あらきさんの編集覚え書き

修行中の人文書編集者です。海外文学シリーズを準備中。出版にかかわるいろいろな立場の人が…

あらきさんの編集覚え書き

修行中の人文書編集者です。海外文学シリーズを準備中。出版にかかわるいろいろな立場の人がお互いの仕事を理解し、風通しがよくなるように、という思いで書いています。自分でもはっきり分かっていなかったことをまとめていますので、間違いやご指摘があれば優しく教えください。

記事一覧

固定された記事

(人文書の)編集者は何をしているのか  ——1冊の本ができるまで

出版というのはどんくさいもので、1冊の本ができるまでに、どんなに早くても3ヶ月くらいはかかります。学術書であれば10年とか、それ以上の年数が掛かるということも珍しく…

〈アジア文芸ライブラリー〉についての記事・報道・イベントまとめ

2024年4月、春秋社でアジアに特化した海外文学のシリーズ〈アジア文芸ライブラリー〉の刊行を開始しました。わたしが企画立ち上げと、ほぼすべての作品の編集を担当してい…

【編集後記】朱和之『南光』中村加代子訳〈アジア文芸ライブラリー〉

「日本で一番高い山ってどこだと思いますか?」 わたしの恩師のひとりである東洋史の先生は、学期の授業のはじまりに、こんな質問を投げかけて学生たちをキョトンとさせて…

【編集後記】ツェリン・ヤンキー『花と夢』星泉訳 〈アジア文芸ライブラリー〉

シリーズ〈アジア文芸ライブラリー〉の最初の一冊として、ツェリン・ヤンキー『花と夢』(星泉訳)が4月18日に発売されました。担当編集者として、本作の企画の経緯や魅力…

#アジア文芸ライブラリー ができるまで

〈アジア文芸ライブラリー〉という、海外文学の新たなシリーズを立ち上げます。アジアの同時代の文学作品を翻訳して、書籍と電子書籍で出版するシリーズです。わたくしがシ…

【編集後記】内山田康『美しい顔 出会いと至高性をめぐる思想と人類学の旅』

今月(2024年2月)に発売される、内山田康『美しい顔 出会いと至高性をめぐる思想と人類学の旅』の編集を担当いたしました。 もともと福島の『日々の新聞』で内山田さん…

高卒フリーターの「僕」が一流商社の支社長代行として軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した話

仕事で石川コフィさんの『筋肉坊主のアフリカ仏教化計画——そして、まともな職歴もない高卒ほぼ無職の僕が一流商社の支社長代行として危険な軍事独裁政権末期のナイジェリ…

あの記号やあのアクセント記号を入力する方法(mac編)

àとかÉとかüのようなアクセント記号のついた文字や、¿や« ギュメ »のような記号類をmacのJISキーボードで入力する方法をまとまておこうと思います。 A. 基本編まず…

自己紹介

あらきともうします。本名はともかく(探せばすぐ分かると思いますが)「あらきさん」と呼んでもらえるとうれしいです。 春秋社という出版社で人文書と、海外文学の編集を…

論文に「本稿」「拙稿」は使っていいのか問題

「稿」とは未完成の文章という意味合いがあるので、論文に「本稿では〜」と書いたり、既発表の論文を「拙稿」と書くのは適切じゃないのではないか、という趣旨のツイートを…

洋書に印刷された数列「1 3 5 7 9 10 8 6 4 2」の謎

洋書の著作権表示のあるページに、以下のような謎の数列を見たことがないでしょうか。 場合によっては「1 2 3 4 5 6 7 8 9 10」という順だったり、 「1 3 5 7 9 10 8 6 4 …

新連載「文字の渚」(岩切正一郎)によせて——担当編集者より

フランス文学者・詩人・戯曲翻訳家であり、わたしの母校・国際基督教大学(ICU)の学長である岩切正一郎先生による連載「文字の渚」が春秋社のウェブマガジン「web春秋 は…

見やすい校正記号とは? 著者校のときに注意してほしいこと② (暫定版)

前回は著者校・訳者校のときに知っておいていただきたいことをまとめておきました。 今回はその続編です。著者校のときに用いる「校正記号」の使い方について気を付けてい…

著者校・訳者校のときに知っておいてほしいこと、注意してほしいこと (暫定版)

ここでは、著者校・訳者校(以下、すべて「著者校」としておきます)でゲラに朱字を入れるときに知っておいてほしいこと、気に留めておいてほしいことをまとめておきたいと…

翻訳書ができるまで② 翻訳出版の契約と編集、そして読者のもとに届くまで

さて、前回にひきつづき、翻訳書ができるまでにどういう仕事を出版社の編集者が行っているのかを、ご紹介します。翻訳書以外の本(主に人文書)ができるまでは、先日ご紹介…

翻訳書ができるまで① 版権エージェントという仕事

先日、1冊の本ができるまでの過程を、おもに人文ジャンルの本に注目してご紹介しました。意外なまでにたくさんの人に読んでいただいて光栄です。みなさん書籍編集の裏側に…

(人文書の)編集者は何をしているのか  ——1冊の本ができるまで

(人文書の)編集者は何をしているのか  ——1冊の本ができるまで

出版というのはどんくさいもので、1冊の本ができるまでに、どんなに早くても3ヶ月くらいはかかります。学術書であれば10年とか、それ以上の年数が掛かるということも珍しくなく、たとえば昨年末に上梓された安藤宏『太宰治論』(東京大学出版会)は、安藤先生のライフワークである太宰治研究の集大成といえるものですが、あとがきには「当初の刊行予定から二〇年以上も遅れてしまった」と書いてあります。本ができるまでは長い

もっとみる
〈アジア文芸ライブラリー〉についての記事・報道・イベントまとめ

〈アジア文芸ライブラリー〉についての記事・報道・イベントまとめ

2024年4月、春秋社でアジアに特化した海外文学のシリーズ〈アジア文芸ライブラリー〉の刊行を開始しました。わたしが企画立ち上げと、ほぼすべての作品の編集を担当しています。このシリーズとその収録作品についての記事・書評・イベントなどをまとめてご紹介します。

春秋社の発行物〈アジア文芸ライブラリー〉内容見本(リーフレット)

三つ折りのリーフレットを作成しました。書店で配布しているほか、オンラインで

もっとみる
【編集後記】朱和之『南光』中村加代子訳〈アジア文芸ライブラリー〉

【編集後記】朱和之『南光』中村加代子訳〈アジア文芸ライブラリー〉

「日本で一番高い山ってどこだと思いますか?」

わたしの恩師のひとりである東洋史の先生は、学期の授業のはじまりに、こんな質問を投げかけて学生たちをキョトンとさせていました。

ああ、あれのことね、とすぐにピンときた方もいらっしゃるかと思いますが、「富士山」以外の答えを思いつかない方は、ぜひこの本を読んで答えを探してみてください。

朱和之『南光』について

アジア文芸ライブラリーの第二作目として、

もっとみる
【編集後記】ツェリン・ヤンキー『花と夢』星泉訳 〈アジア文芸ライブラリー〉

【編集後記】ツェリン・ヤンキー『花と夢』星泉訳 〈アジア文芸ライブラリー〉

シリーズ〈アジア文芸ライブラリー〉の最初の一冊として、ツェリン・ヤンキー『花と夢』(星泉訳)が4月18日に発売されました。担当編集者として、本作の企画の経緯や魅力を書き残しておきたいとおもいます。

『花と夢』について

舞台は00年代のラサ。ナイトクラブでセックスワーカーとして働く4人の女性たちを主人公に、それぞれの人生と共同生活を描いたシスターフッドの物語です。急速な都市化、農村の困窮や、伝統

もっとみる
#アジア文芸ライブラリー ができるまで

#アジア文芸ライブラリー ができるまで

〈アジア文芸ライブラリー〉という、海外文学の新たなシリーズを立ち上げます。アジアの同時代の文学作品を翻訳して、書籍と電子書籍で出版するシリーズです。わたくしがシリーズの企画立ち上げから、ほぼすべての作品の編集を担当しております。勤務先である春秋社より、2024年4月より刊行されます。

3月中旬に発表があってから、SNSでは多くの反応をいただきました。これまでも多くの出版社から、アジアの現代文学は

もっとみる
【編集後記】内山田康『美しい顔 出会いと至高性をめぐる思想と人類学の旅』

【編集後記】内山田康『美しい顔 出会いと至高性をめぐる思想と人類学の旅』

今月(2024年2月)に発売される、内山田康『美しい顔 出会いと至高性をめぐる思想と人類学の旅』の編集を担当いたしました。

もともと福島の『日々の新聞』で内山田さんが連載されていたものに、加筆修正を加えて書籍化しました。著者の内山田さんが連絡と取ってくださったことからはじまって、最初は難解でよく分からないなあ、どうしようかなあ、などと思いながら原稿を読んでいたのですが、100頁を超えたあたりから

もっとみる
高卒フリーターの「僕」が一流商社の支社長代行として軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した話

高卒フリーターの「僕」が一流商社の支社長代行として軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した話

仕事で石川コフィさんの『筋肉坊主のアフリカ仏教化計画——そして、まともな職歴もない高卒ほぼ無職の僕が一流商社の支社長代行として危険な軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した2年間の話』という本をお手伝いしました。

この本は副題にあるとおり、著者の石川さんがひょんなことから某一流商社の支社長代理(社内では支社長代理の扱いだが、厳密には現地採用の契約社員)として軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任し

もっとみる
あの記号やあのアクセント記号を入力する方法(mac編)

あの記号やあのアクセント記号を入力する方法(mac編)

àとかÉとかüのようなアクセント記号のついた文字や、¿や« ギュメ »のような記号類をmacのJISキーボードで入力する方法をまとまておこうと思います。

A. 基本編まずはmacの文字入力に備わっているいくつかの機能をご紹介しておきます。以下の3つをおさえておけば、文字・記号の入力で困ることはほとんどないのではないかと思います。

① アクセントメニュー

欧文のアクセント記号を入力する場合に最

もっとみる
自己紹介

自己紹介

あらきともうします。本名はともかく(探せばすぐ分かると思いますが)「あらきさん」と呼んでもらえるとうれしいです。

春秋社という出版社で人文書と、海外文学の編集をしております。似たような名前の出版社が他にもいくつかありますが、週刊誌でスクープを飛ばしているところではありません。

経歴

平成生まれです。都立戸山高校を中退した後、無職やフリーターをして、専門学校で鍼灸師の国家資格を取得しました。

もっとみる
論文に「本稿」「拙稿」は使っていいのか問題

論文に「本稿」「拙稿」は使っていいのか問題

「稿」とは未完成の文章という意味合いがあるので、論文に「本稿では〜」と書いたり、既発表の論文を「拙稿」と書くのは適切じゃないのではないか、という趣旨のツイートをして、ちょっとした議論を巻き起こしてしまいました。

まず、言葉の使い方というのは一義的に正しい/間違いと決められるものじゃなくて、状況や媒体、文脈、使い手の個性、など様々な要素で決まるものだと思っています。

言葉の使い方の「正しさ」には

もっとみる
洋書に印刷された数列「1 3 5 7 9 10 8 6 4 2」の謎

洋書に印刷された数列「1 3 5 7 9 10 8 6 4 2」の謎

洋書の著作権表示のあるページに、以下のような謎の数列を見たことがないでしょうか。

場合によっては「1 2 3 4 5 6 7 8 9 10」という順だったり、
「1 3 5 7 9 10 8 6 4 2」という不思議な順番だったりします。

これはPrinter's Keyとかnumber lineとか呼ばれるもので、数列のなかにある最小の数値がその本の「刷」を表します。つまりその本が、何回目に

もっとみる
新連載「文字の渚」(岩切正一郎)によせて——担当編集者より

新連載「文字の渚」(岩切正一郎)によせて——担当編集者より

フランス文学者・詩人・戯曲翻訳家であり、わたしの母校・国際基督教大学(ICU)の学長である岩切正一郎先生による連載「文字の渚」が春秋社のウェブマガジン「web春秋 はるとあき」で始まりました。わたしが編集を担当しています。

* * *

まずはどうしてこの企画に至ったのかを書いてみます。

わたしはあまり本を読む子どもではありませんでした。本格的に読書をするようになったのは、中学生の頃、それも受

もっとみる
見やすい校正記号とは? 著者校のときに注意してほしいこと② (暫定版)

見やすい校正記号とは? 著者校のときに注意してほしいこと② (暫定版)

前回は著者校・訳者校のときに知っておいていただきたいことをまとめておきました。

今回はその続編です。著者校のときに用いる「校正記号」の使い方について気を付けていただきたいことをまとめておきたいと思います。前回書いた通り、ゲラに入れた朱字を人の目で見て、人の手で修正していく訳ですから、読みやすい方が修正する人には優しいですし、ミスや事故も起こりづらくなります。では読みやすい・分かりやすい朱字ってど

もっとみる
著者校・訳者校のときに知っておいてほしいこと、注意してほしいこと (暫定版)

著者校・訳者校のときに知っておいてほしいこと、注意してほしいこと (暫定版)

ここでは、著者校・訳者校(以下、すべて「著者校」としておきます)でゲラに朱字を入れるときに知っておいてほしいこと、気に留めておいてほしいことをまとめておきたいと思います。なお、わたしはわりと小さい出版社の専門書や学術書(ときどき文芸)の編集者ですので、それ以外のジャンルの書籍ではやり方や呼び方が異なるかもしれませんのでご注意ください。また、紙のゲラでのやりとりを前提にしています(うちはアナログなの

もっとみる
翻訳書ができるまで② 翻訳出版の契約と編集、そして読者のもとに届くまで

翻訳書ができるまで② 翻訳出版の契約と編集、そして読者のもとに届くまで

さて、前回にひきつづき、翻訳書ができるまでにどういう仕事を出版社の編集者が行っているのかを、ご紹介します。翻訳書以外の本(主に人文書)ができるまでは、先日ご紹介しました。

また、前提知識として「版権エージェント」「出版エージェント」という仕事があることを、前回ご紹介したので、未読の方はまずこちらをお読み下さい。

翻訳書ができるまでのおおまかな流れは、翻訳以外の本と大きく変わるわけではありません

もっとみる
翻訳書ができるまで① 版権エージェントという仕事

翻訳書ができるまで① 版権エージェントという仕事

先日、1冊の本ができるまでの過程を、おもに人文ジャンルの本に注目してご紹介しました。意外なまでにたくさんの人に読んでいただいて光栄です。みなさん書籍編集の裏側に関心があるようで、嬉しいかぎりです。

このなかで翻訳書についてはまた改めて書きましょうと書きました。期待の声もあったので、翻訳書のできるまでを解説しようと思ったのですが、そのためにはまず「版権エージェント」「著作権エージェント」などと呼ば

もっとみる