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#エッセイ

【料理エッセイ】アンドレさんからの手紙 - 豆乳スープの絶品レシピ

【料理エッセイ】アンドレさんからの手紙 - 豆乳スープの絶品レシピ

 アンドレさんから手紙が届いた。フルネームはペペ・アンドレ。新代田の伝説的なレストラン、中級ユーラシア料理店 元祖 日の丸軒のマスターで、わたしが学生時代からお世話になっている唯一無二の恩人だ。

 アンドレさんには多くのことを教わった。まるで潜水艦の中みたいな薄暗い店内で、「ターメイヤ」や「海賊おじや」など、他にはない美味しい料理を食べさせてもらった。そして、一晩中、ショスタコーヴィチの交響曲を

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写真は好きだよ。

写真は好きだよ。

「写真」について思う時、そこには感傷が伴う。被写体があって、撮影して、場面を記録するという行為とは別に感情がある。私にとっては、写真を撮影する行為そのものに喪失感があるから。

大げさな例えを出すならば、夏目漱石の「こころ」の作中で、主人公が墓地を通りかかった際、墓石のその形状や種類だけに関心がいったように、その「モノ」への感情が伴った経験がなければ、それそのものでしかないものも、先生のように、自

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積み重なっていくのは雪だけじゃない

積み重なっていくのは雪だけじゃない

こんな冬には温かいものが恋しくなるのは世の常なんだろう。人肌恋しくなるという象徴的な言葉があるけど、それ以外にも温かいものは心を癒してくれる。

寒い朝に離れがたくなるあの布団のぬくもり。寝る前にふと飲みたくなったココア。いつだったか誰かとつないだ手の思い出。そんなものが私の脳裏によぎっては消えていく。

最近私の住んでいる場所でも雪が降った。その時に久しぶりにエアコンの暖房をつけたんだけど、全然

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明るいのか暗いのか をただ問う

明るいのか暗いのか をただ問う

目下、娘こだぬきの絵画教室の付き添い中。この絵画教室については、付き添いの2時間たぬきちは暇なので、よくnoteを書いている、否、打ち込んでいるので、投稿記事にもよく登場している。

今日はいつもと違って平日に参加していることと、もうすぐ教室主催の絵画展(最寄り駅の展示スペースで)があるせいか、教室は生徒さんでいっぱいだった。

娘ともう1人の小学生以外は、人生の余暇を楽しんでおられるような方ばか

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コーヒーと百の物語

コーヒーと百の物語

「今日は、スターバックスに寄って帰ろうと思うの」
雪だし、リモートワーク推奨だし、
今日はもう帰るね。
スタバの新作があーだこーだと少し話してから、「お疲れさまです」と言ってオフィスをあとにした。

スターバックスは満席だった。
いつもより帰りの時間はずいぶんと早く、雪の日だというのに。

ドトールも満席だった。
なんていうか、今日はそういう日なのだと思う。
外出したなら、コーヒーのひとつでも飲ん

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神様のこんぺいとう

神様のこんぺいとう

「これ、誰のお土産?」

会社の、お菓子置きのひとつを取って、そのひとは言った。
不思議な形のプラスチックーーーあれはなんて言うんだっけ? 三角錐? に入った色とりどりの青を持ち上げながら、首をかしげる。

ずうっとあって、誰も食べない。
会社のお菓子置きだもの、個包装で食べやすいやつからなくなってゆく。
お中元とお歳暮で届く「ありがとう」と書かれたマシュマロは、おいしいけれど不評だった。
個包装

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電車の音が聞こえる街に、暮らしている。

電車の音が聞こえる街に、暮らしている。

暮らす街では、いつもかすかに電車の音が聞こえる。

坂道と電車の音が好きな私には、それがとてもうれしい。

私の住む家まで、その音は届く。
映画で背景音として使われるぐらいの大きさだから、暮らしのBGMにはぴったりだ。

日が高いうちは生活音にまぎれてしまうけれど、夜はまるで違う。

電車の音が家の奥深くまで入ってくるから。なんなら私の心にも。

夫より眠るのが遅いから、夜は一人の時間を過ごしてい

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ボリュウムを上げて

ボリュウムを上げて

なるほどね、と思っていくつかの顔を思い出した。

ひとりめは、なかなか控えめなひとだった。
傷つけることも、傷つくことも恐れていた。
でも、作るものに関しては折れずにいた。

ふたりめは、「あはは!笑って嫌ですって言ってやりました!」と言っていた。
やっぱり、作るものには折れないひとだった。
なんでも笑って話してくれる、強いひとだった。

そして、みっつめに思い出した顔の話をする。



正直に

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この1日だけでも、生まれてきた価値がある。

この1日だけでも、生まれてきた価値がある。

そんな気持ちが、心の奥底からやってくる時がある。

この気持ちが訪れるシチュエーションは様々。けれど初めて体験した日は今もはっきり覚えている。

23歳の春のことだ。

当時の私は、毎日がとても辛かった。

家庭はトラブルが続き、親子関係は険悪で気が休まらない。

証券会社の営業職だったが、ノルマが辛くてキツくて毎日辞めることばかり考えていた。そのくせ踏ん切る勇気がない自分が憎かった。

小さな目

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