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洋書に印刷された数列「1 3 5 7 9 10 8 6 4 2」の謎

洋書の著作権表示のあるページに、以下のような謎の数列を見たことがないでしょうか。

場合によっては「1 2 3 4 5 6 7 8 9 10」という順だったり、
「1 3 5 7 9 10 8 6 4 2」という不思議な順番だったりします。

これはPrinter's Keyとかnumber lineとか呼ばれるもので、数列のなかにある最小の数値がその本の「刷」を表します。つまりその本が、何回目に増刷(重版)されたものであるかを示しています。たとえば、

First Edition
10 9 8 7 6 5 4 3

と書かれていれば、その本は初版の「第3刷」ということです。

「版」と「刷」の違い

さてここで、「刷」(impression)について、少し説明しましょう。似たような言葉に「版」(edition)もあります。

同じ本でも、内容に手を加えたり、レイアウトを変えたりしたらそれは「版」が変わることになります。活版印刷や木版を想像していただければ分かりやすいかもしれませんが、内容が変わると印刷するための版が変わりますよね。版が変わると次に出るのは「第2版」(second edition)、その次が「第3版」(third edition)というふうに増えていきます。

内容は変わらずに全く同じ版から刷った場合、刷が増えていくことになります。初版の2回目は「初版第2刷」(first edition, second impression)、次が「初版第3刷」になります。

ちなみに厳密に使い分けるなら前者が「重版」、後者が「増刷」なのですが、実際には両方とも「重版」と呼ばれることが多いと思います。

なぜ最小の数値が刷次なのか?

洋書のprinter's keyに話を戻しましょう。なぜこうしたややこしい方式になったかというと、その起源は活版印刷の時代に遡ります。

活版印刷というのは、ご存じの通り活字を組んで版を作りますよね。もともとはその上にインクを塗り、紙を置いて印刷していたのですが、それでは効率が悪いし耐久性にも問題があるので新しい方式が発明されました。それが輪転印刷機というものです。版を円筒状にして、ガラガラと廻して印刷することで高速で大量に印刷することを可能にしたわけです。

活版を円筒状の版にするために、まず特殊な厚い紙に活版を押しつけて凹版を作ります。それを湾曲させて、鉛を流し込むことで「鉛版」と呼ばれる凸版を作ります。これを輪転機にセットして印刷するわけです。

それで、増刷するときに「第2版」とか「2nd impression」みたいな新しい文字列を追加すると、また活版を組み直して、紙型と鉛版を作り直さないといけません(実際、和書の奥付ではそうしていたのだと思います)。しかし「1 2 3 4 5 6 7 8 9 10」から「1」を取るだけなら、物理的にそれを削り取ってしまえば済みます。10回増刷したらまた「11 12 13 14 15 16 17 18 19 20」と組んだ版を作り直して、12刷のときに「11」を削り取れば良いのです。

ちなみに、「1 3 5 7 9 10 8 6 4 2」という不思議な並びは、両端から削っていくことで、刷を重ねても中央揃えがキープされるという仕組みです。

両端から取れば真ん中が残る

「2 3 4 5 6 23 22 21 20」みたいに二桁数字が付く場合もあって、これは二桁の方が印刷年を示します。この場合、2020年に第2刷が出たということ。色々な方式が標準化されないまま現在に至ります。 今はPCで組版を行うので、単純に「001」「13」みたいに現在の刷の数字だけを書く場合も多くなっていますね。

上記のツイートがプチバズってしまったので、noteにも書き残しておきます。

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