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福祉の仕事

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仕事中に気づいた発見や喜びを書いています。
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2022年10月の記事一覧

それは恋に似ている

それは恋に似ている

夕方、一人で仕事をしていると
リーダーがやってきた。

 
「お願いがあるんですけど、給料計算確認してもらえますか?代わりに、今真咲さんがやっている仕事、俺がやりますから。」

そう言われた。
給料計算は基本、二人でやらなければいけない。

 
私は私でこう言った。

「代わりに、私もお願いしていいですか?印刷機やパソコンの設定が直せなくて。」

 
リーダーがまだ送迎に行っている間
私はそれで四

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六葉をもらった日にあった出来事

六葉をもらった日にあった出来事

「これ、あげる。」

そう言って利用者Aさんは私に六葉のクローバーをくれた。

 
「四つ葉だよ。」

そう言って笑う利用者に
あえて六つ葉とは言わなかった。
葉っぱが二つ多いのなら
より幸せが舞い降りてきそうだ。

 
「スマホケースに入れてね。」

Aさんは尚も言う。
私が利用者からもらった手紙等はスマホケースに挟むことを
Aさんはよく知っている。

 
Aさんと私は停車した送迎車に乗り
他の

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残飯を食べた後に感じたこと

残飯を食べた後に感じたこと

午後の作業中
利用者Aさんが席を立った。
いつものことだ。

Aさんはしょっちゅうトイレに行く。
トイレがマメというのもあれば
集中力がもたないのもある。

だからその日も特に気にかけていなかったのだが
キッチンで残食をあさっていると他の同僚に聞き
私は新施設長らに報告した。

前の職場や今の職場で残飯をあさる利用者はいるが
Aさんがそんなことをするのは初めてだった。

だが確かに
今日はやたらと

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一日一緒に作業をした日

一日一緒に作業をした日

利用者Aさんが寝ていた。

「Aさん!起きて!ポスティングだよ!」

私はAさんを揺り起こす。

 
「なんだよ、真咲。なんの用だよ?」

名字呼び捨ては珍しい。よっぽど眠いのだろう。

 
「仕事だよ、仕事!」

私はなおも言う。

 
 
その日はポスティング作業だった。
利用者AさんとBさんと私の三人で出発した。

Aさんは足が早くて
Bさんは足が遅い。

 
Aさんはサッサと歩いて配るが

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走らない買い物

走らない買い物

私の職場は
毎週月曜日にお昼を買いに行く。

どこのお店に行くか、誰と行くかは毎回異なる。

 
「今日真咲さんは利用者Aさんとお願いします。」

そう言われて
ついに来たか、と思った。
ついにだ。

 
私はAさんと月曜日に買い物に行くのは初めてだった。

 
数々の伝説は聞いている。

店内を走りまくり
お弁当や惣菜などの蓋を触りまくり
お気に入りの店員さんの元へ行き、過剰に挨拶し
職員が止め

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映画を見に行った日に再会した

映画を見に行った日に再会した

休みの日に映画を見に行った。

映画エンドロールの後、私はサッサと立ち去るタイプなのだが
その日はアンケートのQRコードが最後に表示され
私は立ち止まり、アンケートに答えていた。

 
すると、聞き覚えがある声が聞こえた。
顔を上げるとそこには
前の職場の利用者がいた。

髪型も洋服もしゃべり方も昔と何も変わらない。

 
再会を描いた映画を見た後に
元利用者と再会するとは
神様は粋なことをしてく

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キーホルダーの行方

キーホルダーの行方

夕方、見知らぬ方から電話が入った。

どうやら、先日のイベント販売時にとあるキーホルダーを買ったが紛失してしまい
毎日子どもが泣いているらしい。
そこまでうちのキーホルダーを愛してくれて嬉しい。

 
グーグルで製品名を入力し
なんとかうちの施設を探し当てたようだ。

 
それはたいしたもんだ。
そのキーホルダーは正式名でそんなにネットには載っていない。

 
また次のイベントで買いに来てくれる、

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今年一番大きなイベントで販売した日

今年一番大きなイベントで販売した日

いよいよこの日が来た、と思った。

今までで一番大きなイベントでの販売。

 
事前に二時間に及ぶ説明会に参加した際
資料は30ページ以上に及んた。
それからも資料はメールや郵送で送られてきたり
変更点があったりで
最終的には資料は50ページ以上に及んだと思う。

 
会場の下見にはまず新施設長が行き、別日に私と事務長が行った。

 
二転三転する話や担当者の素っ気ない対応や新施設長からの要望

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いつもいつも、そこにはリーダーがいた

いつもいつも、そこにはリーダーがいた

助けてほしい。
分かってほしい。
手伝ってほしい。

そう思っても
なかなか一言が言えない。
言いたい時に 
相手がそばにいない時もある。

 
やるしかない。
そう思って頑張ることばかりで
そんな時に上手くいかなくて
凹んだり、自信が持てないことがある。

 
そんな時は大抵
そばにリーダーがいない。
リーダーが休みだったりする。

 
逆に言えば
リーダーがそばにいると
ほぼ必ず気づいてくれる

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主任の夢を繰り返し見る

主任の夢を繰り返し見る

私は同僚と歩いていた。

だけど具合が悪くなって
私はしゃがみ込んだ。 
同僚は背中をさする。

 
そこにハイエースが来て、運転席からある人が降りていた。
前の職場の主任だった。

「大丈夫?」

「主任!?」

「送迎していたら通りかかって。お久しぶりです。」

「お久しぶりです。元気そうで。」

「…俺、ともかさんが辞める時、いや辞める前も、冷たかったよな。ともかさんが辞めてから、色々大変だ

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それでいいのだろうか

それでいいのだろうか

それでいいのだろうか。

そう首をかしげることがある。
それでいいのだろうか。

 
前の施設で長年働き
またそこでの常識が私の常識になったから
転職した今
何もかもが真逆なことに
違和感を感じる。

 
施設長が保護者とLINEで繋がっていることもそうだし
一部の保護者に作業の一部を任せていることも
私には違和感だった。

 
保護者とのやり取りは基本的には連絡帳と電話で
作業は利用者、職員、ボ

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一日体験実習

一日体験実習

特別支援学校の学生が
うちの施設に一日体験にやってきた。

 
大きな声や争いが苦手だというその方は
自己紹介の時間になると
緊張して隠れてしまった。
頭隠して尻隠さずなその人は
まさにみんなにお尻だけ見せていた。

 
みんなの前で姿さえ見せられない体験の方は珍しい。

 
だが
その30分後、作業をしながら
その人の話し声や笑い声が隣部屋からたくさん聞こえた。

これがあの人の声!

と、みん

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内心苛々した瞬間

内心苛々した瞬間

某利用者はいくつかの施設を併用利用している。

 
感染リスクがあるとして
他の人がいない部屋の窓際でいつも食べていた。
一時的に別場所に変更になったが
夏になった頃、再び前の場所に戻すという話だった。

 
話だったのだ。

 
 
その方は食べる際に時間がかかる為
他者より早めに食べている。

 
ある日私はいつものように
セッティングをしていた。

 
すると新施設長は

「今日は暑いのでこ

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クモの行方

クモの行方

「真咲さん、ちょっとこいよ!」

私は利用者に言われて
一緒に廊下を歩いた。

 
「クモだよ、クモ!」

そう言われたが
内心私は油断していた。

うちの職場はよく小さなクモが出るので
小さなクモだと思った。

 
そこにいたのは想像以上に大きなクモだった。

「ギャア!」

私は利用者に飛びついた。

 
想像以上に大きい。

「無理、これは無理。」

後ずさった。
私は大きなクモは大の苦手だ

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