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『公園物語』 その4

『公園物語』 その4

公園に"救い"の手が入った。

行政だ。

公園のボーボーに伸びていた雑草を一気に刈ってくれたのだ。
電動の機械で。
僕が手動でやった草刈りはなんだったんだと思うけど、まあそれはいい。
今がいいならそれでいい。

それによって公園がすごく綺麗になった。
なるほど、清潔感って大切なんだな。

これで「虫がいるからあの公園いきたくない!」って言ってた子どもたちも公園に来てくれるだろう。
どうやら僕は公

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「天才とホームレス」 第5話

「天才とホームレス」 第5話

中学が始まるまでの春休み、
僕らは毎日おっちゃんのとこにいた。
朝から晩までだ。

あれからママがとやかく言うことはなくなった。
まだパパとは話せていないけど。
おっちゃんはそのことについて、何か聞いてくることはなかった。

その日、おっちゃんのナワバリの広さに、さらに驚くこととなった。

朝、おっちゃんが「肉が食べたい」とつぶやいたかと思うと、農具を置いて歩き出した。
僕らも声をかけられて、おっ

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「天才とホームレス」 第4話

「天才とホームレス」 第4話

「お前は何をしてるんだ」

第一声がそれだった。
グッと胸が苦しくなる。

「この大事な時期に遊びまわって、
 中学受験もせず、母親にもそんな態度で、、、」
相変わらずこっちの話は聞かない。
ろくに家にいないくせに。

「僕は公立中学に行きます。
 私立受験はしません。まあもう間に合わないけど」
カッとなって立ち上がった。
前と同じだ。
同じじゃダメだ、と思って言葉を絞り出した。
「あのさ!
 僕

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「天才とホームレス」 第3話

「天才とホームレス」 第3話

てっぺいは「教室ビジネス」を急速に発展し始めた。

家庭教師が教えてくれたことがある。
「良いビジネスモデルは売れる」
僕はこのとき、この言葉を理解した。

てっぺいはクラスに弟子を作り始めたのだ。

「えんぴつけずり」「消しごむハンコ」の注文は増え続けていた。
そして自分でもできるんじゃないか、という男たちも出てきていた。
それを見て、「教えてやろうか」と声をかけていったのだ。

そして注文をそ

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「天才とホームレス」 第2話

「天才とホームレス」 第2話

日曜の夜、僕にパパとの交渉の場が設けられた。

毎日あった家庭教師を半分に減らしたい。できるだけあの河川敷のブルーシートの家で、てっぺいとおっちゃんと過ごしたい。そして門限を6時に設定し、余計な心配をされるリスクを減らしたい。だから、まずてっぺいの話をしてその次、、、

「ダメだ」
は?

なにも言っていない内に放たれたパパの一言目がそれだった。
あまりの強引さにイラついた。
用意してただけに狼狽

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「天才とホームレス」 第1話

「天才とホームレス」 第1話

小六のこんな中途半端な時期に転校してきたコイツは、ひどく個性的な見た目をしている。

髪の毛はボサボサで、服は汚れていて、ずっと口を開けている。
授業中もずっと歌ってるし、貧乏ゆすりもひどい。
黒板を見ることもなく、何かをノートに書き殴っている。

かと言ってずっとひとりぼっちなわけじゃなく、休み時間になるとクラスの人気のある女子を口説いていた。
とにかくマイペースで周りの目は気にしない。
だいぶ

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小説『走る。』 最終回

小説『走る。』 最終回

 十年後……。
おれとりこはフランスのパリにいた。

パスターパウロの知り合いの神父が、二人の評判を聞いて、それぞれの作品を見て気に入り、大聖堂に飾る絵を依頼してくれたのだ。
どうせなら夫婦二人の合作として描いてほしいということになり、二人でパリに来てもう二週間になる。

薄暗い中、ステンドグラスを透った太陽の光と静寂と共に作業を進める。
「その感じいいね。おれ好きやで」
絵は二人でキャンバスを半

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小説『走る。』 9話

小説『走る。』 9話

 土曜日になった。

あの日曜日以降もずっと描き続けた。
あの日を境に描きたい絵のイメージも描きあがる絵も徐々に変わっていった。
水曜日だけ会社を休んで描いた。
仕事は嘘のように平和で、何をしたかもあまり覚えてないほどだった。
今度は絵画教室に行くことにした。
描いた絵を持って行って仙人に見てもらおうと思った。

教室につくと一週行かなかっただけなのに、ずいぶん久しぶりな気がした。
いつも通りにウ

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小説『走る。』 8話

小説『走る。』 8話

 そこからの一週間は描きまくった。

浮かんだアイデアもあいまいなものなので、何回もスケッチをしては描き直した。
教室で仙人にアドバイスをもらうことも考えたが、これは一人でやるべきだ、やりたいと思った。

りことわかれて、そこから家に帰り、すぐにスケッチブックを取り出した。
朝まで描いて、寝て、起きてからも描いた。
月曜と火曜も、どうしても絵以外のことをしたくなくて、体調不良と言って会社を休んだ。

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小説『走る。』 7話

小説『走る。』 7話

完成した絵は教会の入り口のところに飾られることになった。
りこの絵は絵画教室で題材を見て描くような実在するものを描いてあるわけではなかった。
近くで見るとわけがわからないような、いわゆる抽象画というやつだ。
しかし一歩離れて全体を見ると、感動した。

真ん中には曲の中で感じたような真っ赤で熱いものがある。
炎のようにも見えるし、そうでないようにも見える。
その周りは希望があふれているような温かい色

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小説『走る。』 6話

小説『走る。』 6話

あっという間に一週間が過ぎた。

ライブペイントの日。土曜日。
教会には、絵画教室の後にりこと一緒に行くことになった。
教室ではだれかわからない石膏像の絵を描いた。
影をつける色の塗り方を教わった。
少し色を暗くして重ね塗りすることでグッと奥行きが出てリアル感が増す。
じっくり二時間、描くことができた。
作品として完成はしなかったが、またグンとうまくなったような気がした。

教室の時間が終わり、片

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小説『走る。』 5話

小説『走る。』 5話

週が明けると仕事が忙しくなっていた。

客先で商品の不具合があったのだ。
その回収やら謝罪やらで、自分の客先のみならず、ほかのところにもヘルプで行かなければならなかった。
残業に残業が重なり、土日には出張が入り、とても教室に行く余裕などなかった。

その次の週には少し落ち着いた。が、それでもまだ忙しく、土曜日にも仕事が入り二週連続で教室には行けなかった。

忙しさの中で紗良さんの顔を思い浮かべては

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小説『走る。』 4話

小説『走る。』 4話

 帰り道、いつもの土手を歩いて帰る。
土曜日の午後、人は少ない。
最後に仙人に言われた言葉を考えずにはいられず、頭の中でくるくるとさせながらふらふらと帰っていた。その時、
「あ! 紗良さん!」
今日は紗良さんをデートに誘おうと思ってたんだった。すっかり忘れていた。急に思い出して声に出してしまった。

もやもやしてきて、
「よし、戻って誘いに行こう!」
と、つぶやいて振り返るとそこにはあの、教室で睨

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小説『走る。』 3話

小説『走る。』 3話

 一ヵ月が経ち、
早くも絵画教室が毎週の楽しみになっていた。

就職でこっちに来たから同期以外に仲のいい人はいないし、休日に予定もない。週に一度の楽しみとしてはちょうどよかった。

 絵はどんどんうまくなった。
家でも暇があれば描いた。
それでも周りの学生たちやプロと呼ばれる人たちには追い付ける気がしなかったが、仙人の教えは毎度目からウロコだった。
構図や光の扱い方、筆の流れなど、知るたびに納得で

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