伊豆ちっちゃいインド説からカレーコスモロジーへ
本稿は阪大カレー愛好会会誌『基礎・カレー探究』に掲載した論考を一部加筆修正したものです。(Twitter @handaicurry)
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伊豆、ちっちゃいインド説からカレーコスモロジーヘ
2020年夏、私の所属する阪大カレー愛好会一行は夏合宿という名目で静岡県は伊豆半島に赴いた。
なぜ、カレー愛好会が伊豆の地で合宿を行うのか?我々の心を捉えて離さない伊豆半島の魅力。これはいったいなんだったのだろうか?
伊豆合宿から一年以上経つ今、カレーと伊豆がばらばらな無関係のものではないということ、即ち我々カレー愛好会が無意識のうちに伊豆に引き寄せられた理由について、おぼろげながら見えてきたことがある。本稿はそれについて記しておきたい。
カレー愛好会会員の菅沼氏(カレー小説家)は、合宿の後、この問題を正面から扱い、伊豆とインドの相似関係を鋭く指摘した論考を発表された。私も、ここに気付かされた点が数多い。
まずは以下で菅沼氏の提唱された「伊豆、ちっちゃいインド説」を確認する。
補足を加えると、伊豆半島は今でこそ日本列島の一部であるが、かつては太平洋に浮かぶ離れ小島だったのである。驚くべきことだが、プレートテクトニクスによってその小島が日本列島に突き刺さり、伊豆半島となったというのだ。伊豆は太平洋に出ずる土地なのではなく、飛び込んできた土地だというわけである。
また、さらに驚くべきことは、インド亜大陸も史的には伊豆半島と同じ成立の過程を辿ったらしいということだ。インドはユーラシア大陸に突き刺さりその衝撃がヒマラヤ山脈を形成したのだという。俄には信じ難いが、我々はこの事実を虚心に見つめる必要がある。
菅沼氏はこの成立の史的展開における伊豆とインドの共通点を捉え、伊豆の魅力はインドを介してカレーに繋がるものとして、結論している。
『伊豆、ちっちゃいインド説』の議論は、インドと伊豆の隠された共通点を鋭く指摘したものとして、注目に値すべき論考である。
ただ、『伊豆、ちっちゃいインド説』の正当性には依拠しつつも、私がもう一つ踏み込んで問いたいのはカレーと伊豆、あるいはカレーとインドの直接的な共通点である。
かつて、私は『カレーライス成立論』においてカレーについて考えるものは二項の結合の内実について考えることから始める必要があると述べ、カレーコスモロジーという概念を提唱した。伊豆とカレーの類似性を考えるにあたっても、この概念が有効であると私は考える。カレーコスモロジーとは、私にとっては、二つより一つを構成する世界原理の雛形である。
上記の引用部では俳句という文芸とカレーの成立をアナロジカルに捉えているが、伊豆半島の形成とカレーの成立もまた、アナロジカルに捉えることは容易であろう。
伊豆(あるいはインド亜大陸)は、異質な二項の出会いを、プレートテクトニクスというあまりにも巨視的な観点から我々に突きつけるからである。
伊豆とはカレーライスコスモロジーのダイナミズムを象徴する場であり、カレーライスの成立を問うた私が伊豆に魅せられるのは由縁なきことではないのである。
付記:
本稿の立場
菅沼氏は「伊豆、ちっちゃいインド説」に関する諸論に関して下記の注を付している。この点は是非とも留意されたい。なお、私も同じ立場である。
参考文献
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