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#note
デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで
★協定その七:この家の他のことについては一切聞いてはいけない。
「また旅行?」
甲野さんはクローゼットからシャツ三着と薄手のセーターを取り出すと、出したそばから次々にベッドの上へと水平に投げつけていた。手から離れたシャツとセーターは、うすっぺらい放物線を描いて真新しいベッドの上、既に下着が置いてある横へと無事着陸。早くも入荷したてのセミダブルのベッドを、甲野さんはここぞとばかりに使い倒している
デリカシーの欠片すら持たない、ぼくが僕になるまで(幼少期⑥)
★ぼくはシェフ。母さんのために料理を作る。
「ベーコンある?」
「ないわ」
「たらこ」
「うーん」
「粉チーズは?」
「たぶんあったと思うけど」ぼくの代わりに母さんが冷ぞう庫をのぞきこむ。ひょっとして母さんなら見つけられるかもしれない。なにせ冷ぞう庫内の食材の配置については、この家の誰よりも詳しいはずだから。けど、もし見つかったとしてもそれって見つかったって言えるのか、それだけが心配だ。ある程度
ぼくが僕になるまで(幼少期④)
★ぼくは誰のために生きている?それが分かっている人は幸いだ。
リビングでは父さんと母さんが向かいあって話してた。まるで作戦をねってるみたいに、こぶし一個分の距離で話してる。にっくき相手のチームには聞かれないよう、内輪だけでの作戦会議だ。ぼくはそれを横目にすり抜けて、キッチンに向かった。
その時、マコト、とリビングから呼びかけられた。担任の先生みたいにしっかりとした発音だ。声のした方へぼくは顔