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高卒フリーターの「僕」が一流商社の支社長代行として軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した話

仕事で石川コフィさんの『筋肉坊主のアフリカ仏教化計画——そして、まともな職歴もない高卒ほぼ無職の僕が一流商社の支社長代行として危険な軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した2年間の話』という本をお手伝いしました。

この本は副題にあるとおり、著者の石川さんがひょんなことから某一流商社の支社長代理(社内では支社長代理の扱いだが、厳密には現地採用の契約社員)として軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した2年間のことをまとめた回想録です。内容は(多少の表現の誇張は含むかもしれませんが)すべて実話です。

とはいっても著者の石川さんがなにか超人的な力とか非凡な才能でなにかを成し遂げた訳ではなく、むしろ数奇な運命が石川さんのもとに波のように押し寄せてきた、という感じです。以下ではその石川さんの数奇な運命をご紹介しようと思います。若干のネタバレを含むかもしれませんが、この記事をお読みいただいてから本書を読んでいただいても変わらずおもしろく読めるはずです。


葉山の山中でお題目を叫んだけもの

高校卒業後、適当な職業を転々としながらフリーター生活をしていた「僕」こと石川さん。運命を変えたのは、ある一本の電話でした。知り合いの社長さんからの電話は、アフリカに仏教を広める活動をしているという日蓮宗系のお坊さん。かつてはウェイトリフティングの選手で、国体で優勝した経験もあるほどの筋肉質だ。

そのお坊さんのお寺は葉山の山の中に建っていて、「僕」(以下、鉤括弧は省略)はそのお寺を訪ねていきます。到着するなり太鼓に合わせてお題目を大声で唱えるという修行をさせられますが、ひとしきり終えたあとは鍋をつつきながら晩酌。赤ら顔になったお坊さんは僕にこう言いました。

「わしの義理の弟がM社で人事の責任者をしている。いまM社でナイジェリア支社長を募集している。わしが紹介するから、君が行きなさい。」

M社と言えば日本を代表する一流商社。大声でお題目を唱えた甲斐があったのか、急に降ってきたコネ入社の話に心を躍らせ、後日都内にある本社で面接を受けることになった。

もし一流商社の採用面接に高卒ほぼ無職の30歳が現れたら

格安のスーツを新調して都心のM社本社ビルに面接に行った僕。面接会場に集まったのは見るからに一流商社にふさわしいエリートばかり。しかし僕にはコネがある……。そう思って会場に辿り着くと、人事担当者は「石川くん、ちょっと。」と言って僕を面接室じゃなくて応接室に通してくれた。やっぱりコネがあると面接も特別待遇でやってくれるのか、と思っていると、人事担当者は予想外のことを言い放ちます。

君以外から選ぶから、君はもう帰って。

そうか、いくら人に困っているからと言って、どこの馬の骨かも分からない高卒フリーターを採用する訳がないよな……。急に夢から醒めた気分でやけ酒を呷り、その日はトボトボと帰宅した。

採用されたらVIP待遇だった件

それから数日経ったある日、僕のバイト先の電話が鳴った。声の主は先日面接をしてくれた(面接とは言えないだろうが)M社の人事担当者。

「実は、君以外が全員ナイジェリア行きを辞退したんだけど、君はまだナイジェリアに行く気はありますか?」

僕以外が全員ナイジェリア行きを辞退したのには理由があった。1998年の当時、ナイジェリアは軍事独裁政権下。独裁者サニ・アバチャはノーベル賞作家や民主活動家などを次々と投獄し死刑を宣告していたし、最大都市のラゴスは当時「世界一治安が悪い都市」として悪名を世界に轟かせていた。

しかし、話を聞いてみれば2年間の任期でそれなりの貯金が貯まるほどの給料が貰え、現地では家と運転手付き、おまけに年2回の静養休暇まで貰えるという好待遇。フリーター時代には作れなかったゴールドカードを作り、会社支給のJALビジネスクラスのチケットで、赴任先のラゴスに向かった。

しかし経由地のロンドンで目を疑うようなニュースが飛び込んできた。恐怖政治を敷いていた独裁者サニ・アバチャが急死したというのだ。慌ててM社ロンドン支社に判断を仰ぐと、状況が分からないから、とりあえずラゴスに行け、という指示。

こうして到着したラゴスでは、武装強盗に怯えながら酒浸りの日々を送る。街では汚職や暴動が日常化していた。支社長の異常な生活と、如何にして心配するのを止めてラゴスで暮らすようになったか、の詳細は本書に詳しく書いてありますのでここでは省略します。

太鼓しか持たない日蓮系の僧侶と、彼の布教の時

1960年の独立以来、ナイジェリア国内は民族対立が絶えず、世界史上に名を残すほどの死者を出したビアフラ戦争や、度重なるクーデターと軍政によって国内は混沌としていた。しかし独裁者の急死によってナイジェリア連邦共和国は突然民主化へと足を進めることになる。

1999年、民主選挙で大統領に選出されたのは民主活動家として名を馳せたオルシェグン・オバサンジョ氏。70年代に軍政のトップとして民政移行を果たした実績があり、アバチャ政権下では反逆罪で投獄されていた人物である。

驚くべきはこのオバサンジョ氏、僕をナイジェリアに誘った謎のマッチョ坊主の「親友」なのだという。ナイジェリアが混沌に陥る前、マッチョ坊主はオバサンジョ邸に居候しながらナイジェリアに布教活動をしていたという。しかし情勢が不安定になり、身の危険を感じた彼は帰国を決め、オバサンジョも投獄されてしまった。

民主化を果たしたナイジェリアでオバサンジョが大統領に選出されたために、そのお坊さんが布教のためふたたびやってくることが決まった。僕がお坊さんをオバサンジョ邸まで連れて行くことになったのだが……なんとこのマッチョ坊主、オバサンジョ新大統領と掴み合いの大喧嘩をすることになります。その顛末はぜひ本書でお楽しみください。

書籍の一部は、以下から試し読みをすることができます。

著者の石川さんは現在、荻窪でアフリカン・バー〈トライブス〉を経営しています。

書誌情報

筋肉坊主のアフリカ仏教化計画
そして、まともな職歴もない高卒ほぼ無職の僕が一流商社の支社長代行として危険な軍事独裁政権末期のナイジェリアに赴任した2年間の話
石川コフィ[著]

2024年1月 全国発売
46判上C・264頁 カラー口絵8頁
定価(本体1800円+税)

ISBN 978-4-393-49541-4

装丁:鎌内文
装画:千海博美


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