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日記じゃないもの

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日記以外をまとめたものです。
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2022年2月の記事一覧

それがキレイに聞こえない

それがキレイに聞こえない

 例えば「努力は裏切らない」という言葉。一見すると素晴らしい言葉だが、言うだけなら俺でもできる。大事なのはそう思う根拠にある。なぜそうなるのかの証拠になる個人の体験が大事であるのに、肝心のそこが抜けてる状態で放り投げられるのをちらほら見る。そのキレイなラベルにふさわしい中身が伴わないことには、私の場合、知らないやつが頼んでもないのにやってきて、無責任なアドバイスをしてくるようで少し癪に障る。

 

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【二次創作】『人切り以蔵』の終盤

【二次創作】『人切り以蔵』の終盤

――以蔵が自白する前夜のこと

「先生が俺に毒入りの弁当を食わせるとは」

 他の寝静まった頃、以蔵はひとり獄中のなかでその悔しさに歯を軋ませて、この有様についてふつふつと考えていた。

「俺がこの勤王党のためにどれだけ尽くしたか先生は忘れたのか。それに労をねぎらうどころか、散々忠義を尽くしたこの俺を口を割ると決めつけて、切り捨てるだと。いつまで俺を無下に扱えば気が済むのだ」

 以蔵は、

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風が吹けば桶屋が儲かるRTA

風が吹けば桶屋が儲かるRTA

 新進気鋭のロックバンド「風が吹けば」のデビュー曲「桶さえあれば」が空前のミリオンヒット。これが若者のトレンドになり、桶が大流行。桶屋が儲かる。

風が吹けば桶屋が儲かる

風が吹けば桶屋が儲かる

〈遠い昔、まだお風呂がなかったころ…〉

 風が吹いた。日本に移り住んだ人類は北風のあまりの寒さに頭を悩ませていた。そのなかの一部がトチ狂い、ヤケクソで入った池がなぜか温かいことに気づく。これが温泉のはじまりであった。そして、空前のお風呂ブームへ。

 しかし、いきなり入ると熱くて体がビックリするという多くの苦情が全国から寄せられた。人々は入浴前にちょっと体にかけて、体を慣らせるようなものを渇

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風が吹けば桶屋が儲かる(2)

風が吹けば桶屋が儲かる(2)

 風が吹いた。北に位置するこの国には雪混じりのこごえる風が今日も吹き荒ぶ。北国ではその寒さゆえに、口をあまり開かず発音をする傾向にある。だから、この「OK」という外来語は、口を開かず、且つ内容を短く伝えるのに格好であり、瞬く間に庶民の間に広がっていった。

 一方、この国の国王は英語を知らなかった。だから、巷では常識になっていた「OK」という言葉も知らずにいた。その間にも「OK」はさらに広がりを

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【掌編小説】Aの取り調べ調書

【掌編小説】Aの取り調べ調書

――ええ、私がやりました。こういうの「間違いありません」と容疑を認めています、ってよく聞きますよね。へへっ。あ、すいません。

――あいつは高校の同級生でした。面白い奴だったんですよ、殺しましたけど。それが、社会人になって金の無心をするようになって…。周りはみんな断っていたらしいんですが、高校の頃のあいつを知っているだけにどうも嫌いになれなくて、でもそれがよくなかったんだ。あいつは僕の良心につけ

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情報という支配-テレビについて

情報という支配-テレビについて

 情報というのは誰から教わるかで話が違ってくる。お酒の席で聞きたくもないお酒のうんちくをベラベラ語りだす先輩と、品のある人のさりげなく話すソレとでは、全く同じことでも私からすれば、事情が大きく異なる。

 そんな「情報」を、先入観なくすんなり教わっていたのがテレビであった。私はこの四角いのから、流行だとか、何が面白いとか、世の中のことも色々と教えてもらった。私の世代はこういう人が多いと思う。テレ

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【掌編小説】キュートアグレッション

【掌編小説】キュートアグレッション

 彼女は自分のことが大好きであった。本当の彼女は彼女自身にしか理解できない、真に自分のことを愛せるのは自分だけだと本気で信じていた。自分だけがこの寂しい世界の唯一の理解者だった。だから、誰からも見向きもされない日にも平気であった。彼女の心は、いつも自分を見てくれていたからである。

 それと、鏡が苦手であった。鏡は心に映る現実から引き戻すからだ。素顔のままに鏡に立っていることは彼女の生きる自信を

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愛をはかる人たち

愛をはかる人たち

 子どもには人間の基礎が詰まっている。親戚の子どもなどを見ていると、それが意図せず漏れ出るので見てて面白い。

 子どもは無邪気なふりをするのがうまい。腹の底で思っていることは、たぶん私と違わないはずなのにである。こうなると、見た目は大事なんだと嫌でも思わされる。

 やつらはモノをよくねだる。私もそうであった。さして欲しくもないモノに駄々をこねて、親が愛想を尽かせてどこかへ行ってしまうと、泣

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言葉に針をつける

言葉に針をつける

 呪術廻戦に呪禁師とかいうズルい感じのやつがいる。簡単に言うと「動くな」といえば相手が動かなくなり、「死ね」というと死ぬという具合である。世話ないわ。

 ここまで行かずとも、言葉には力がある。ときに人を癒し、人を傷つける。だが、この言葉やみくもに使って、だれしも同じ効果を得るわけではない。「動くな」を銃を構えた警察が言うのと、知らんおっさんが言うのとでは話が変わってくる。「愛してるよ」を真面目

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催眠術が解けたら

催眠術が解けたら

 私たちはルールのなかで生活している。本来、破ろうが生きていけるのだが、大半の人はそれをしない。さて、仮にこのルールが明日から無くなったとして、人間は今まで通りに生活するだろうか。この手の自由意志の話は、理系の方々は一笑に付すかもしれないが、私はその答えを知らないので、興味がある。

 司馬遼太郎の話のなかに、石山合戦を扱ったものがある(題名は忘れた)。この話によれば、石山本願寺のリーダーは「織

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のびのび生きる悪役たち

のびのび生きる悪役たち

 映画なんかで、主人公よりも悪役の方が存在感を放っているものがある。有名なのだと、「ダークナイト」「ノーカントリー」、「レオン」も個人的にはスタンフィールドの方が印象的だ。これが海外ドラマにもこの手のがちらほらある。

 それで、この前の三連休でドラマ版のファーゴ・シーズン4を全話観た。ファーゴは概略として、どのシーズンも登場人物たちのちょっとした選択ミスが重なって、どんどん話がおおごとになって

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「造語」って面白い

「造語」って面白い

 料理に問われるべきは見た目よりも味である。食事の主旨は、見ることよりも食べることにあるからだ。だから、美味しければ、あとのそれ以外は何でもよい(限度はあるが)。

 言葉についても同じだと思う。いかに拙くても、極論伝わればよいと思っている。だが、なかには目を惹きつつ、中身が伴ったものもちらほらあって、それが題の「造語」である。特に、歌詞のなかにそれを見つけたりする。

 有名なものだと、井上

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【掌編小説】サトゥルヌス

【掌編小説】サトゥルヌス

 仕事がようやく片付いたときには、職場は彼女ひとりだけになっていた。出社するべく、階段へさしかかると、そのすぐ下の踊り場で熊とも人間ともつかない大きな化け物が彼女の上司を鷲掴みにして、無我夢中で喰っていた。上司の方はピクリとも動かない。

 すくんだままに、その様をじっと見ていた。左腕につけた時計。あの嫌みったらしい女上司に間違いなかった。

「テメエのせいでこんな時間まで仕事をする羽目になっ

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