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甘口に関する覚書:甘いの多義性あるいは重松清『カレーライス』論
本稿は阪大カレー愛好会会誌『基礎・カレー探究』に掲載した論考を一部加筆修正したものです。(Twitter @handaicurry)
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カレーの辛さを表す言葉の一つとして「甘口」という表現がある。なんの変哲もない表現だと思われるかもしれないが、少し考えてみると甘口という言葉はやや奇妙である。カレーが甘いとはいったいどういうことであろう、と考え始めるとどんどん分からなくなるからである。
からかい上手の高木さんが使う終助詞「や」についての考察
1.高木さんの可愛らしい「や」
先日、待ちに待った『からかい上手の高木さん19巻』(2023年3月10日発売)が届いた。
『からかい上手の高木さん』のヒロイン高木さんは語尾に印象的でかわいらしい「や」を使うことで知られているが、特に最新巻の19巻では高木さんの終助詞「や」を6例も見ることができ、ファンとしては大満足であった。
また、作品がすすむにつれ「や」の出現する頻度が徐々に高くなっている気
CoCo壱番屋の『や』考
はじめに-「ホルモン」と「放るもん」
焼肉屋にホルモンというメニューがあるが、この食用としての動物の内臓であるホルモンは男性ホルモンや女性ホルモンという時のホルモンと同じなのだろうか。それとも、関西弁の「放るもん(捨てるもの)」を語源とするものであろうか。はたまた、それらとは、全く独立のホルモンなのだろうか。周りの人達に聞いてるみると、驚くことにホルモンに対する印象は人によって相当異なっているよ
「隠し味」再考:誰が誰に隠すのか?
仄聞するところによると、自衛隊ではカレーに隠し味としてコーヒー牛乳を入れることがあるようだ。「カレー×コーヒー牛乳=美味しい」ということは意外性もあって、極めて興味深いことである。
「隠し味」と検索すると、予測で「隠し味 カレー」と出てくる。隠し味という概念は、カレーを美味しくするものとして理解されることが殆どだと言って過言ではないだろう。私にとっても、隠し味と聞いてまず思い浮かべるのは、他
なぜ朝カレーは存在しないのか
「朝カレー」への視点
朝カレーなんて言うと、恰も朝専用のカレーがあるかのように思われるが、基本的にそんなものはない。(実際には無いことも無いのだが)。
例えば、昨日の夜のカレーを朝温めて食べる。そのカレーは朝用に作られたものではないけれども、典型的な朝カレーの在り方であると言って良い。
では、朝カレーという概念は何によって規定されるのだろうか。これは朝カレーの「朝」性を巡る探究である。
カレーライスにとってカレーは不可欠な要素か
カレーライスにとってカレーは不可欠であるか。
馬鹿げた問いかと思われるかもしれないが、結論を先取りすると、本稿はカレーはもしかすると不可欠な要素ではないのかもしれないということを、述べようとしている。
この標準的なカレーライス観からは、あまりにもかけ離れた主張を導くことに、実のところ、私自身がいささか臆しているところではあるのだが、そのような考えに至った思考の過程をここに記しておきたい。
カレーライスかライスカレーか問題への視点
本稿は阪大カレー愛好会会誌『基礎・カレー探究』に掲載した論考を加筆修正したものです。(Twitter @handaicurry)
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カレーライスとライスカレーを巡る問題の所在
所謂カレーライスを指す語彙として「カレーライス」と「ライスカレー」の二つがあると言われる。この二つの語彙の使用の変遷や両者の使い分けといった問題は多くの人々の関心を集めてきた。
この点を巡る言説について、『
伊豆ちっちゃいインド説からカレーコスモロジーへ
本稿は阪大カレー愛好会会誌『基礎・カレー探究』に掲載した論考を一部加筆修正したものです。(Twitter @handaicurry)
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伊豆、ちっちゃいインド説からカレーコスモロジーヘ
2020年夏、私の所属する阪大カレー愛好会一行は夏合宿という名目で静岡県は伊豆半島に赴いた。
なぜ、カレー愛好会が伊豆の地で合宿を行うのか?我々の心を捉えて離さない伊豆半島の魅力。これはいった
古典的カテゴリー観と金沢カレー
「金沢カレーをスプーンで食べる」
この表現は日本語として不条理であろうか?
金沢カレーのことをどれほど詳しく知っているかについては個人差があるかも知れないが、上記の表現は一般に自然な日本語であると思われる。
しかし、ある特定の視座(しかもごく素朴な意味観)に立脚すると、上記の文は極めて不条理な表現になるという帰結が導かれてしまう。今回はこの点について検討しながら、金沢カレー概念の本質につい
【詳説】カレーライス成立論:カレー哲学の基礎
本稿は、カレーライス成立論をより詳細に解説するものである。
はじめに
我々はしばしば異質な二項を出会わせることで、一つの世界を表現する。
例えば、
古池や 蛙飛び込む水の音
という俳句では「古池」 という視覚的なイメージと、静寂をやぶる音との衝突によって一つの世界が描かれている。俳句という文芸は異なる二つを出会わせつつ、一つの事態を描くことにその特徴があるわけだが、ここにカレーとの類似性
【概説】カレーライス成立論序説
●カレーライス成立論
カレーとは何か。我々の心をつかんで離さない「これ」はいったいなんなのか。
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カレーライス。それを作る時、それを食す時、我々にとってどのような形でそれが立ち現れているのか。
料理、あるいは食事という場面においても、カレーライスはカレー(ルー)とライス(ご飯)という異なる二項を持つ。
しかし、我々がカレーライスという食べ物を対象化する際は、ふたつを統合し全体なるひとつ