見出し画像

六葉をもらった日にあった出来事

「これ、あげる。」

そう言って利用者Aさんは私に六葉のクローバーをくれた。

 
「四つ葉だよ。」

そう言って笑う利用者に
あえて六つ葉とは言わなかった。
葉っぱが二つ多いのなら
より幸せが舞い降りてきそうだ。

 
「スマホケースに入れてね。」

Aさんは尚も言う。
私が利用者からもらった手紙等はスマホケースに挟むことを
Aさんはよく知っている。

 
Aさんと私は停車した送迎車に乗り
他の利用者を待っていた。
他の利用者は室内にいる職員が誘導する決まりだった。

 
しかし、なかなか来ない。おかしい。

 
Aさんの手前言わなかったけれど
いつもより誘導が遅かった。
私はこの時点で異変に気づくべきだった。

 
やがて、利用者Bさんが職員とやってきた。
私は「ん?」と思った。
Bさんより利用者Cさんを先に乗せる決まりだからだ。

 
Cさんはヤキモチ焼きだ。
自分より同性のBさんが先に乗るのが気に入らなかった。
もしも先に乗せようものなら
後ろから座席を蹴り続けるのだ。

 
私は同僚にCさんのことを聞いた。
すると、どうやらCさんが突然利用者Dさんを叩いたという。

 
理由は分からないが
おそらく、ヤキモチだと思われた。
最近はなかったが、昔はよく周りの利用者に腹が立った場合、攻撃的だったらしい。

 
Dさんはかわいくて人気者だった。
だからヤキモチを焼いたのだろう。多分。

 
Dさんは泣きじゃくり
Cさんはそれを高笑いしながら睨みつけており
まだ送迎車に乗れる状態じゃないらしい。

 
「私が親なら、別室に呼び出して説教しますよ。」

同僚らはそう言った。

私も前の職場だったならば
責任者だった頃は
別室に呼び出して説教だっただろう。

 
結局、最後までCさんは謝らなかったし
保護者も誠意がない態度だった。うちの子を不機嫌にさせない工夫をしてほしい、そんなことを言われた。

 
私はリーダーに言われ
別車でAさんだけ先に単独で送っていくことになった。

Aさんが車の変更を疑問に思わなかったからよかった。

「他の利用者は?」

Aさんが尋ね
私は「保護者が迎えに来ることになったみたい。」と嘘を吐いた。
きっとこの嘘なら吐いても許されるだろう。多分。

 
Aさんと和やかに話しながら帰った。
保護者ともたくさん笑いながら雑談した。

この車内はこんなに平和だったのに
私が席を離れた時
泣いた利用者がいたなんてな。

 
明日は平和だといいな。
みんなが笑顔で仲良く過ごせるといい。

六葉を見ながら
そう願わずにはいられない。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?