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「天才とホームレス」 第14話

中学校には小学校の倍の人がいた。

二つの小学校から来るのである。
しかし、半分は小学校から知っている顔だ。
中学受験で減ってはいるが。

『えんぴつけずり』の弟子たちは、
中学でもやかましかった。
すでに自分の家かのようだ。

もう一つの小学校、北小の人たちの中心グループともすでに仲良さそうである。
やはりすごい。

てっぺいは相変わらずマイペースで、相変わらず浮いている。
改めて集団の中で見ると見た目も行動もめちゃくちゃ変だ。
でも同じ小学校のやつらはみんな慣れていて、気にしていない。
特に弟子たちはてっぺいのことが好きで、よく話しかけていた。

僕は相変わらず一人で、相変わらず教室で一番背筋が伸びている。
子どもは友達になるという仕事をしているのだ、という話は感動したが、
僕らが例外1号2号だ。

友達になる天才1〜3号に、放課後、てっぺいと共に話しに行った。

僕がてっぺいと共に来たことに、みんな驚いていた。
そういや、学校では話さないから、僕らの仲のよさは気づかれていなかったのだ。

「いや、おまえこんなにフレンドリーなやつだったのか」
あ、そっちか。

そういえば僕は、彼らを見下していた。
そんな僕は彼らと仲良くなる気も、ましてや何かを頼むと言うこともなかった。
そんな僕のことを、僕はすっかり忘れていた。
彼らを尊敬すらしていた。

「ごめん。」
謝った僕に、なおさら彼らは驚いた。
てっぺいも驚いていた。

彼らに一部始終を話した。

てっぺいと僕の言うことに、毎回新鮮な反応を見せてくれ、これが友達ができるワケかと感心した。
「てっぺいもゆきやもすごいな! めっちゃいいじゃん!」
てっぺいが僕のことをゆきやと呼ぶから、彼らもそう呼んだ。
「おまえ、こんなおもろいやつだったんだな!
 知らなかったわ。よし! やろうぜ!」
そういって僕の肩を組んだ。
こんなにいい奴らだったのか。

「ありがとう。
 僕もおまえらとやれるのが嬉しいよ。
 田中、浦井、大沢」
「田辺な」
「浦田な」
「大崎な」
申し訳ない、、、
「ハハハ! いいよ、いいよ」
「もう名前で呼べよ!」
「テツ、シュン、ダイチな」

つり目のテツ、
足の速いシュン、
口の幅の広いダイチ、
が仲間になった。


その日の帰り道、さっそく三人を牧場に連れて行った。
まずは牧場のことを知ってもらう。

「うおー!すげー!」
「なあ、なあ、おっちゃん。これどういう機械?」
「これ、触っていい?」
と、一瞬で溶け込む三人。さすが。

僕は社長のところに行って、今てっぺいと考えていることをすべて話した。

「おおー!! いいねー!!!
 待ってたんだよ!!
 なるほど、そう来たかぁ」
ニコニコして喜んでくれた。
「いや、僕には思いつかなかったんです。
 でもてっぺいとか、あの三人の力を借りればできるかも知れない。
 社長の力になれるかもしれない。
 そう思うんです」
すると、社長が僕の肩に手を置いて、
「ほんとだねぇ。
 そういや、僕らのことを助けるためにビジネスを考えてくれてたんだったねぇ。
 でも僕は今、君たちのことを助けられることが嬉しいよ」
優しい声でそう言った。
抱きしめてほしいと思った。

結局、僕らがやろうとしていることは、
僕らで取ってきた「地域のお困りごと」という仕事を、
大人たちに解決してもらうということだ。

それは牧場の人たちやその他の人たちに頼る、ということ。
その時点でも双方にメリットはあるが、それは小さなものだ。
そして本当に仕事になるかもわからない。
しかしそれで牧場やその大人たちは、地域の人と友達になれる。
その先陣が子どもたちなんだ。

それで得た利益で「技術」を得るのだ。
その技術の伝授こそがこの作戦の肝なのだ。
大人たちにとっては、将来の担い手への投資になるし、
子どもたちにとっては、世界を広げる糸口になる。
またそれが、それぞれの家庭がその生き方を知る入り口になるだろう。

その後はまだ予想がつかないけど、
地域の中で地味に、地道に、根を広げていけば、
それがこの街全部を変えることになる、というのが僕らの目論見だ。

それを目の前のこの人は「嬉しい」と言ってくれる。
こんな子どもの話を真剣に聞いてくれる。
「ありがとうございます」
そういうと、
「よろしくね」
と言って握手してくれた。
その力は手が痛くなるほどで、でも、それが嫌じゃなくて、
抱きしめてくれているんだと感じた。

そのとき、
「うおーーーーーー!!!」
というてっぺいの声が響いた。

全員の目がそこに向く。

「どうした?」
と、みんなで駆け寄ると、
「これ! 食ってみいや!!」
と、差し出したのはジャーキーだった。
「シシ肉ジャーキーを開発したんだよ!」
と、牧場のお兄さん。

恐る恐る食べてみる。
「うおーーーー!!!!」
めちゃくちゃうまい、、、!
思わず叫んでしまった。

「これ、君たちのやろうとしてることに使えるんじゃない?」
このお兄さんは僕らのことを考えて開発してくれていた。

「これ、全駄菓子屋に置こう!
 そしたら絶対みんなおもろがるぞ!!
 そんでそしたら、おもろい仲間も集まるし、大人たちと話すきっかけにもなる!よっしゃー!!」
「おー!それは助かるな!
 これ売ってきてくれよ!
 あ、これは牧場からの依頼だね!」

こうして僕らの初仕事は、まさかの牧場からだった。
「シシ肉ジャーキー」の売り場を作ること、広げること。

それは牧場の名前と、僕らの会社の名前を広めることにもなる。

動き出した。


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