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#小説
美しき、百“希”夜行(夜天/女王蜂)
今、『先が見える人』と『先が見えない人』は、どちらの方が多いんだろう。
終わりが見えないなんちゃらウイルスに、もしかしたら明日起こるかもしれない震災に。
行きたい場所へ、行けない。
誰かに会いたいのに、会えない。
ピリピリした現実。
あっちを向いても、こっちを向いても、一寸先は闇。
自分のこともそうだけど、自分が好きな人達も。
たとえば、好きなミュージシャンのこと。
僕の大好きなバ
知らない、知らない(なにごともなく、晴天。/吉田篤弘)
まずいコーヒーのことなら、いくらでも話していられる。
――本文より引用
で、始まる小説を、まさしくまずいコーヒーをすすりながら再読していた。「まずいコーヒー」は、どこかの誰かを悪く言っているわけじゃなく、いや、どこかの誰かではあるのか。他ならぬ自分自身。
焙煎に失敗した豆を、試飲していた。まずいというか、クセがひどいというか。とにかく、飲み進めることができない。そういえば、同氏の小説には、「
遭難したときは、(ハイライトと十字架/kazumawords.)
遭難したときは、その場から動くべきじゃないらしい。それは、その通りなんだろうけど。助けが来ないことが、わかりきっていたら。自分でなんとかするしかないと、知ってしまったら。それでも、動かない方がいいんだろうか。
*
しんとしていた。音がなかった。そんな読後感だった。雪が静かに、切れ目なく降り積もり。気付けば、身動きできないほど埋もれている。よく見れば、それは雪じゃなく灰で。溶けてくれないし、どけ
「自分と違っている者」たちの話(カモメに飛ぶことを教えた猫/ルイス・セプルベダ)
「最後に、ひなに飛ぶことを教えてやると、約束してください」
(中略)
「約束する。そのひなに、飛ぶことを教えてやる。さあ、もう休むんだ。ぼくは助けを呼んでくるから」
――p37-38より引用
もうすぐしぬことがわかっているカモメは、会ったばかりの猫に、これから生まれる子どもを託す。カモメじゃないどころか、羽も生えていない生きものに。
それは、他に託す人(?)がいなかっただけじゃなく。この人な
「し」(灯台守の話/ジャネット・ウィンターソン)
自分で自分の死となり、みずからそれを選び受け入れるとは、いったい何という人生だろう。(中略)今の俺にできることは、せいぜいこの死を味わいつくすことだけだ。
――本文より引用
この本を読み始め、中盤に差しかかったとき、ぼくは「し」と隣り合わせだった。正確に言えば、生きている内は、常に「し」と隣り合わせだけど、そういう話ではなく。他人に自分の首を絞められたり、自分で自分の首を絞めたり、そんなことが
いばしょ を つくろう(天窓のあるガレージ/日野啓三)
1
ガレージには天窓があった。
2
少年は長い間、それに気付かなかった。
――(第1章,第2章)
すぐそばにあるものに、気付かないことがある。それが、後々(少なくとも、自分にとって)重要になるものであれば、なおさら。あの現象は、なんなんだろうか。名前を付けられないだろうか。
一言二言で終わる二つの断章。で、始まる「天窓のあるガレージ」。は、堀江敏幸の「戸惑う窓」に登場した。
自家用車を事故
身に覚えのない風景(無題/カーソン・マッカラーズ)
「人は何もかも計画することなんてできないんだよ」
――本文より引用
このセリフだけは、よく覚えていた。
覚えていたというか、ぼくのどこかで痕になって、膿んでじゅくじゅくした音を立てるのを聞いていた。そのくせ、空であらすじを辿ろうとすると、上手くいかない。
『無題』(カーソン・マッカラーズの20代のころの習作。未完成のまま、後年未発表作品集としてまとめられた。)は、アンドルーという青年の追憶