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輝かしくも痛々しい僕ら

「今までの中で、一番好きかもしれない。これ、本当に」
親友の風間は、俺の熱弁を聞いてはくれるが、どこか疑っているようだった。
「お前、惚れやすい性格だからな。いくら麻里のことが好きって言っても、所詮すぐに諦めるんだろ?」
確かに風間の言う通り、俺はすぐに人を好きになる。しかも、すべて失敗してきた。
「でもな、今回は少し違ってて、明日、デートすることが決まってるんだよ!」
俺の自信に満ち溢れた声に、風間は少し心を動かされたようだったが、すぐに消極的なことを言い始める。
「そっか。でもな、デートって思ってるの、お前だけじゃないのか? あんまりいい話だと思いすぎない方がいいぞ」
「心配してくれてありがとう。でもな、俺はこれで告白することを決めている。ここで、麻里に伝えようと思ってるんだ」
俺の勢いに押されるがまま、風間は何度も頷いた。
「そうかそうか。じゃあ、心していかないとな。麻里って結構、倍率高いから、デートにこぎ着けただけでもすごいことだと思う。しかし、何かしくじると厳しそうな気もする。俺は昔、アイツのこと好きだったからわかるんだ。まぁ、頑張れよ」
「そうだったんだな。じゃあ、お前の仇も討ってくるわ」
「そうしてもらえると、俺としては嬉しいぜ。まぁ、もう俺は他の女がいるから何とも思ってないけどな」
バカにしたように笑う風間に、少し腹が立った。
「そうだそうだ。十分幸せじゃないか。じゃあ、明日は俺だけの勝負だ!」
それを聞いた風間は、明らかに期待していない笑みを浮かべた。恋に意気込む俺を、懸命に応援するわけでもなく、ただ見つめてくれる風間の姿勢に毎回助けられている。これがダメでも、またアイツのとこに戻ってくればいい。そう思いながら、明日に向かっていった。


「もしもし。ダメだったわ」
俺は結果報告をすぐに風間に伝えた。
「そうか。まぁ、しょうがない。アイツの人気からしたら、俺やお前が太刀打ちできないってことだったんだ。仕方ねぇよ。」
風間らしく、自分を含んだ優しい自虐ネタにしているつもりなのかもしれない。でも、今回の俺は違った。
「もう、無理だよ。明日、学校に行けない」
真っ暗な部屋にいる俺は、部屋の電気をつける気力すらも残っていなかった。
「そっか。でも、学校には来い。とりあえず明日、学校でその話を聞かせてくれ」
風間も、いつもとは違った。自分も過去に好きだったという事実から、俺に同情してくれているのかもしれない。しかし、その同情すらも、俺にとっては迷惑だった。

 次の日、俺は何とか気力を振り絞って学校に行くと、教室には人だかりができていた。「今から、屋上から愛を叫びます」
それ以上に具体的なことは書かれていなかったが、その筆跡から察するに、風間が書いたものだったことは間違いない。俺は人だかりができているグラウンドに向かって走り、屋上を見上げた。
「今から、告白しまーす!」
風間は、グラウンドの人だかりに向かって、大声で喋り始めた。
「相手は、相内麻里さんです! 単刀直入に言います。付き合ってください!」
グラウンドの人だかりは、歓声を上げている。その人だかりの中にいた麻里は、ひと際注目を浴びていて、どう返事するかの反応に問われていた。
「お前となんか付き合うかよ!」
麻里の隣にいた、同じクラスの太っている女子が、お腹の底から声を上げていた。
「お前に訊いてないでーす!」
風間は打ちのめされることなく、その女子に言い返した。
「麻里が大きい声で言えないから、私が代わりに言ってるんだよ! それぐらいも分からない男に、麻里は無理なんだよ! 本当に最低! 私もあんたを軽蔑する!」
グラウンドにいた野次馬たちも、太っている女子の味方になりかけていた。
「だから、お前には訊いてないです!」
風間はそいつを敵に回してまで、自分の告白の返事を求めた。
「風間くん、嫌い!」
麻里の声がグラウンドに響いた。それは、太っている女子の声よりも小さかったが、グラウンドにいる人たちには確実に届いていた。
「わかった! なんか、ダメっぽいね。皆さん、ありがとうございました。以上です!」
風間は傷ついた様子も見せず、屋上から去った。


 教室に戻ると、そこに風間の姿はなかった。今朝のことで生徒指導室に呼び出されたらしい。
「すみません、遅れました」
風間は後ろのドアから入って来て、いつも通り、俺の後ろに座った。
「風間、ちゃんと反省しろよ。それでは、今日の連絡事項をお伝えします」
教師の適当な一言があったが、風間は聞いていない。
「岡田、俺、無理だったわ。見てた?」
俺の肩に手を置いて、軽い口調で言った。
「なぁ、なんであんな事したんだよ?」
俺は、風間のヘラヘラした態度から、完全に俺をバカにしていたと思った。
「言っただろ? 俺も麻里のこと好きなんだよ。ただ、お前が好きそうだったから、諦めてたんだ。だから、告白することにした。まぁ、俺も無理だったけどな」
その時の風間は、本気で落ち込んでいた。自分のしたことを恥じている。
「元々、告白する前に諦めてたんだけどさ、お前がフラれたから、俺ならイケると思ったんだよ。だってこの学校でお前の次に、付き合うべきなのって俺しかいないだろ? そしたら、この有様だ」
理解できるように、じっくり話を聞いていたが、その道理がよくわからない。風間は、どうにか自分のことを明るく話そうとしているのかもしれない。
「言っとくけど、お前より恥かいたの、俺だぜ? だから、お前は俺よりは悲しむなよ。っていうか、恥だけでなくいろんなものを失ったんだけどな」
風間は、この告白でいろんなものを失った。みんなからの人気、教師からの信頼、彼女からの愛情、その全てを失った。こんなリスクのあることを俺のためにするわけがない。風間は、本気で失恋をしたんだ。そして、俺から悲しみを奪ってくれた。
「ちなみにあのデブは、お前のことが好きらしいぜ」
風間の指を差した方向には、麻里の気持ちを大声で叫んでた、あの女子がいた。
「勘弁してくれよ。お前のこと嫌いなヤツは、無理なんだよ」
俺がそう言うと、風間は嬉しそうに笑っていた。

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