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著者校・訳者校のときに知っておいてほしいこと、注意してほしいこと (暫定版)

ここでは、著者校・訳者校(以下、すべて「著者校」としておきます)でゲラに朱字を入れるときに知っておいてほしいこと、気に留めておいてほしいことをまとめておきたいと思います。なお、わたしはわりと小さい出版社の専門書や学術書(ときどき文芸)の編集者ですので、それ以外のジャンルの書籍ではやり方や呼び方が異なるかもしれませんのでご注意ください。また、紙のゲラでのやりとりを前提にしています(うちはアナログなので……)。

本を出すとき、編集者に原稿を渡したら、しばらくしてゲラが送られてきて、「著者校」つまり著者によって文章を修正すること、を行うことになります。はじめての著作や訳書を出す場合はやり方もよく分からず手探りで行うのではないでしょうか。編集者から説明はあると思いますが、それも人によって丁寧に教えてくれる人もいれば、「分かればいいですよ」と言う人もいます。でもそれでは不安ですよね。

多くの人は、初校に入れた朱字通りに再校で直っているのを見て、合ってたんだと分かって安心する、それでなんとなくやり方を覚えていく、という感じではないかと思います(実は朱字があまりにマズくて編集者が思いっきり手を入れてからゲラを戻している場合も稀にあるのですが、そのことを著者は往々にして知らないのです)。

朱字を入れて自分の手を離れたゲラを、だれがどのように処理しているのかをなんとなくでも分かっていれば、朱の入れ方も変わると思います。朱字の入れ方ひとつでも、編集者や組版者(DTPオペレーター)を喜ばすことも泣かせることもできます。そういう観点から注意点をいくつか書き留めておきたいと思います。

当然、ちゃんとコミュニケーションを図って円滑に編集・製作を進めるのは本作りの監督たる編集者にあると思っています。著者にその責任を押しつけることはすべきでありませんが、いくつかの点を気に留めていただけると、無駄なく効率的にスケジュール通りに進めることができますし、本作りに関わる人たちがハッピーに仕事できます。

著者校の進め方や注意点について、言語学の専門出版社であるひつじ書房さんの「著者校正のやり方」が非常によくまとまっているので、まずはこちらを、ぜひ読んでいただきたいです。以下に書く内容と一部重複しますが、大切なことなのでご承知ください。

とはいえ、修行中のわたしも、よく分かっていないことばかりです。特に組版者・校正者の方々、同業者の方々からのご指摘やご指南、また著者・訳者の皆さまの質問などもいただけるとありがたいです。この記事は、いただいたご意見や気付いたことを反映して随時更新します。なお編集・刊行の一連の流れについては以前書いたこちらの記事をご参照ください。

※ ※ ※重要な注意書き ※ ※ ※
書籍の製作・編集・校正は会社によっても編集者個人によってもジャンルによってもやり方が異なります。なるべく一般性のある記述を心がけたつもりですが、実際の著者校にあたってはここで記載する内容と異なる場合があります。担当編集者とよく相談し、分からないことなどがあれば担当編集者にお尋ねください。

(※どうでもいいのですが、ここでは赤ペンで入れる文字のこと、「赤字」だと経営的な意味を連想してしまうので「朱字」と書いています。別にどちらかが正しい訳ではありません。)


そもそもゲラはどうやって作られ、修正されるのか

まず、書籍の編集・製作の工程は、会社や編集者によってやり方が異なります。ざっくり言うと、大きい出版社であれば分業して外注することが多く、小規模なところは編集者ができることは編集者自身が行う事が多いと思います。したがって著者校をはじめとする進行も、他社で本を出したときと異なる場合があります。編集者とよくコミュニケーションしながら進めてください。

著者校をどのように行うかもまたそれぞれです。wordや一太郎で大まかなレイアウトを設定して印刷したもの(棒ゲラ・仮ゲラなどといわれるもの)で校正する場合もあれば、組版済みのもので校正する場合もあると思います。後者の場合は四隅にトンボ(裁断する場所を示したもの)が付いて、書体やレイアウトも書籍と同じ形になっているから見た目ですぐ分かると思います。前者の場合は校正が進んでから(どの程度進んでからなのかは、また多様なのですが)組版へと進みます。

その組版の作業を行うのは、これもまた会社のやり方によって異なりますが、おもに外注先のDTPオペレーターやデザイナーか、取引先の印刷会社や組版会社、あるいは編集者自身、のいずれかだと思います(自社で組版する部署がある場合もあるのかな?)。小規模な出版社なら編集者自身が組版を行う場合もありますが、でなければ一度編集者の手を離れ、専門の知識と技術を持った個人や会社に依頼することになります。wordや一太郎で書かれた原稿を、InDesignなどの組版ソフトを使って文字を組んで、ゲラの形にするわけです。(なお、以下では、組版の作業をする人を、「オペレーター」と書くことにします)

組版という作業は一般にはあまりよく知られていないかもしれません。原稿を書籍のレイアウトにして文字を組んでいく作業のことで、かつては金属活字を物理的に組んでいました。今はPC上で行われますが、それでもwordのテキストをInDesignに変換して終わり、というような単純な話ではありません。日本語組版には複雑なルールがありますし、編集者やデザイナーから個別にレイアウトや規則の指定があり、それに従って文字を組みます。書体や大きさ、行送り(行間)、余白、見出しの体裁などの指示を見て、オペレーターがその通りに文章を組み、ルビや注を付け、記号の処理をして、見出しや級下げを設定して……。見出しの泣き別れ(見出しと本文の始まりが別のページになってしまうこと)は許容されるのか、見開きなら許容なのか全部ダメなのか、欧文のハイフネーションは許容するか、ルビは肩付きか中付きか等の点も、指定に従って、細かいところは個別に判断しながら組んでいきます。

こうした組版の作業はwordみたいに簡単にできると思われるかもしれませんが、そんなことはありません。詳しく説明するするとそれだけで一回分の記事になるのでやめますが、知識と技術の必要な作業です。活字からデジタルに移り変わることで自動化された部分は多いのですが、それでもなお人の手で行わないといけない作業はたくさんありますし、InDesignにはバグも多いのです。重要なのはwordや一太郎で書いた原稿が自動的に紙面の形に変換される訳ではありません。人の手で作業しています

そのため、入稿前に一度、編集者は原稿整理というのをやります。表記を統一したり、記号類をルールに沿ったものに変えたり、体裁を整えたりして、テキストを入稿に適した状態にします(オペレーターの方でも行いますが)。余計なミスを防ぐためにも整った状態で原稿を渡していただくとありがたいのですが……、整った原稿とは何かはまた機を改めて書きましょう。ともかく地道な作業を経て、原稿はオペレーターへと渡されるのです。

さて無事に組版が済むと、印刷(もしくはPDF出力)されたものが初校ゲラとして出校されます。これをまず編集者(もしくは校正者)が指定通りに組めているか、原稿と違いがないかをチェックします(これを引き合わせと言います)。そして間違いなどを朱字で訂正し、疑問を鉛筆で書き入れ、著者・訳者に廻ってくるわけです。基本的には疑問や提案は鉛筆で書かれますが、校正は鉛筆、編集は青字、と使い分けることもあって(わたしはこれが結構良いと思うので普及させていきたい)やり方は微妙に異なります。

ゲラに著者・訳者や編集者や校正者が朱字を入れたら、またオペレーターの手に渡ります。オペレーターがゲラに入った朱字を見て、組版ソフト上のデータを修正するのです。そうして出るのが再校ゲラ。再校が出たら、編集者が初校ゲラに入れた朱字がちゃんと反映されているかをチェックします(これも引き合わせ)。以降、三校、四校……と続きます(続かないときも多いけど)。最後に確認の為に取るのが「念校」です。

なお以前も書きましたが、ゲラにする前は原稿なので「稿」、ゲラ(校正刷り)にすると「校」です。ここは区別しておいてください。ゲラになった文章を「原稿」と呼ぶと混乱しますからやめてください。

朱字の入れ方について

先述のとおり、ここではおもに紙のゲラでの作業について書いていきます(わたしの勤務先がアナログなので)。

PDFを使った電子校正については、特に定まったガイドラインとかは現状ではないのですが(かつてはありましたが今は役に立たない)、紙ゲラと同じように画面上に赤を入れていくやり方が一般的だと思います。なお、Acrobatのコメント機能を使うのではなく、直接校正記号やテキストを赤で書き込んでいくやり方にしてくだい。なぜならオペレーターはゲラと画面上のInDesignを見比べながら作業するので、ゲラ側は一目見て修正指示が分かるようにしておく必要があるからです。

さて、まず校正する上で最も大切なことは、入れた朱字が自動的に修正される訳ではありません。人間がゲラを見て、修正しています。人間が読める字で書いて下さい。

基本的に編集者のもとに返送されたゲラは、編集者がチェックして、オペレーターに伝わるように書き換えたり補記したりしてからオペレーターのもとに戻されます。まずは編集者に伝わるように書くことが一番です。

朱を入れる際は一般的に校正記号と呼ばれるものがが使われています。著者校では厳密に校正記号を使うことは求められないと思いますが、「校正記号」でググれば一般に使われるようなものはほとんど出てきますし、上位に表示されるような、印刷会社や出版社が作成したものであれば概ね参考にしていただいて問題ないでしょう。詳しく知りたい方は日本エディタースクール編の以下の書籍を参考にしてください。この本は日本産業規格のJIS Z 8205 : 2007に忠実に準拠している印象です。

先述のとおり、ゲラに入れた朱字をみて修正を行うのは担当編集者ではない場合が多いのです。もちろん、担当編集者が一度一通りチェックして、書き直したり書き加えたりしてからオペレーターの手に渡す訳ですが、客観的に見て分かるものの方がエラーが起きにくいです。編集者の補記だらけになるとまた分かりづらくなるので、書籍のイメージや文脈を全く共有できていない人にも、一目見ただけで分かるように修正の指示をするとよいです。そのための校正記号です。とはいえ厳密に校正記号を使おうと堅苦しく構えるの必要はありません、実際に修正する人が見やすい・わかりやすいように書くことを意識してください

編集者や自分のまわりの人が当然のように知っている専門用語・固有名詞も、修正する人は知らないという前提で書くようにしてください。既出の言葉だから分かるだろう、とお思いかもしれません。たしかに分からなければ前後の文脈を確認したり調べたりして修正してくださるものの、その分の手間が掛かります。

校正記号は赤で書くことが原則です。逆に修正指示でないコメントや補足は付箋を貼るか鉛筆を使うかで書いてください(共著書など複数人が校正する場合、誰が入れた文字かを区別するために別の色を使いたければ、対応可能ですのでお伝えください)。

また、編集者や校正者からの疑問は鉛筆で書かれていますから、それをチェックして判断してください。鉛筆書きの通りに修正する場合は、その鉛筆書きに○を付けてください。それ以外の文言に修正する場合はその通りに朱字を入れ、修正しない場合は斜線を引いて抹消してください(消しゴムで消すと疑問出しをしたことを確認できないので、消さないでください)。

組版のオペレーターは朱字を、その通りに直していくのが仕事です。指示は明確に、具体的である必要があります。「もう少し図版を大きくできませんか?」「この表現で大丈夫でしょうか?」などのコメント・質問は赤ペンはなく、鉛筆書きをするか、付箋を貼り付けるなどをしてください。

また曖昧な指示・抽象的な指示も、できるだけ朱字ではなく鉛筆で書いてください。こちらで具体的な朱字にして戻します。たとえば文字を「大きく」「目立つように」と書かれても、オペレーターさんの方ではどのように修正するか分かりません(まあ、適当に対応してくれるのですが)。たとえば見出しの文字を目立つようにしたければ、「18Q筑紫オールドゴシックB」などと具体的に指定するのです(「18Q」は文字の大きさ、「筑紫オールドゴシック」は書体名、「B」はウェイト(太さ)のことです)。とはいえ書体の選定や大きさの指定は編集者が行いますので、イメージを伝えていただければ結構です。

もうひとつ大事な点は、朱字を入れるということはそれだけ人の手による作業が発生しているということです。修正は自社組版でなければ取引先に依頼するので、朱字を入れれば入れただけ費用が発生している場合もあるということです(世知辛いですが、大まかに1頁いくらと設定する場合もありますが、印刷会社や組版会社なら1文字X円と請求されます)。もちろん、本の内容をより良いものにするために手間や費用を惜しんではいけません。朱字を入れて、本としての完成度を上げるために校正しているのですから、修正を遠慮する必要はありません。しかしいたずらに場当たり的な修正を繰り返すことは経営的にも望ましくありませんし、なにより実際に作業を行う人にたいしての敬意を欠いた態度です。朱字の後ろ側には、つねに修正してくれる人がいることを覚えておいてください。

もし、自分が朱をかなりたくさん入れるタイプの人間であることを自覚している場合は(そういう文章の書き方を特性として持っている人もいるので、それが悪いことではありません)、前もって相談していただければなるべく組版代が掛からないように工夫することもできます。

その他著者校について希望するやり方があれば(最低2回は行いたいとか、こういう部分は校正者にしっかりチェックしてもらいたいとか)があれば前もって(理想としては費用が発生しそうな問題は最初の打ち合わせの段階、それ以外は原稿が完成する頃に)編集者に相談してください。

読みやすい朱字・校正記号とは?

校正記号はJISで定められているとはいえ、ただそれに忠実に従っていればいいかというと、じつはそうではありません。JIS準拠の校正記号だけでは書き表せないこともありますし、分かりやすく書き記すためにちょっとしたポイントがいくつもあります。書き始めてみたら結構な量になったので、別記事にしました。以下をご覧下さい。


大きな修正について

著者校をしていると大きなミスに気付いたとか、内容に問題があるとかでゲラに朱字を入れるだけでは対応できないような修正が必要になることもあるかもしれません。そうした大きな修正についても書いておきます。

まず、ゲラにした後の大きな修正はできるかぎり避けて下さい。場合によっては作業に膨大な手間と費用が発生します。言い換えれば、原稿は完成したものを渡して下さい、ということです。まだ不十分だけどゲラで直せばいいか、というのは多方面に迷惑が掛かる可能性があります。もし編集者に渡した段階で、まだ大きな修正が入りそうであれば、その時点でその旨を伝えて下さい。その部分だけ後で入稿する(完成した部分だけでもゲラにして先に進める)とか、ゲラにせずにwordで作業を進めるとか、いろいろと打つ手はありますから遠慮なくご相談ください。

それでも、どうしてもゲラに大きな修正を入れなければならない場合もあると思います。朱字が多過ぎでカオスになりそうであれば、部分的に差し替えることもできますし、まとまった文章を挿入することもできます。その場合は挿入/差し替えの箇所に朱字でその旨を記入し、該当のテキストのプリントアウトを貼付し、テキストはメールで送付して下さい。またプリントを貼付する際は、印刷された文字の上にのり付けしないようにして下さい(クリップで留めるなどでも可ですが、送るときに再度取れていないか確認してください)。

実際には1パラグラフ程度では済まないと思いますが……。

誤解していただきたくないのですが、この方法を使えば差し替えや挿入をしても良い、という意味ではありません。あくまで大幅な修正が必要で、朱字を入れればかえって見づらくなってしまう時の手段だということです。組版というのはテキストデータをInDesign上に貼り付けて終わり、というような単純な作業ではありません。上で紹介したひつじ書房さんの文書でも書かれている通り、一度組んでもらった文章を削除して差し替えるということは、その分の手間を蔑ろにすることです。十分に注意してください。

また、大きな修正を入れてしまうと、組版だけでなくその部分の校正・校閲をした手間も無に帰することになります。校正者による校正が1回だけの場合は、差し替え・加筆した箇所は校正の目を通らずに出版されるということになるというリスクもあります。

出版社によっては大幅な修正には別途修正料が発生する場合や、出版条件等の変更がありえます。製作費が嵩めば定価・部数に影響するかもしれません。あまりお金のことを気にして修正を躊躇ってほしくはないのですが、書籍も出版社が販売する商品である以上、コストが掛かっているということを、頭の片隅にでもおいていただけるとありがたいです。出版助成を受けている場合は定価・部数が後から変更できないこともあるのでコストもシビアにならざるを得ません。十分注意して下さい。

また、工程が進むにつれてページ数の増減も繊細になります。ページが増えれば予算に影響し、定価・部数や採算にも関わりますし、束(つか=本の厚み)が変われば装幀にも影響します。書籍の製本は、大きい紙に裏表8ページずつ印刷したものを折って3辺を裁断した16ページ単位の「折」で構成されているため、1ページ増えただけで総ページ数が何ページも増える可能性があるのです。そして章末の余白が少なければ数文字増えただけで2ページ増えるということさえあります。

ページ数の調整が必要であればどこか削っていただく場合もあります(それも改頁や見出しの関係で、どこでもいい訳ではないのです……)し、どうしても量の多い修正が必要であれば、分かった段階で早めに相談してください。再校とか三校で、なんの相談もなく何ページ分も加筆された朱字を発見すると頭を抱えます。

また、レイアウトを後から変更すると全体に影響が及びます。もし本文の文字を大きくしてほしい、行間や余白を広めにしてほしい、こんな感じの造本にしたい、という要望があれば、ゲラになる前に(つまり原稿を渡した段階で)お伝えください(編集者の方から聞いてくる場合もあると思います)。レイアウトにこだわりがあるのなら、見本組(レイアウトの見本)をお見せすることもできるのでご相談ください。一度全てゲラになってしまうと、基本的にはレイアウトの変更はできません。本文書体を大きくする、行間を広くする、余白を大きくする等、wordでは一発で変換できることでも、書籍の組版は繊細ですからそうはいきません。

そのほかの注意点

図版の修正について……グラフ・表・図などは(引用して借りてくるのでなければ)組版と一緒に作図を依頼しています。これも修正は可能ですが具体的である必要があります(少し右に→右に3mm、色を濃くする→K50%、大きくする→左右20mmに、など)。この指示は編集者が慣れているので、朱字を入れるのは編集者に任せるとして、著者の側では別紙やコピーにイメージを描いていただけると良いです。

ただし、イラストレーターさんに描いてもらっている場合は納品後の修正はできません(できても修正料がかかります)。ラフの段階でよくチェックしてください。

フリクション(消えるボールペン)について……意図せず消える可能性があるので、使わなくて済むなら使わない方が良いです。特に再校以降は消えていたことに気付かなくなるリスクが増えますので、使わずに綺麗に書けそうであれば使わない方が良いです。

とはいえ使っている編集者は多いはずです。校正校閲の方が使っているという話はあまり聞かないので、やはり使わない方が良いのだと思いますが。

フリクションは熱で消えるので、冬場や夏場は注意して下さい。熱を発するものの近くに置かない、ゲラの上にノートPCを置いて作業しない、日の当たる窓辺に置いておかない、締め切った車内に放置しない、等。万が一消えてしまった場合、冷凍庫に入れると朱字は復活します(霜が付かないように注意)が、意図的に消した文字も復活します。

ゲラをなくした・汚した場合………著者校に送ったものは「正ゲラ」「本ゲラ」と呼ばれる唯一のものです。大切に扱ってください。万が一なくしたら、控えゲラやPDFがありますので担当編集者に伝えてください(控えには編集者や校正者が書いた朱や鉛筆が控えられていないことがあるので次善の策だということを忘れないでください)。1枚でも抜けたまま返送されると事故の原因になりますので、なくした場合は絶対に編集者に伝えてください。またゲラの周辺にコーヒーを置かないことをおすすめします。

また、ゲラは修正がなかったページや白ページも含めてすべてのページを戻してください。

スケジュールについて

事前に編集者と打ち合わせをする際に、①著者校を何回行うか、②それぞれどのくらいの期間で返送するか、③後から入稿するもの(はじめに・あとがき)の締め切り、を決めると思います。よく確認し、メモしておいてください。

いずれもスケジュールに変更がありそうな場合、それが分かった段階ですぐに担当編集者に相談してください

スケジュールは取引先や他部署も絡む問題です。編集者は書籍をいつ頃に刊行するかを事前に決めて、それに合わせて様々な部署や取引先との調整を進めて行きます。具体的にいえば、校正やデザインの手配をしたり、印刷や製本の手配をしたり、営業部に頼んで書店への案内をしてもらい取次(問屋)の配本スケジュールを決めてもらったりします。刊行スケジュールが変われば、様々な方面に調整が必要になります。

来週校了の予定だったけど、ちょっと校了が遅れそうだから再来週にしてください、とかそんなに簡単に言えません。印刷所・製本所が空いているかも分かりませんし、発売日も取次のスケジュールが空いているか分かりませんし、よしんば空いていたとしても手間が掛かりますし、発売日が変われば書店や取次や読者を混乱させるおそれがあります。年度末の忙しい時期などは特に取引先も忙しいので変更できない場合が多いです。早ければ早いほど対応がしやすくなります。

編集者って「先生! 締め切りすぎてます!」って追いかけているイメージがあるかもしれませんが、編集者だって締め切りに追われているのです! 過去にこんな記事も書いたので、お読みください。

校了前後のこと

ゲラを返送したあとにミスや誤植に気付いてしまった!という場合でも、校了するまでは修正ができます。ただし校了直前の行数やページ数の変動は(たとえ数文字や1行であっても)(索引を付けるならなおさら)全体に影響するし、事故の原因になるので気を付けて下さい。どうしても修正が必要だとか、ミスに気付いたらなるべく早く連絡して下さい。

特にゲラを返送した後に何度もメールで修正の指示を送るというのは方々に迷惑が掛かる場合があります。気の弱い編集者だと断れなくて、泣きながら行数・ページ数の計算をして、ひとりでストレスを溜め込んでいる場合もあるかもしれません(「え〜今それを言うの〜」とブツブツ言って頭を抱えながらゲラに入朱している、そんな編集者を何度も見てきました……)。編集者が何も言わないからといって著者都合の修正を繰り返していい訳ではない、ということを、弱気な編集者に代わってここで書き留めておきたいと思います……。

校了日は事前に確認すると思いますが、校了直前は急な確認に備えて電話に出られるようにしていただけるとありがたいです。

校了して2~3日後に、じつは編集者が「白焼」という、印刷前の最終段階の確認をしています。校了してもここで修正ができる(ただし基本的には誤植や、修正しないとマズいレベルのミスに限られる)ので、校了後にミスに気付いたらできる限り早く編集者に連絡をして下さい。これを過ぎると正誤表を入れないといけなくなります。

校了したら編集者を労ってあげるといいかもしれませんし、全てをわすれて祝杯をあげているからそっとしといてあげる方がいいかもしれません(わたしは後者なので労いやお礼のメールは不要です)。

また、刊行される書籍を、献本や買い上げである程度まとまった数が必要であれば分かった段階で(まずは概数でもいいので)ご相談ください。書店にたくさん在庫があっても、出版社には在庫がない場合もあります。「明日50冊送って下さい」と言われても(ご注文は有難いんですけど)、対応しかねるときがあるのです。

※この記事は暫定版です。組版、校正の方や同業の方からのご意見を参考に磨いていきたいと思いますので、お気づきの点やご指南などをいただけるとありがたいです。また著者・訳者の方からの質問もお待ちしております。
連絡はコメント、Twitter(DMも開放してます)、メール(araki.shun118@じーめーる.com)からお願いします。


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