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隣のナナコさん(前編)

今、俺の右には女神がいる。女神の名前は相川奈々子さん。同い年だが、さん付けしたくなる。黒板を見ようと思えば、ナナコさんの横顔を見たいという気持ちと葛藤し、少なくとも4秒間は、その美しさに目を奪われてしまう。白い肌をベースに均整のとれたつぶらな瞳と高い鼻、少し外国人チックでもありながら、日本的なおしとやかさも兼ね備えている。チラチラと見れば見るほど、緊張感が増してくる。誰にも邪魔されずにナナコさんと喋れる今、何かを喋りたいんだが、全然思いつかない。しかし、今喋らないと、何にもはじまらない。

 そうだ、鉛筆を忘れたふりをしてみてはどうだろう。そうすればナナコさんと間接的に手を握ることにもなれるし、会話をすることもできる。しかし、もう4時限目だというのに、このタイミングだけ鉛筆を忘れるなんて、かなりわざとらしすぎる。しかも、授業は20分過ぎたところだ。今更その話題を使うのは、苦しいかもしれない。ましてや、間接的に手を握るなんて発想が、気持ち悪すぎる。

ならば、この問題が解けないフリをして、教えてもらうってのは、どうだろう? それならとても自然なことだし、ナナコさんと距離を近づけて、次第に会話も生まれやすい。しかし、これで俺が、頭が悪く見えてしまうのは、ちょっと嫌だ。頭の悪いヤツなんて、それだけで面倒に思われるだろうし。そもそも、ナナコさんがその問題を解けなかったらどうする? それで俺の後ろの席にいる、岩井というクソメガネに、俺も教わざるを得ない状況になり、俺はバカにされた上に、岩井はナナコさんに尊敬されてしまったら、どうすればいいんだ。

岩井は、顔は良くないが、勉強はそこそこできる。だからなのか、授業中だけかけるメガネが妙にムカつく。普段から人を下に見てくるが、何も気にしていないため、女子とも簡単に喋れる。アイツのその能力だけは分けて欲しい。そうすれば、こんなに苦労しないのに。
   
そうだ! 何かを落として拾ってもらうってのはどうだろう? 分かりやすく足元に消しゴムを落として、それを拾ってもらって…。これだ。これなら、自然と会話をしなくてはならない雰囲気になる。
余計なことを考えてしまう前に、しっかりと足元に落とすぞ。俺は机の右端に消しゴムを置き、ゆっくりと手の甲で払う。消しゴムは華麗に3回転ほどして、ナナコさんの椅子の下に転がっていった。

「よし」

思わず小さな声で呟いてしまった。俺の悪い癖で、思ったことを表情や口に出してしまうことがある。慌てながら、誰にも聞かれていないか、ゆっくりと首を回したが、先生の授業をつまらなそうに聞いていたり、授業の邪魔にならない程度に、談笑を楽しんでいるヤツらでいっぱいだった。

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