マガジンのカバー画像

散文

79
散文(のようなもの)をまとめました
運営しているクリエイター

記事一覧

Rest

あなたの胸の奥にともる
小さな星のような光から
わたしは生まれたのです

あなたの腕のなかにある
陽だまりのようなぬくみから
わたしは生まれたのです

喜びにも 悲しみにも
わたしはつかれた

あなたの腕のなかに倒れ込んで
いつまでも いつまでも
目を閉じて休んでいたい

世界中のあかりを消して

地球の風がやむ日まで
惑星が静止するその日まで

あなたの腕にいだかれて
あなたの世界へ旅に出よう

もっとみる

博愛

博愛主義のあなたはいつも
誰も彼もを愛するけれど
誰も彼もがあなたのように
人を愛しているとは限らない

だからあなたは幾度も
愛する人に愛されない

だからあなたは幾度も
愛する人に愛されない

見返りを求めないその悲しみを
知っているからなお愛しい

そんなあなたが見る世界
一度でも垣間見たならそのときは

あまりに悲しい幸福と
あまりに嬉しい孤独の光に
わたしは泣き崩れることでしょう

かたつむりが死んだ日から

かたつむりが死んだ日から

一日のうち、何度も死について考える。朝、目覚める前の一瞬に、もう死について考えている。空を見て、死について考える。風を感じて、死について考える。かわいい猫に触れて、死について考える。笑っているときも、泣いているときも、怒っているときも、喜んでいるときも、死について考えている。

何かが始まるのと同時に、終わりに思いを巡らせる。友人や恋人との関係が始まったとき、何よりもまず終わりを思う。朝起きて、一

もっとみる
One Morning

One Morning

2014年11月15日の明け方に、僕はひとりで散歩に出かけた。僕は19歳だった。

朝まで眠らずにドラマを見たあと(若い女性が自殺する話だった)、しばらく使っていなかった水筒を棚から出して、散歩に持っていくための温かいココアを淹れた。ボーイロンドンのパーカーを着て、赤と紺のマフラーを巻いて、ベージュのスニーカーを履いて家を出た。

まだ外は暗かった。街灯の小さな灯りが遠くにぽつぽつと並んでいた。空

もっとみる
2017年は流れ星をたくさん見た

2017年は流れ星をたくさん見た

2022年を締め括ろうとする記事が、2017年の話から始まるのもどうなんだ? でも、あの年は偶然にしてはやたら多くの流れ星を見かけた。時々は願いをかけたりもした。あの頃、私には会いたくて会いたくて仕方がない人がいて、でも会いたいからといって素直に会いに行けるような自分でもなくて、いつも流れ星を見つけるたびにあの人に相応しい人間になれますようにと真剣に願うばかりだった。

偶然っておもしろい。私は偶

もっとみる
ひとりでいても 百人といても

ひとりでいても 百人といても

信じたくないものばかり信じていました
信じたいものを信じもせずに

あなたの足下に咲く花と
つきぬけるような青空と

小さな世界で生きるわたしに
心の世界は誰より広いと
あなたが教えてくれた朝

あの日のあなたと同じ気持ちで
いつものように歩いていたら

長いあいだかき消えていた
わたしの世界が見えたのです

あなたは本物の悪意を信じない
わたしは本物の絶望を信じない

信じるのは子猫の温もり

もっとみる
傷心と秋の光

傷心と秋の光

秋は光が和らぐ。空気も和らぐ。

心の痛みが和らぐか…というと、そんなことはない。むしろ秋は悲しみが増す。

でも、つらいときには悲しげな曲が聞きたくなるように、わたしの心には秋の寂しさがしっくりくるみたい。秋は心の世界に少し近い。

むかし、ある人が「秋は空白の期間だね」とわたしに言った。そのときは意味がよくわからなかったけど、今はわかる。わかるけど、言葉にならない。言葉にならない空白そのものが

もっとみる
かっこ悪くていいからかっこつけない

かっこ悪くていいからかっこつけない

休日のいちばんの楽しみは朝食だあ。平日の朝はごはんを味噌汁やお茶漬けの素でチャーッとかき込んで終わりだけど、休日はラジオを聞いたり映画を見たりしながら、前日に買っておいた美味しいパンを食べる。

今日はレーズンとくるみ、紅芋と鳴門金時のブレッド。昨日の残りのシチュー。

で、わたしには先延ばし癖があるので、休日の朝はやりたいことややらなければいけないことを紙に箇条書きにしておくことが多い。

猫の

もっとみる
心も晴れない雨の日は

心も晴れない雨の日は

長雨でくさくさした気分になってくる。でも雨が嫌いってわけじゃない。これはこれでいいものだ。なにも考えないで、ただじっと雨を眺めている時間もけっこう好き。

それに、雨上がりの夕暮れは街が藍色になってとてもきれい。濡れた土のにおいは子供のころから変わらない。静かな雨音に包まれていると、いろんなものが胸に染む。なんだかもの悲しくなるんだけど、それに癒されたりもする。

傘をさして散歩に行こうかなーとも

もっとみる
海で目覚める

海で目覚める

朝、夢から目が覚めたとき、どうしようもなくやるせない気持ちになる。それはとても静かな気持ち。早朝の海辺の、湿った砂浜で、ひとりきりで目覚めたみたい。朝から感傷的になりすぎる。とにかくやりきれない。なにかがたまらなく恋しい。さっきまで一心同体でいたはずの、誰かの気配を感じる。寂しい、悲しいというよりも、苦しい。どこへ帰っても、帰りきれないようなホームシック。深刻な懐郷病。

本当に恋しいのはどっちな

もっとみる
どこまでも情に流される

どこまでも情に流される

うわべだけの付き合いなんていくらでもやれるわと思ってたけどちがった。私は自分で思っている以上に人間を必要としているみたいだ。ひとりより孤独を感じても、あれこれ文句を言いたくなっても、傷心にたえない毎日だとしても、心と心が触れ合うような深い交情を求めているんだ。

実際に人間関係の渦に巻き込まれたときには、矛盾と葛藤や見栄と意地や嫉妬と憧れの荒波に揉まれて、こんな文章はただのきれいごとにしか感じられ

もっとみる
悲しみのなかにある笑い

悲しみのなかにある笑い

なんかもうムチャクチャな話だった。飲んだくれの私立探偵ニック・ビレーンが、行く先々で暴言を吐き散らし、女のケツを押さえようと追いかけ回し、ムカつく男がいればそいつのケツも蹴り飛ばす…。チャールズ・ブコウスキーの遺作、「パルプ」。

主人公ですら、「こんなダメな奴にケツの一蹴り以外何かを手にする資格があるのか?」と自問するくらい下品な話。それなのに不思議と、作品全体に哀愁を誘う雰囲気が漂っている。

もっとみる
土曜日と日曜日の写真

土曜日と日曜日の写真

日曜日の朝ごはん。いちじくパンです。くるみの食感といちじくの優しい甘みがおいしかった。

ラジオを聞く。番組は パナソニック メロディアス ライブラリーと、皆藤愛子の窓café~窓辺でcafé time~。

本を読みます。柴田元幸さんの「愛の見切り発車」。Amazonで2円で購入。配送料は256円です。

本を読んでいると、中から猫の爪が出てきた。中古本とはいえ、もともと挟まっていたとは思えない

もっとみる
理由もなく ただ好きだと

理由もなく ただ好きだと

わたしがどんなにかっこよくふるまっても
かっこいいねってあなたは言わない

わたしがどんなにかわいい服を着ていても
かわいいねってあなたは言わない

ただ生きているだけでいいよって言ってくれる

わたしがどんなに優しい言葉を紡いでも
優しいねってあなたは言わない

わたしがどんなに立派なふりをしても
えらいねってあなたは言わない

ただ素敵な生き方だねって言ってくれる

あなたはかっこよくてかわい

もっとみる