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「天才とホームレス」 第12話

泊まるのに必要なものをすべて与えて、
てっぺいと部屋に入った。

こんなことは初めてだ。
友達も、友達が泊まりに来るのも、
実はてっぺいが初めてなのだ。

ママは張り切って豪勢なご飯を出した。
てっぺいはガツガツと全部たいらげた。
ママは嬉しそうだった。
てっぺいも幸せそうだった。
そうかてっぺいのお母さんは、、、

いやいや、そんなこと、勝手に考えるのは失礼か。
しかし、てっぺいがいつもより甘えた顔に見えた。

そんなわけで、僕の部屋に入った頃には二人は動けないぐらい満腹で、
しばらく口を開かなかった。
しかし、黙っていると眠たくなってきたので、僕から話し始めた。

「今日な、社長に話しに行ったんだ」
「お、おお〜
 やっぱりそうなんや。
 ありがとう」
「うん。
 よかったよ。
 めちゃくちゃいい話ができた」
社長と話したことを全て説明した。
「昨日、マ、か、母さんに言われたこともまさにお金のことだったんだ」
てっぺいの前でママは恥ずかしいと気づいた。
「なるほどね。
 おれもそこかなとちょっと思ってた」
「それでな、そこもしっかり突き詰めていくのが、本当の対等じゃないかと思うんだよ。それをお前と話したかったんだ」

バン!と僕の肩を叩いた。
「ゆきや!お前、最高やな!」
ジンジンする肩と嬉しくて泣きそうになる目から気をそらすように、
「そ、そうか?」
と言ってパソコンを取りに立ち上がった。

「おれもあれから色々考えたんや」
パソコンを立ち上げている間にてっぺいが話し始めた。
「友達になるってな、おっちゃんの鉄則やんか。
 それはどういうことやろって。
 友達やったら、その友達のために優しくする。当たり前や。
 困ってたら助けたる。お腹空いてたら飯を分けたる。喉渇いてたら水を汲んできたる。やってほしいことでおれができることならしたる。
 相手の幸せのために、できることをしてあげるってのが、愛やっちゅうことや」
愛か。
「うん」
「やけどな、それはこっちがあげるばっかやろ?
 やってあげることばっか考えとる。
 それは果たしてほんまの友達なんやろか?」
ふむ。
「やってもらうことも大事なんちゃうやろかって。
 それこそがほんまの対等やし、ほんまの友達なんちゃうか。
 お互いに相手のためにできることをする。
 やってもらったら持ってるもので返す。
 『ありがとう』と一緒に」
おお、、、
「対等について考えてることが一緒だ!」
「そやねん! 最高やろ?」
「すごいな、、、」

「それでな、そう考えると、
 世の中の仕事ってな、全部そうやってできてんちゃうかと思ってん」
「え? 急にわからなくなった、、、。どういうことだ?」
「えーと、
 例えばな、レストランとかはな、ご飯を作ってあげる仕事やろ?
 お腹空いてる人の代わりにご飯作ってあげて、
 食べた人は『ありがとう』と一緒に自分の持っているお金というものを渡すわけや。
 そのお金をレストランの人は別の『ありがとう』に使えるわけや。
 そう考えるとな、お互いに助け合う、友達になるシステムが、
 仕事とお金ってわけや」
おお、、、いつになく説明がわかりやすい。
「逆にいうと友達になるってこと、そんで友達としてやっていくことの先に、仕事とビジネスがあるってわけや」

「なるほどなぁ、、、
 そう考えると「友達になる」っていう鉄則は本当にすごいな」
「そうやねん。
 結局おっちゃんにはかなわへん、、、」
おっちゃんに勝とうとしてるのか?
それはすごいな、、、

「そんで、やとしたらな、こっからはまたちょっと飛ぶかもやけど、、、」
いつものことじゃないか。
「子どもたちはこの世界の中で、
 めちゃくちゃ大きな仕事をしてると思うねん」
「ん??」
まただ。
「あのー、、、
 おれたち子どもはさ、いつだって友達になれるやん?
 誰だって友達になれるやん?
 向こうが友達になる気がなかったら難しいけど、、、。
 おっちゃんも友達やし、ゆきやのおかんもおれ、もう友達になったと思ってるねん」
これは驚きの考えだった。
「いや、自分が友達になるのが上手いなんて考えたこともなかったけど、、、」
「えーと、あ、でもおっちゃんとはすぐ仲良くなったやんか!」
「ま、まぁ」
「おれもこっちきて、そんなに友達できへんかったけどな。クラスでは。
 でも大人の友達はめっちゃできたで。
 まぁ、とにかくやな、友達になるってこと、なれるってことは、世界にとってめっちゃ大事なことやって言いたかったんや。
 子どもたちがやってることってめっちゃすごいんやって。
 おれ、前にエスカレーターの中で赤ちゃんを見たんや。
 そして、そのエレベーターに乗ってる人全員の顔が、その子を見て緩んでたんや。
 こんなに人を幸せにする力、他にないんちゃうかと思ったんや。
 それ見て、寂しかったんが消えたんやから! すごいで!」
なるほど、、、

「すごいな」
にっこり微笑むてっぺい。
立ち上げたパソコンはとっくにスリープに入って、やる気を無くしている。

結局、パソコンは一度も使わず、僕らは風呂に入った。

これからの方針を決めるのに、もうパソコンなどいらなかった。
てっぺいの話が全てだからだ。

「僕らで会社を作ろうか」
僕がポツリと言った。
「おおーーーー!!!」
興奮したてっぺいが立ち上がる。
僕の顔にお湯がたっぷりかかる。
「いや、僕らが子どもを活かすんだ。うん。
 その友達になる力を。
 町中からニーズを吸い上げる。
 人と人を繋げる。
 それをするのは子どもたちだ。
 それであの牧場を使ってビジネスにする。
 そこであげた収益を使っててっぺいのあの計画を進めるんだ。
 そしたら、町中を巻き込めるぞ」
話しながら全体ができていった。

少しの沈黙の後、
「ゆきや、おまえ、今ほんまにすごいぞ、、、」
てっぺいがガシッと肩を組んだ。

湯気の中で天才が笑った。

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