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小説【月並な話】

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-本が好きなあなたへ。少し毒のある物語を- 140字以内の掌編作品たち。 『読みたい』はこちらで!
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🌛月並な話 vol.29【ジャングルジム】

🌛月並な話 vol.29【ジャングルジム】

ジャングルジム
夜の小学校に忍び込んでジャングルジムに登った。
月明かりに照らされる横顔が妙に漫画みたいでおかしい。
話続けるうちに空が淡いオレンジに包まれていく。君の長い髪がふわりと揺れて甘い香りがした。
そろそろ帰ろうか。
そう言いかけて、僕は口をつぐんだ。
無機質なジャングルジムが僕らを支えていた。

🌛月並な話 Vol.27 【三番線】

🌛月並な話 Vol.27 【三番線】

三番線
同じ時間。いつもの駅。 今日から新学期。この車両に彼は乗ってくるだろうか。
私はブレザーだけど、彼は学ランがとても似合う「ドアが閉まりまーす」
ドンと衝撃でイアフォンが外れた。
「すみません!」
学ランの彼を背中に感じる。鼓動が早くなる。
はめ直したイアフォンからは大好きな曲が流れていた。

🌛月並みな話 vol.26 【ジェリーフィッシュ】

🌛月並みな話 vol.26 【ジェリーフィッシュ】

ジェリーフィッシュ
目の前には、たくさんのミズクラゲが浮かんでいた。透明なジェリーに鮮やかな照明が反射する。
「綺麗ですね」彼はそう言ったきり。
私たちはずっと水槽を見ている。
突然シャッターをきる音がした。
「やっとこっち向いた」彼は照れくさそうに言う。笑顔を青い光が照らす。
水槽の前、初めて手をつないだ。

🌛月並みな話 vol.23 【色を置く】

🌛月並みな話 vol.23 【色を置く】

色を置く
恐ろしいほどに真っ赤な太陽を2度みたことがある。中国の夕焼けとトルコの朝焼け。
今でもはっきり浮かぶ。
目に飛び込んでくるほどの赤。
炎で覆われた街並みに、一人残されたような赤。
赤は私を捕らえ、私は全てをキャンバスに落とす。
ご飯を食べるように
眠るように
誰かを愛するように。
私は色を置く。

🌛月並な話 vol.22 【夕やけ図書館】

🌛月並な話 vol.22 【夕やけ図書館】

夕やけ図書館
夕やけ図書館で本を読む。
もうどれくらい時が経っただろう。
今日も貴方が本を借りにくる。
忘れていた自分の記憶の物語を借りにくる。
関連本も2つ、3つ。
悲しい話だから、あえて貸し出ししない本もある。私は貴方の為に本を読んでいる。
貴方がいつ来ても良いように、
夕やけ図書館はいつも開いている。

🌛月並な話 vol.21 【あじさい】

🌛月並な話 vol.21 【あじさい】

あじさい
あの人は母親というより一人の女だった。
楽しかった思い出もあまりない。
庭に咲く紫陽花。
あの人が育てていた花。
ずっと好きになれないまま、母は死んだ。
「お母さーん」
庭で娘がカタツムリを手に乗せて笑っている。
自分が親になってみてわかる事もある。
「今行くよ」
紫陽花は今年も綺麗に咲いている。

🌛月並な話 vol.20 【ニョッキDAY】

🌛月並な話 vol.20 【ニョッキDAY】

ニョッキDAY
木曜日はニョッキの日。私はそう決めている。
ニョッキを食べると良いことがあるから。
今日は彼に告白をする。
いつもの倍ニョッキを食べた。
ニョッキを食べると良いことがあるから。
タッパにニョッキを詰めて彼に持って行こう。
チーズ味とトマト味。
まるで私たちみたいじゃない?
第一声はこれでいこう♪

🌛月並な話 vol.19 【祷り】

🌛月並な話 vol.19 【祷り】

祷り
黄色い絨毯はイチョウの葉だった。
山々が秋で染まる頃、私は踊る。死者の為に。
戦で死んだ者、病に倒れた者、身寄りのない死者の鎮魂の為に、夜通し舞い続ける。
山の神をこの身に宿して。
死者の無念に寄り添うように。
残された者の悲しみを拭うように。
朝焼けが全てを包み込むまで
私は祈り続けるのだ。

🌛月並な話 vol.18 【告白】

🌛月並な話 vol.18 【告白】

告白
「恭子さん。僕は君のことが・・・」
・・・何してる。ちゃんと言え。
告白する為だけに俺は、筏で大海原を渡り、素手で3000mの山を登り、鰐のいる川を全裸で泳ぎきり、毒蜘蛛の潜むジャングルを進むこと2週間。
もう小1時間、君を待たせている。
「恭子さん、す・・・す・・・寿司だと何がスキ?」

🌛月並な話 vol.17 【ある神の創造】

🌛月並な話 vol.17 【ある神の創造】

ある神の創造
ある神様が神業界で話題の神Wi-Fiを使って宇宙をダウンロードしようとした。
しかし、神様の家のネット環境が悪く、朝まで経ったが全くダウンロードが終わらない。
いい加減見ているのも飽きて、神様は放置した。
それでも世界のダウンロードは続いている。
「ロード中」の回転はやがて大きな黒い渦になった。

🌛月並な話 vol.16 【子供らしく】

🌛月並な話 vol.16 【子供らしく】

子供らしく母と手を繋ぎ、齢3歳になる私は考えていた。
母は私に「お空の雲。ソフトクリームみたいだね」と言った。
だが、雲は上昇気流によって惑星表面の大気中に浮遊する水滴や氷の粒のことであり、
冷たくはあってもソフトクリームではない。
そう思ったが、
「わーおいしそう!」と子供らしく元気にいってみた。

🌛月並な話 vol.15 【天才の苦悩】

🌛月並な話 vol.15 【天才の苦悩】

天才の苦悩
ある日急に、部屋の色がうるさく感じた。
色のついたものは全部捨てて
カーテンや椅子も白くした。
これでやっと集中できる。
そう思ったら、今度はチクタク、時計の音がうるさくなった。
時計を壊し、準備は整った。
真っ白な部屋に静寂が戻る。
この部屋には私とピアノだけ。
これでようやくピアノが弾ける。

🌛月並な話 vol.14 【ペトリコール】

🌛月並な話 vol.14 【ペトリコール】

ペトリコール
差した傘が水滴を弾いて、激しい音を立てた。
こんな天気の時は、母さんはずっと家に居てくれたし、機嫌がいい時には黄色いレインコートを買ってくれた。
僕は毎日逆さまのてるてる坊主を作って吊るす。
優しい母さんが好きだった。
どこからか土の匂いがする。
服が冷たいけれど僕は外でずっと待っている。

🌛月並な話 vol.13 【歯車のまち】

🌛月並な話 vol.13 【歯車のまち】

歯車のまち
その街は歯車でできていた。
あちこちで蒸気が上がり、クレーンや鎖の動く音がする。ブリキの魚が空を泳いでいる。
僕と妹は廃棄された鉄の山で遊んだ。
ネジやナットを拾い上げては合うか確かめてみる。「お兄ちゃーん」
見上げると、大きなキャタピラが山に刺さっていた。今日の寝床はここが良さそうだ。