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不水溶性な日常

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少しのこと、たくさんのこと、いっぱい考えたこと…についてのエッセイ。 あんなことやこんなことを誰かと共有できたらいいなと思っています。
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記事一覧

【essay】 花という名の猫のこと

【essay】 花という名の猫のこと

運命的な出会いというのは、本人が思っているほどドラマチックなことではなく、聞かされる方はどこか胡散臭さを感じることも多いのだが、運命的な出会いというのはこの世に本当に存在するものなのだろうか?
それは人と人だけではなく、人と動物、人と物などでもいいのだが、この人に会うために私は生まれてきたとか、ドラマや映画や小説などで星の数ほど描かれてきている。果たしてそれは本当に運命だったのか、単なる偶然の重な

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【essay】永遠を求めない、スープの話

【essay】永遠を求めない、スープの話

あれは、2024年があけてまだ1週間も経たない時だった。
宅配便で身に覚えのない荷物が届けられて、中身を確認してみると
『おめでとうございます。当選したました』という印刷された挨拶文とともにスープメーカーが入っていた。
その挨拶文を読んでみると、私は半年くらい前に、よく覚えていないが雑誌のプレゼントキャンペーンに応募していたらしく、それの3等が当たったらしい。それがスープメーカーだった。
さて1等

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【essay】 27歳という数字の曲がり角

【essay】 27歳という数字の曲がり角

私はもうとっくに27歳の時期は過ぎてしまった。
過ぎてしまったから、今からあれこれ考えてもしょうがないのであるが、
講談社から出版されている『わたしたちが27歳だったころ』という本を読んでいると、自分が27歳だったころのことをどうしても思い出してしまう。
『25歳はお肌の曲がり角』という化粧品メーカーのコピーが世の中の25歳前後の女性たちをヒヤヒヤさせていた時期があったり、『29歳のクリスマス』と

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映画館の隅っこで、未来をそっと夢見てた

映画館の隅っこで、未来をそっと夢見てた

【映画にまつわる思い出 with WOWOW 参加作品】

少し戸惑っていた。
私は映画に少し戸惑っていた。
今の私の素直にな気持ちである。
ありとあらゆる映画をテレビやスマホで見れる時代になった。
映画好きにとっては最大級の幸せな時代なのかもしれない。
しかし、子供も頃、母に連れられて行った映画館の子供さえも魅了する雰囲気が忘れられない。
重い扉を開けて中に入ると、外の世界と一線を画した世界がそ

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新年、後ろからズドン

新年、後ろからズドン

2024.1.3(水曜日) New Yesr

まずは …
1 月 1 日に発生した令和 6 年能登半島地震によりお亡くなりになられた方へご冥福をお祈り致しますとともに、被災者のすべての方に心より見舞いを申し上げます。

本来であれば「おめでとうございます」と、朗らかに投稿始めをするつもりでいた。
しかし、実際には不穏な新年の幕開けとなった。
元旦に起こった能登半島地震、2日には羽田空港でJAL飛

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濡れた言葉を干す

濡れた言葉を干す

2023.12.12(火曜日) washed my words in a washbowl

言葉を干す夢を見た。
言葉を干すとはどういうことか?
今も風変わりな夢を見たなぁと思っている。
夢の中で、私はフェイスタオルくらいの大きさの和紙に言葉を書いている。
文章ではなくあくまでも単語だったり熟語だったりで意味はあるようであまりないような言葉ばかりだ。
その言葉が書かれた和紙が何枚もある。
私はそ

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アボカド  マカロン  パンケーキ

アボカド マカロン パンケーキ

その人は有名デパートのロゴが入った紙袋の中から丁寧に包装された四角い箱を取り出しながら「お昼一緒に食べようと思いまして買ってきました」
と、少しもったいぶったような口調でその包装紙を剥がし始めた。
私は「えっ、ありがとうございます。気を使わせてしまってすいません」
と、そのお昼ごはんの中身に期待を寄せて心から礼を言った。
「これね、作りたてなのを入れてもらったのでおいしいですよ〜、これ嫌いな女性は

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トレルナプロジェクトのせまい裾野

トレルナプロジェクトのせまい裾野

何ヶ月かぶりにイオンに行った。

どうしてもイオンにしかないような日用品が必要になり、いつもの私の行動範囲とは反対方向にぶらぶらと散歩がてら歩いて行く。
一駅くらい歩くとイオンモールがある。
買い物を終えてトイレに行きたくて女子トイレの個室に入ったら、トイレットペーパーの上の方に通常のトイレにはない何やら見慣れない箱が設置されている。なんだろうと思って見つめる。
『OiTr』と表示があるその箱は女

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いつまでも たどり着けない ドアの外

いつまでも たどり着けない ドアの外

出かける時の段取りの悪さは、だいたい女房の方と昔から相場が決まっているのだが、我が家の場合はそれは亭主である。

女房は一旦外に出るとなると、心身ともにいろいろ時間がかかる。
やれ髪型が決まらないとか、予定していた服が似合わないとか、挙げ句の果てにはアイラインが綺麗な線になってない…などと言い出す。
そして何もかもなんとかサマになったところで「さて、出かけるわよ。わたくしのお出ましよ」と、一端の女

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日記の終い方

日記の終い方

かつて私は『立ち食い蕎麦を食べるように明日を迎えたい日記』という変なタイトルのブログを書いていた。
タイトルでもわかる通り、ちょっと気を衒った感じは否めないが、そこのところはまだ若かったということを考慮して見逃してほしい。
気を衒っていたわりには長く続いて11年も書いていた。
数年前にそのブログをやめたのだが、やめる時にすべてのデータを消去して手元にあった下書きなども全部消去したので今となってはど

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点滴ルームへようこそ 9 (the final)

点滴ルームへようこそ 9 (the final)

Day 9

夜中から降り出した雨が朝になっても止まない。
9日間の最後にして初めての雨。
雨も嫌いではないが、今はあまり歓迎する気にはならない。
しかも、冷たい雨。先日までの変な暖かさを一変して真冬の寒さがまたやってきた。
年に数回しか出番のないダウンジャケットを着て出かける。

「雨の日の病院は空いている」という勝手な推測をしながらスタスタ歩く。
今日でなくてもいい人はわざわざ寒い雨の日にはや

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点滴ルームへようこそ 8

点滴ルームへようこそ 8

Day 8

10時25分病院着。
ほぼ毎日同じ時間に出動している。
点滴ルームに入るのもすっかり慣れて、もうそこで働いている人のようにスタスタ歩き入っていく。
顔見知りになった看護師さんに「今日も元気そう。そのバック可愛いね」などと同僚に話しかけるように話しかけられる。
でもあくまでも私は患者だ。次の瞬間から看護師の真剣な表情を見ながら針を刺されることになる。
ここか境目。患者と看護師の間に流れ

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点滴ルームへようこそ 7

点滴ルームへようこそ 7

Day 7

10時25分着。いつも通り。
椅子席に誰もいない。
こんな日もあるんだなぁと思いながら窓際の席に座る。
患者数が少ないせいか、看護師さんたちも余裕があるようでにこやかに話をされている。
今日はまた違う看護師さんが担当になった。
ベテランさんだ。年齢は私と同じくらいか少し年上かなと思う。
作業を進めながら世間話を上手にされる。

「今日で7回目ですね、少しは落ち着きました?あとちょっと

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点滴ルームへようこそ 6

点滴ルームへようこそ 6

Day 6

今日の担当は、とてもノーマルな感じの看護師さんだった。
いい意味でどこにでもいる感じの人。自意識過剰の反対のパターン。
優しさも笑顔も声のトーンもとてもノーマル。
ふと人生相談なんかをしたくなるような雰囲気がある。
落ち着く。
他の患者さんの担当で通りかかった先日のテキパキ看護師さんが私に気がついて「イトカズさん、調子はどう?あと少しだね、頑張って」と声をかけてくれる。声に張りのある

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