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「天才とホームレス」 第2話

日曜の夜、僕にパパとの交渉の場が設けられた。

毎日あった家庭教師を半分に減らしたい。できるだけあの河川敷のブルーシートの家で、てっぺいとおっちゃんと過ごしたい。そして門限を6時に設定し、余計な心配をされるリスクを減らしたい。だから、まずてっぺいの話をしてその次、、、

「ダメだ」
は?

なにも言っていない内に放たれたパパの一言目がそれだった。
あまりの強引さにイラついた。
用意してただけに狼狽えた。

「おまえは人の上に立つ人間になるんだぞ。
 甘えるな。
 家庭教師はサボらずにやれ。以上!」

僕は空いた口が塞がらなかった。
こんなにも話ができないのか。
予定と違いすぎて何も言えなくなってしまった。
ただ腹は立って、立ちすぎて、ご飯に手をつけずその場で立ち上がって、
「違う!もういい!」
そう言って自分の部屋に上がった。

部屋に入ってから、ああすればよかった、こうすればよかった、とアイデアが浮かんできてうざかった。
もう考えても仕方ないのに。どうしても考えてしまう。
考えれば考えるほど腹が立ち、ムシャクシャして仕方がない。
Youtubeを見て頭を空っぽにする。
普段はそんなことしないのに。
ただチャーハンを作る厨房を定点カメラで映している動画を繰り返し見て寝た。

次の日、僕は家に帰らなかった。
もう家出をしてもいいと思った。
それぐらいキレていた。

友達はいない。
友達の家に逃げ込むことはできない。そんなこと初めっから考えていない。
おっちゃんの家だ。あそこならいける。
虫が出そうで嫌だけど、それさえなんとかすれば大丈夫だ。

河川敷に行った。
てっぺいとおっちゃんは、打ち上げたロケットの活用方法を延々と話している。
かなり画期的なロケットの仕組みだったから、論文を書いて学会に発表したり、宣伝に使ってその技術を転用したりすれば、と提案したが、そういうのはあの町工場の人たちがやるらしい。
「わしはそういうのは興味ないんや」と、一蹴された。

うーん。わからない。
有名になりたくないのか? お金を持ちたくないのか?
それじゃあ本当に仙人じゃないか。

結局、宇宙から見た地球の映像を、タバコ屋の前にモニターを置いて延々と流すということになった。
なんだそれ?

訳もわからないまま、そのモニターの設置を手伝った。

そしてその日は家に帰った。
警察はいなかった。
ママが何かを騒いでいたが、できるだけ怒っているという雰囲気を出し、黙って上に上がる。
鞄を置いて、ご飯が出てくるであろう時間を見計らって下におり、黙って席に着く。
何も言わない僕を前にママはオロオロしている。
さっきは怒っていたくせに、今は宥めようとしている。

僕は黙ってご飯を食べ、黙って上に上がった。
風呂に入って寝た。


次の日、駄菓子も売っているそのタバコ屋の前に大量の少年少女が集まっていた。中学生もいる!
こんな映像、家でYoutubeで見れるだろう、、、
でも集まって見ている。釘付けだ。

その様子をおっちゃんとてっぺいと3人でこっそり見ている。
おっちゃんは「よしよし」と言いながら、そこを離れた。
河川敷に戻って畑のことや、家のことをいろいろした後に、
さっきから二時間経った頃に再びタバコ屋に行った。

まだその映像を見ている人が3人いた。
おっちゃんはその3人に声をかけた。

「おまえら、宇宙が好きなんか?」
そう聞かれた3人は驚いていた。
でも、ロケットを飛ばし、この映像を撮った人だと知ると、たくさんの質問をし始めた。

なるほど、これを狙っていたのか。
その質問に見事に答え、その3人を仲間に引き入れた。

夕方、3人の歓迎会をした。
またタバコ屋からもらった駄菓子と刺身で乾杯をした。

このブルーシートハウスの整い具合にやはり驚きを隠せないようだった。
畑まで見たらもっと驚くだろう。
楽しみだ。

3人は年齢も性別も学校もバラバラだった。
「私はセナって言います!南小の4年生です!」
僕より二個も下の女の子だ。
黒縁メガネで真面目そうに見えるが、その奥の目はキラキラしている。
「算数オリンピックに出ました!数学が好きです!」
は?
算数オリンピック??
「僕はヤヘイと言います。中1です」
年上か。日に焼けていてスポーツをしている見た目だ。坊主だ。
「僕は宇宙飛行士になりたいんです。
 宇宙についての知識は同年代の誰にも負けません」
おお、、、
また強そうな、、、
「僕はハマです。あ、苗字の浜中のハマです。」
こいつは明らかに変なやつだ。天パだ。
「パソコンオタクです多分、はい」
表情が変わらない。読めない、、、
手がずっとカタカタと動いている。
自分が霞んでいく気がした。

「おお、ええやないか。
 頼むぞ、これから。わしがロケットを教えたるからな」
何をしようとしてるんだ、この人は。

宴会は続いた。

しかし、僕の心は焦っていた。
僕には何があるだろうか。
満遍なく勉強ができるだけの自分がなんだかちっぽけに思えた。

しかし6時を少し過ぎる頃、そんな僕におっちゃんが、
「おい、ゆきや。
 あいつらはあの町工場に派遣するけど、おまえはこっちに来いよ。
 おまえにはビジネスを一緒に考えて欲しいんや」
そう言って肩を抱いた。

僕の心が急速に安心していくのがわかった。
その手があったかかったからか。
包み込まれた気がした。

てっぺいも全くその3人のことを気にしていない感じだった。
もうロケットには興味がないのだ。
それを使ってどんなアイデアを出すかしか考えていないみたいだ。
それを見てまた僕は安心した。
てっぺいのことが好きになった。

その日は帰ったのが7時近くになった。
もう真っ暗だった。
ママは何度も外に出て僕を待っていたらしい。
少し心が痛んだ。

でもグッと堪えて「怒り」を継続した。
ママは悲しそうだった。

その夜僕は、これからどうしようかとなかなか眠れなかった。



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