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『公園物語』 その12

『公園物語』 その12

骨組みだけで屋根のない、赤レンガのスペースにあるベンチに、
少女が僕から1.5メートルあけて座る。

いつもは何人かと共に行動をする彼女だが、
皆が早めに帰ったために、夕暮れ時に一人だった。

僕は画材を片付けつつ、彼女に話しかけた。

「よう、一人やん」
「はぁ? うるさいわ!」
そんなふうにツンツンしている彼女である。
僕に対しては、触れるものみな傷つける、といった感じなのだ。

カチャカチャ

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「天才とホームレス」 第14話

「天才とホームレス」 第14話

中学校には小学校の倍の人がいた。

二つの小学校から来るのである。
しかし、半分は小学校から知っている顔だ。
中学受験で減ってはいるが。

『えんぴつけずり』の弟子たちは、
中学でもやかましかった。
すでに自分の家かのようだ。

もう一つの小学校、北小の人たちの中心グループともすでに仲良さそうである。
やはりすごい。

てっぺいは相変わらずマイペースで、相変わらず浮いている。
改めて集団の中で見る

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『公園物語』 その11

『公園物語』 その11

夏を乗り越えて過ごしやすい秋になった。

その頃、僕は長年の夢だった、油絵を始めた。

夏休みの前あたりの僕の誕生日に、母が油絵セットを買ってくれた。
30歳の誕生日である。妻は驚いていた。
まあくれるというのだから、ありがたい。

気温が下がって、蚊がいなくなった頃、
「そうだ、公園で描こう」
と、また閃いてしまった。

馬鹿でかいキャンバスに、油絵を描くのが夢だったんだ。

馬鹿でかいとは言え

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「天才とホームレス」 第13話

「天才とホームレス」 第13話

おっちゃんは不労所得が嫌いらしい。

「働いた分、お金をもらう。
 働かんと儲かったらそれは搾取や。友達やない」
鍬を横においてまっすぐな目で言った。

「え、でも、いろいろタダでもらってるやん。
 あれはおっちゃんが助けたからやろ?
 それって報酬じゃないん?」
てっぺいがツッコむ。
「ちゃう。あれに義務はないやろ。
 あれは善意で友情や。
 働いた分の報酬はもうもろとる」
確かにてっぺいも、勝

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『公園物語』 その10

『公園物語』 その10

実は僕は英語ができる。

昔、一年弱、アメリカに行ったのだ。

そのときも、何か立ち止まりたくって急に決めた。
この時から何かを抱えてたのだ。
英語を学びたいというのを口実にして、社会人になる前に一年ぐらい「遊び」の期間を作ろうとした。

決めてから色々と調べて(調べてもらって)、格安で行けることになったのだ。
大学を一年休学して(公立だからタダなのである)、ビザを取得して、大学に申請して、カリフ

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「天才とホームレス」 第12話

「天才とホームレス」 第12話

泊まるのに必要なものをすべて与えて、
てっぺいと部屋に入った。

こんなことは初めてだ。
友達も、友達が泊まりに来るのも、
実はてっぺいが初めてなのだ。

ママは張り切って豪勢なご飯を出した。
てっぺいはガツガツと全部たいらげた。
ママは嬉しそうだった。
てっぺいも幸せそうだった。
そうかてっぺいのお母さんは、、、

いやいや、そんなこと、勝手に考えるのは失礼か。
しかし、てっぺいがいつもより甘え

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『公園物語』 その9

『公園物語』 その9

ラジオ体操の終わりの日、BBQをしようと言った。

子どもたち、大歓喜。
嬉しい。

しかし、問題は保護者である。
もちろん怪しい。
一人の保護者の誤解は解けたが、一人がそうということは大多数がそうだということだ。

子どもたちが来たいと思っても、それは難しい。
難しくあるべきだ。

でもBBQはしたい。したいんだ。
だって、一緒に飯を食うって、めっちゃいいやん!素敵やん!
それにこのラジオ体操で

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「天才とホームレス」 第11話

「天才とホームレス」 第11話

膨大な量の無駄な文字列を書き上げた後、
「対等になるために、、、」
と、つぶやいて僕は気付いた。

僕もてっぺいも対等でいたかったのだ。
僕らの仲間を客にしたくなかった。
お金を取るとはそういうことだと。

しかしそれは本当に対等か?
ママが言った通り、狩猟を教えたら、解体を教えたりすることは本来、人件費がかかることだ。
僕らはタダでやってもらったけど、一日だけだし、おっちゃんが売った恩からやって

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「暇が心を育ててる」

「暇が心を育ててる」

僕は暇が嫌いだった。

すぐに何かで埋めたくなった。

だけど暇になってから、やっとわかった。
暇が心を育てるんだ。

フィンランドの人たちは、
夏になるとバカンスに行き、
誰もいない森に行って、
ブルーベリーとか食べながら、
1ヶ月ぐらい過ごすらしい。

そうすると全員が、
創作活動を始めるんだって。

僕もそうだ。
暇になってから、
暇を作るようになってから、
創作意欲が止まらない。

創作意

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「天才とホームレス」 第10話

「天才とホームレス」 第10話

僕は母親を見下していた。

いつも自信がなさそうで、
いっつも自分の意見じゃなくて、
いっつもパパに見下されてる。

僕はそんな母親に、最近イラついていた。

僕らが初めて負けたあの日の夜、
もう耐えられなくなって、全部ママにぶちまけた。
どうせこんなこと、言ってもわからないだろうけど、と思いながら。

牧場のこと、おっちゃんのこと、僕らが考えたビジネスのこと、それに対する社長の答え、、、
良いこ

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『公園物語』 その8

『公園物語』 その8

炎天下の2時間鬼ごっこはキツい、、、。

ラジオ体操に行き続け、3日に1回は鬼ごっこに誘われる。
どうして小学生は鬼ごっこが好きなんだろう。
僕が鬼の時が面白すぎるので(大人だからわがままも暴言もぶつけられる)、
「もう、あんたがずっと鬼やってよ!」
、、、それのどこが面白いんや、、、。

とまぁこんな感じで順調に仲良くなる。

2週間はあっという間に過ぎた。

そのラジオ体操をやっているのは、林

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「天才とホームレス」 第9話

「天才とホームレス」 第9話

「あ〜、これはビジネスとしてはダメだねぇ〜」
その言葉に、目の前が真っ白になった。

「いや、あくまで、、、」
社長さんは続けるが、そのあとの言葉が入ってこない。
てっぺいもあんぐり口をあけている。

「今日はもうやめとこっか」
ニコニコしながら社長が言った。
僕はハッとして、
「あ、すみません、、、
 あの、、、」

「いや、わかるよ。
 ごめんね、キツイこと言って。
 おっちゃんに本気でやれっ

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『公園物語』 その7

『公園物語』 その7

朝、7時に目が覚めた日は、散歩に出ることにした。

我が家の朝は遅い。
自慢じゃないけど遅い。

子育てが始まってから、仕事がないにも関わらず、
自分一人で静かにする時間は少なくなっていた。
当然だ。

でも、静かにする時間は僕にとって必要だった。
放っておいたらカラカラと回り出してしまう頭を、空っぽにする時間だからだ。

何も考えずに「ただ生きる」ということを、
僕は妻から教わった。
もちろんな

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「世界は祈りでできている」

「世界は祈りでできている」

世界は祈りでできている

祈りは消えない。
願いは終わらない。

誰かの思いは目に見えない
ところで静かに降り積もり
溢れる時を待つ。

やがて積もった祈りの海は
マグマのように熱くなり
小さな刺激で爆発する。

その爆発が火をつけて
その脳みそが回りだす
そうしてモノが生み出されるのだ。

良いも悪いも元を辿れば
誰かの祈りであったのだ。

世界は祈りでできている。

宇宙と歴史のはじまりが

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