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一日一緒に作業をした日

利用者Aさんが寝ていた。

「Aさん!起きて!ポスティングだよ!」

私はAさんを揺り起こす。

 
「なんだよ、真咲。なんの用だよ?」

名字呼び捨ては珍しい。よっぽど眠いのだろう。

 
「仕事だよ、仕事!」

私はなおも言う。

 
 
その日はポスティング作業だった。
利用者AさんとBさんと私の三人で出発した。

Aさんは足が早くて
Bさんは足が遅い。

 
Aさんはサッサと歩いて配るが
時折立ち止まり
私やBさんを待っていた。

Aさんは以前は全然待てなかった。

ヒヤヒヤすることがたくさんあったから
私は今でも
Aさんの待つ姿を見るたびに成長を感じる。

 
かと思えば
ゴミ収集車におののき
逃げ回ったり、隠れている。

Aさんはゴミ収集車が苦手なのだ。

 
チラシを配っていると 
ある家の方が話しかけてくれた。

「いつも偉いわねぇ。お小遣いもらえるの?」

 
「はい、お仕事ですので給料になりますよ。」

私はさり気に訂正した。

 
「チラシは施設で作っているの?」

 
「いえ、ポスティングの会社からチラシをいただいています。」

 
「暑いから気をつけてね。車にも気をつけてね。」

 
「はい、ありがとうございます。」

 
私は会釈をし
再び三人で歩き出した。

そして無事、全て配り終わった。

 
配り終わり
施設に戻ろうとすると
Aさんはベンチに座った。

「真咲さん、俺は機嫌が悪いんだ。先に施設に戻ってくれないか?」

初めてだった。
そう言われたのは。

 
私はBさんと帰るフリをして
近くでAさんを待った。
帰れ、と言われて
利用者を残して帰るわけにはいかない。

かといって姿を見せてもいけない。
機嫌を損ねるだろうから。

 
しばらく待つと
Aさんが爽やかな声で手を挙げながら言った。

「Bさん、真咲さん、待たせたな。」

もう機嫌は大丈夫なようだった。

 
私達は三人で帰った。
Aさんは先を歩き、だけど時折立ち止まり、離れすぎないようにしていた。

 
 
たまたま
午後もその二人と作業だった。

一日通しで二人と過ごすのは初めてだ。

Bさんは行動はゆっくりだけど
人一倍仕事熱心で
一日を通して真面目だった。

あれこれと普段話せないことを
二人でたくさん話した。

 
一日一緒だから話せること。
一日一緒だから見られる表情や頑張り。

それが嬉しくて
私はパシャパシャと写真を撮る。

 
仕事終わりに写真を眺めては微笑んでしまう。

 
 
二人をもっと好きになった
そんな一日。 


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