猫の匂いがする枕
【essay】 猫の匂いがする枕
我が家にいる9歳になる花という名の猫は、彼女なりにその時々のブームがあるらしく、数ヶ月単位で寝場所を変える。
今年7月くらいまではクローゼットの一角にあるバスタオルの上で寝るのが好きで、花の姿が見えないなと思って探したら必ずそこで寝ていた。
その前はキャットタワーの最上部、その前はテレビ台の下だっただろうか。
リビングにはふかふかの猫用のベッドが置いてあるにも関わらず、彼女はそんなものには目もくれない。人間にはわからない猫なりのこだわりで寝場所を探し出してくる。
そしてそのブームが終わると、もうそこには見向きもしない。
抱いてそこに連れて行ってやっても「嫌だ、こんなところ嫌だ」とでも言いたげにすぐに飛び出してくる。
ひとつのブームが終わった時はいつもこんな調子だ。
さて、次はどこになるのか…
次のブームがやってくるまでお試し期間があるようで、いろんなところで寝てお試しをしている。
リビングにある自分のベッド、キャットタワーの上にあるハンモック、私の寝室のベッドの下、椅子の上、あらゆるところをお試しして、今回決まったのが私の枕だ。
私たち夫婦は、寝室が別々である。
私の寝室にはダブルベッドが置いてあり、枕はダブルベッド用の長い枕を使用している。
ある日の夜中、私はぐっすり寝ていたのだが、何かが頭に触ったような気がして目が覚めた。左を下にして横向きで寝ていた私は薄明かりの中で目の前にある黒い物体に気がついた。びっくりして読書灯をつけてみたら、もうお分かりであろう、花が私の枕の半分を利用して寝ていた。
「勘弁してくれよ、寝返りがうてないではないか」と思ったがその夜はそのまま寝た。朝になって私は起きても彼女はその枕で昼過ぎまで寝ていた。まさか、今度の彼女のブームは私の枕ではあるまいか...という不安を彼女は裏切ることなく、その日から彼女の寝床は私の枕となった。
夜中に目が醒めると目の前にお尻がある時がある、かと思えば顔のどアップがあって鼻息を感じることさえある。時には私の頭に後ろ足で蹴りを入れたりする。彼女が大きく伸びをすると、枕の半分以上を占領することとなり、私は隅っこで寝返りもうてずに寝ることとなる。
そのことを友人たちに話すとみんな一応に「か〜わ〜いい〜」と言う。
いやいや、それは違う。
私はちゃんと睡眠をとりたい。人間としてちゃんと休息をとりたいと思っている。
今朝もまた彼女のお尻を見つめながら目が覚めた。
「おい人間、もう起きるのか?」とでも言いたげに眠そうな目を私に向けている。私は「あぁ...」と、ため息を漏らし寝不足の疲れた足取りでいち日を始めるのだ。
日中、そっと寝室を覗いてみると枕のど真ん中で気持ちよさそうに眠る猫がいる。
枕の匂いを嗅ぐと、猫の匂いがする。
そして、枕は毛だらけである。
彼女の『人間の枕で寝るブーム』が早く終焉することを日々願う。
読んでいただきありがとうございます。 書くこと、読むこと、考えること... これからも精進します。