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伊豆ちっちゃいインド説からカレーコスモロジーへ

 本稿は阪大カレー愛好会会誌『基礎・カレー探究』に掲載した論考を一部加筆修正したものです。(Twitter @handaicurry)

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伊豆、ちっちゃいインド説からカレーコスモロジーヘ

 2020年夏、私の所属する阪大カレー愛好会一行は夏合宿という名目で静岡県は伊豆半島に赴いた。 

 なぜ、カレー愛好会が伊豆の地で合宿を行うのか?我々の心を捉えて離さない伊豆半島の魅力。これはいったいなんだったのだろうか?

 伊豆合宿から一年以上経つ今、カレーと伊豆がばらばらな無関係のものではないということ、即ち我々カレー愛好会が無意識のうちに伊豆に引き寄せられた理由について、おぼろげながら見えてきたことがある。本稿はそれについて記しておきたい。

 カレー愛好会会員の菅沼氏(カレー小説家)は、合宿の後、この問題を正面から扱い、伊豆とインドの相似関係を鋭く指摘した論考を発表された。私も、ここに気付かされた点が数多い。

 まずは以下で菅沼氏の提唱された「伊豆、ちっちゃいインド説」を確認する。

 しかし最近になって伊豆半島とインドの成立にある種の相似があることに気付き、疑問が氷解したのである。
 その相似とは、伊豆半島もインド半島―あえて亜大陸ではなく半島と呼ぶ―もプレートテクトニクスによって成立したということだ。

「伊豆、ちっちゃいインド説」
https://kakuyomu.jp/works/16816927861340174241/episodes/16816927861341238728

伊豆への憧憬とは即ちインドへのそれであった。伊豆への愛情とは即ちインドへの、ひいてはカレーへの愛なのである。

「伊豆、ちっちゃいインド説」
https://kakuyomu.jp/works/16816927861340174241/episodes/16816927861341238728

 補足を加えると、伊豆半島は今でこそ日本列島の一部であるが、かつては太平洋に浮かぶ離れ小島だったのである。驚くべきことだが、プレートテクトニクスによってその小島が日本列島に突き刺さり、伊豆半島となったというのだ。伊豆は太平洋に出ずる土地なのではなく、飛び込んできた土地だというわけである。

 また、さらに驚くべきことは、インド亜大陸も史的には伊豆半島と同じ成立の過程を辿ったらしいということだ。インドはユーラシア大陸に突き刺さりその衝撃がヒマラヤ山脈を形成したのだという。俄には信じ難いが、我々はこの事実を虚心に見つめる必要がある。

 菅沼氏はこの成立の史的展開における伊豆とインドの共通点を捉え、伊豆の魅力はインドを介してカレーに繋がるものとして、結論している。

 『伊豆、ちっちゃいインド説』の議論は、インドと伊豆の隠された共通点を鋭く指摘したものとして、注目に値すべき論考である。

 ただ、『伊豆、ちっちゃいインド説』の正当性には依拠しつつも、私がもう一つ踏み込んで問いたいのはカレーと伊豆、あるいはカレーとインドの直接的な共通点である。

 かつて、私は『カレーライス成立論』においてカレーについて考えるものは二項の結合の内実について考えることから始める必要があると述べ、カレーコスモロジーという概念を提唱した。伊豆とカレーの類似性を考えるにあたっても、この概念が有効であると私は考える。カレーコスモロジーとは、私にとっては、二つより一つを構成する世界原理の雛形である。

 我々はしばしば異質な二項を出会わせることで、一つの世界を表現する。
例えば、 古池や 蛙飛び込む水の音  という俳句では「古池」 という視覚的なイメージと、静寂をやぶる音との衝突によって一つの世界が描かれている。
 俳句という文芸は異なる二つを出会わせつつ、一つの事態を描くことにその特徴があるわけだが、ここにカレーとの類似性を見ることができるだろう。というのも、カレーもまたライス、ナン、パン、うどんといった何らかの異質な他者と結合して一つの世界―《カレーコスモロジー》と私は呼ぶ―を作るからである。

詳説 カレーライス成立論
https://note.com/bumpoutoimi/n/n698f0c6aad1e

上記の引用部では俳句という文芸とカレーの成立をアナロジカルに捉えているが、伊豆半島の形成とカレーの成立もまた、アナロジカルに捉えることは容易であろう。

 伊豆(あるいはインド亜大陸)は、異質な二項の出会いを、プレートテクトニクスというあまりにも巨視的な観点から我々に突きつけるからである。

 伊豆とはカレーライスコスモロジーのダイナミズムを象徴する場であり、カレーライスの成立を問うた私が伊豆に魅せられるのは由縁なきことではないのである。

付記:
本稿の立場

菅沼氏は「伊豆、ちっちゃいインド説」に関する諸論に関して下記の注を付している。この点は是非とも留意されたい。なお、私も同じ立場である。

これらの文章は半分以上出鱈目の噓八百を列挙したものであるという点は重ねて言及しておかねばならない。だが、カレーと伊豆という一見すると全くの無関係にも見える二項すら結合させてしまえるという事実はカレーの奥深さを示しているにほかならない。カレーほど好き勝手に出鱈目を書き連ねられる題材が他にあるだろうか。いやない。カレーとは楽しいものなのである。

阪大カレー愛好会会誌「基礎・カレー探究」

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