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散文

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散文(のようなもの)をまとめました
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#エッセイ

かたつむりが死んだ日から

かたつむりが死んだ日から

一日のうち、何度も死について考える。朝、目覚める前の一瞬に、もう死について考えている。空を見て、死について考える。風を感じて、死について考える。かわいい猫に触れて、死について考える。笑っているときも、泣いているときも、怒っているときも、喜んでいるときも、死について考えている。

何かが始まるのと同時に、終わりに思いを巡らせる。友人や恋人との関係が始まったとき、何よりもまず終わりを思う。朝起きて、一

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傷心と秋の光

傷心と秋の光

秋は光が和らぐ。空気も和らぐ。

心の痛みが和らぐか…というと、そんなことはない。むしろ秋は悲しみが増す。

でも、つらいときには悲しげな曲が聞きたくなるように、わたしの心には秋の寂しさがしっくりくるみたい。秋は心の世界に少し近い。

むかし、ある人が「秋は空白の期間だね」とわたしに言った。そのときは意味がよくわからなかったけど、今はわかる。わかるけど、言葉にならない。言葉にならない空白そのものが

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かっこ悪くていいからかっこつけない

かっこ悪くていいからかっこつけない

休日のいちばんの楽しみは朝食だあ。平日の朝はごはんを味噌汁やお茶漬けの素でチャーッとかき込んで終わりだけど、休日はラジオを聞いたり映画を見たりしながら、前日に買っておいた美味しいパンを食べる。

今日はレーズンとくるみ、紅芋と鳴門金時のブレッド。昨日の残りのシチュー。

で、わたしには先延ばし癖があるので、休日の朝はやりたいことややらなければいけないことを紙に箇条書きにしておくことが多い。

猫の

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心も晴れない雨の日は

心も晴れない雨の日は

長雨でくさくさした気分になってくる。でも雨が嫌いってわけじゃない。これはこれでいいものだ。なにも考えないで、ただじっと雨を眺めている時間もけっこう好き。

それに、雨上がりの夕暮れは街が藍色になってとてもきれい。濡れた土のにおいは子供のころから変わらない。静かな雨音に包まれていると、いろんなものが胸に染む。なんだかもの悲しくなるんだけど、それに癒されたりもする。

傘をさして散歩に行こうかなーとも

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海で目覚める

海で目覚める

朝、夢から目が覚めたとき、どうしようもなくやるせない気持ちになる。それはとても静かな気持ち。早朝の海辺の、湿った砂浜で、ひとりきりで目覚めたみたい。朝から感傷的になりすぎる。とにかくやりきれない。なにかがたまらなく恋しい。さっきまで一心同体でいたはずの、誰かの気配を感じる。寂しい、悲しいというよりも、苦しい。どこへ帰っても、帰りきれないようなホームシック。深刻な懐郷病。

本当に恋しいのはどっちな

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どこまでも情に流される

どこまでも情に流される

うわべだけの付き合いなんていくらでもやれるわと思ってたけどちがった。私は自分で思っている以上に人間を必要としているみたいだ。ひとりより孤独を感じても、あれこれ文句を言いたくなっても、傷心にたえない毎日だとしても、心と心が触れ合うような深い交情を求めているんだ。

実際に人間関係の渦に巻き込まれたときには、矛盾と葛藤や見栄と意地や嫉妬と憧れの荒波に揉まれて、こんな文章はただのきれいごとにしか感じられ

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悲しみのなかにある笑い

悲しみのなかにある笑い

なんかもうムチャクチャな話だった。飲んだくれの私立探偵ニック・ビレーンが、行く先々で暴言を吐き散らし、女のケツを押さえようと追いかけ回し、ムカつく男がいればそいつのケツも蹴り飛ばす…。チャールズ・ブコウスキーの遺作、「パルプ」。

主人公ですら、「こんなダメな奴にケツの一蹴り以外何かを手にする資格があるのか?」と自問するくらい下品な話。それなのに不思議と、作品全体に哀愁を誘う雰囲気が漂っている。

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わたしのケンブリッジ・サーカス

わたしのケンブリッジ・サーカス

何か恥ずかしい思いをしたり、うまくできないことがあって自分を情けないなあと思うとき、いつも心に浮かぶ風景がある。それは幼い頃にわたしが実際に行き、この目で見た思い出の場所でもあるし、それと同時に、わたしの心のなかだけに存在する心象風景であるとも言える。

先日、職場で交通安全講習会があり、30人くらいの従業員が集まって警察職員の指導を受けた。横断歩道や自転車のシミュレーターを使って実際に道路の危険

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キリストの愛 釈迦の慈悲 人間の情

キリストの愛 釈迦の慈悲 人間の情

しばらく落ち込んでいました\( ö )/

春の陽気にあてられたのか、なんだか知らない間に怖い夢のなかにひとり閉じ込められてしまったように感じられ、海や空や花にさえ目を瞑りたくなり、木々のざわめきや小鳥の鳴き声にも耳を塞ぎたくなっていました。

にもかかわらず、心の奥底では自分は何があっても絶対に大丈夫なんだという確信のようなものもあって、その信仰心と、何もかもが不確かな現実とのはざまで、大混乱し

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戒めのコーヒー

戒めのコーヒー

高校生のころ、一騒動あってちょっとだけ警察のお世話になったことがある。例によって例の如く、騒動の原因はわたしの精神力のなさにあり、今は忸怩たる思いで反省するばかり。

学校をさぼってしょぼくれているわたしを見て、警察官の男性は、何に悩んでいるのか、何がつらいのか、真正面から向き合って優しく聞き出そうとしてくれたのだけれど、わたしは自分でもどうしてこんな事態になってしまっているのか理解できていなくっ

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風が吹かなくても

風が吹かなくても

昨年のものですが、
ねこちゃん描きました((Ф(.. )

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図書館で手元の本に熱中していたときのこと。突然「感染対策のため、消毒と換気を行います」という館内放送が流れ、しばらくして、本棚と本棚のあいだを冷たい風がさあっと吹き抜けていった。図書館で風を感じることってあんまりないような気がするから、風がやってきた方向を見てついにっこり。本

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死にたいときは死にたいなりに

死にたいときは死にたいなりに

死のうと思って死ぬことができたら
あの人はほんものの人間だったんだって
だれかに認めてもらえるような気がしてた

小さなころから
ずっと前から

こんなに弱い人間だけど
これ以上はもう 強くなれない

だから天国で生きるんです

だれも悪くなかったあかしに
だれも恨んでなかったしるしに
死のうと思って死ぬことができたら
自分を許せるような気がしてた

「彼女は死んで幸せなんです」
「だから彼女はも

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あなたの罪を背負って死ぬこと

萩尾望都「トーマの心臓」のあらすじです。

シュロッターベッツ・ギムナジウムの優等生、ユリスモール・バイハン(ユーリ)。彼はある朝、一学年下の美しい生徒、トーマ・ヴェルナーが足を滑らせて陸橋から落ち、亡くなったことを耳にします。素直で可愛いトーマは、学校の生徒たちにとって、恋神・アムールのような存在でした。

誰もが不幸な事故としてトーマの死を悼むなか、ユーリは友人のオスカー・ライザーから、トーマ

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ゆめまぼろしでも

ゆめまぼろしでも

身体の性別に関係なく、誰であれ女性性と男性性を持ち合わせているものですが、女性性の愛を求める男性性の強い思いや、精神的な飢え渇きは、特に切実なものであるような気がします。

自分自身の中であまりにも男性性や父性が強いと、前進、向上することや、規範、厳しさなどが重視され、内面生活がちょっと苦しいものになりそうです。女性性も男性性も、社会で生きていく上ではもちろん両方が大切な性質ではあるけれども、生き

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