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「天才とホームレス」 第10話

僕は母親を見下していた。

いつも自信がなさそうで、
いっつも自分の意見じゃなくて、
いっつもパパに見下されてる。

僕はそんな母親に、最近イラついていた。

僕らが初めて負けたあの日の夜、
もう耐えられなくなって、全部ママにぶちまけた。
どうせこんなこと、言ってもわからないだろうけど、と思いながら。

牧場のこと、おっちゃんのこと、僕らが考えたビジネスのこと、それに対する社長の答え、、、
良いことも悪いことも、だらだらぐちぐちブチまけた。
堪えていた悔しさが噴出したのだ。

「僕らのアイデアのどこが悪いんだよ!」
という僕の言葉に、
「あら、そりゃあダメでしょう」
という言葉が力の抜けた声で返ってきて驚いてしまった。

「え、え? なんでだよ」
ムッとした。
「あ、ごめんなさいね。
 だってそれじゃあ儲からないじゃない」
「え、も、儲かる、、、?」
ママの口から「儲かる」という言葉が出たことに驚いた。

お嬢様育ちで世間知らずだと、勝手に決めつけていた。
こんな話をしてもわからないよね、と言いかけていた。
でも、ずっとパパの妻だったのだ。
あ、そうか、この人、僕よりたくさん生きてるんだ。
そんな当たり前のことに今さら気づいた。

「社長はちゃんとした人なのね。
 子どもの言うことを簡単に褒めて終わらないで、
 本気で向き合って、本気で頼りにしてくれてるのね。
 わたしはただの主婦だけど、それはすごいことだってわかるわ。
 あなた、今、良い環境にいるのねぇ」
そう微笑むママが、とても頼もしく思えた。
「そう、、、だね、、、」

「え、ど、どうして、ダメだって?」
ダメだ。今日は負ける日だ。
少しでもヒントをもらおう。
「だって、牧場側にメリットがないじゃない。
 あると言っても回収できるかわからない先の話で、
 そんなことにお金かけられないわよぉ。
 会社にとって一番かかるのは人件費なのよ。
 そして人を育てるのが一番お金がかかるのよ。
 そんなことを軽々しくOKしないわよ、社長は」
あぁ、、、ぐうの音もでない、、、
負け惜しみの「なるほどね」をリビングに残して、
僕は自分の部屋に上がった。

負けた、、、。
ベットに仰向けに寝転ぶ。
あの人にも負けるのか。
くそ、、、。

お金のこと、社長が確かに言っていた。
言っていたんだ。
それを深く考える前に、ママに見抜かれてしまった。

なるほど、僕らは確かに考えていなかった。
いや、考えたくなかったのかもしれない。
てっぺいが凡庸、面白くないと言っていたあれは、すべての金儲けのための仕組みだ。

僕らはそこが弱い。
てっぺいは特に弱い。
今までのビジネスでも継続的に自分が儲かる仕組みは作らなかった。
避けているようにさえ思う。
その弱さが出たのだ。

しかし、そこに僕が魅力を感じたのも事実だ。
うん。そうだ。僕はワクワクしたんだ。
金儲けじゃなくて、客じゃなくて、仲間を増やすと言う発想に。

いや、それでいいんじゃないか?!
あの直感のまま深めていけば良いんじゃないか?!
ガバァ!と起き上がってパソコンに向かった。

思いつくままに文章を書いた。
おんなじようなことを何回も書いた。
書いて書いて書いては消した。

気がつくと朝になっていた。

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