三
2021年2月17日 20:49
「ケンリュウのバッティングって、当たるときと当たらない時の差、ヤバくない?」「アイツ、安定しないよなー」「ぶっちゃけ言っていい? 下手くそ!」「ハハハッ!」ケンリュウが誰なのかを知らない竜一は、ただただ、二人の会話を聞きながら歩いていた。毎朝、千田と周太は、誰かの悪口を楽しそうに言っている。その人物は、竜一が見たことのない他校の生徒、竜一が授業を受けたことない先生、竜一が喋ったこ
2020年12月29日 22:44
朝の学校。涼しい風が吹いた快適な教室に、誰よりも早く入った。誰もいないせいか、教室のすべての窓を開けると、吹き抜ける風が気持ちよかった。スカートがめくれても気にしなくていい。一応、中にスパッツを履いているので心配はないが、大胆にスカートがめくれているのは恥ずかしい。さらに言えば、大きく両手を広げていることも恥ずかしいことだ。しかし、こんな快適空間でこれをやらずにはいられない。「おい、どうし
2020年11月1日 15:15
「大和、なんで東京タワーなの?」「なんとなくだよ。違うとこがよかった?」芝公園駅から東京タワーまで歩くのは、これが2回目だった。初めてこの道を歩いた2年前は、莉音が隣にいることに緊張して、震える手をポケットにしまって歩いた。今日は高梨がいるせいか、あの時の緊張はない。「ううん、私は東京タワー好きだよ。高梨くんは、東京タワー見飽きてるもんね?」「まぁ、俺の小学校がこの辺でさ、毎日東京
2020年8月12日 17:17
寒さで手がかじかんでくる。クーポン付きのチラシを持つ握力すらも、そろそろ力尽きてきてしまいそうだ。冷たい風が半袖の隙間から入ってくるたびに、全身に鳥肌が立つ。「クーポン付きチラシをお配りしております。よろしくお願いします!」何度頭を下げても、分厚いコートを着たサラリーマンは、私の前を通り過ぎていくだけ。子供連れのお母さんは、私を視界にすら入れてくれない。チラシ配り開始から1時間。手持ちの8
2020年5月30日 10:06
面白くなりたい。それが、僕の大きな目標だ。僕の人生はこれを必死に追っている。だって、面白ければ辛いことを忘れられるじゃないか。笑って生きていけるじゃないか。ただそれだけなんだけど、僕は面白くなりたい。僕の学生時代は最悪だった。中学三年の時、両親は離婚してしまった。僕と兄は父に引き取られ、三人で生活をすることになった。そして僕が高校生になり、三つ上の兄・章介が高校を卒業してからはさらに酷くなって
2020年4月8日 15:14
今日は、短編小説『独りごつ』をお届けします。この作品は、僕が18歳のときに書いた作品です。自分の身を取り巻く環境や、未来への不安を感じ、深夜にも関わらず、衝動的に筆を走らせたことを今でもよく覚えています。なお、この作品は、沖縄県の学生コンクールで優良賞を受賞しました。読んだ人からは、「涙が出た…」「考えさせられた、ありがとう」「自分の中にも、住民Aと住民Bがいるのかも」などの言葉をいた
2020年3月20日 20:04
「ラジオネーム、モモンガ太郎君」えっ、読まれた。しかも、初投稿で。僕はラジオのボリュームを上げ、イヤホンを鼓膜に近づける。「僕は、県外の大学に進学するので、あと1週間で生まれ育った家を出ます。そこで、女手一つで育ててくれた母に、感謝の気持ちを込めて、何かプレゼントをあげたいと考えています。母は来月再婚するので、結婚祝いも兼ねた豪華なプレゼントにしたいです。しかし、何をあげたらいいかが分かり
2019年12月3日 14:18
「今までの中で、一番好きかもしれない。これ、本当に」親友の風間は、俺の熱弁を聞いてはくれるが、どこか疑っているようだった。「お前、惚れやすい性格だからな。いくら麻里のことが好きって言っても、所詮すぐに諦めるんだろ?」確かに風間の言う通り、俺はすぐに人を好きになる。しかも、すべて失敗してきた。「でもな、今回は少し違ってて、明日、デートすることが決まってるんだよ!」俺の自信に満ち溢れた声に、
2019年11月14日 12:21
「それでは、新婦の入場です!」啓太の声でドアノブのついた扉が開き、私は啓太の元へゆっくりと歩いた。「新婦の薫さん、すごくきれいですね。見れば見るほどうっとりしてしまう、そんな美貌を持ち合わせています」啓太は扉のすぐ近くで私を迎え、会場を盛り上げるための言葉を連発している。自分の恋人に向かってそう言われるのはとても恥ずかしい。いや、この人が自分の旦那だと思うと、すごく嬉しくなった。「
2019年11月9日 12:24
ここで、一つ問題があることに気づいた。俺はナナコさんを、どう呼べばいいんだ? これまでにナナコさんの名前を、本人に向かって呼んだことがない俺が、どう呼ぶのが正解なんだ? ナナコ、ナナコさま、ナナちゃん、ナナコさん。君にいろんな呼び方があることは知っている。しかし、自分にちょうどいい加減の呼び方は知らない。「ナナコ。ナナコ」俺の後ろで声が聞こえた。一瞬、体が反射的に震えたが、俺に対して話しか
2019年11月8日 16:28
今、俺の右には女神がいる。女神の名前は相川奈々子さん。同い年だが、さん付けしたくなる。黒板を見ようと思えば、ナナコさんの横顔を見たいという気持ちと葛藤し、少なくとも4秒間は、その美しさに目を奪われてしまう。白い肌をベースに均整のとれたつぶらな瞳と高い鼻、少し外国人チックでもありながら、日本的なおしとやかさも兼ね備えている。チラチラと見れば見るほど、緊張感が増してくる。誰にも邪魔されずにナナコさんと