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「技能 x 直感 x 先端技術」で100年続く価値創造を

東京丸の内の仲通りに、名和晃平さんの彫刻が展示されています。「丸の内ストリートギャラリー」の作品の一つとして設置されています。
「丸の内ストリートギャラリー」は、1972年より三菱地所株式会社と公益財団法人彫刻の森芸術文化財団が、 芸術性豊かな街づくりを目指し、丸の内仲通りを中心に近代彫刻や、世界で活躍する現代アーティストの作品を、 数年に一度入れ替えながら展示していくプロジェクトで、今回は19人のアーティストの作品があちこちに展示されています。

先端技術を駆使した《Trans-Double Yana(Mirror)》


名和さんの作品は、2012年に制作した《Trans-Double Yana(Mirror)》
3Dスキャンした人体モデルに、触感デバイスを使ってエフェクトをかけ、そのデータをもとに彫刻を制作したものです。通信状態が悪いと、モニターに映し出された人間の像が一部波型になるというシーンがアニメなどで出てきますが、それを立体にしたような彫刻です。

名和晃平《Trans-Double Yana(Mirror)》

数年前に、名和さんのスタジオ「Sandwich」を訪問したことがありますが、そのときに、この触感デバイスを触らせていただきました。ペン型のデバイスを動かすと、本当に粘土を触っているような感触があり、CADでは難しかった自由な曲目をデザインすることができます。

あのときのデバイスからこの作品ができたんだなと、懐かしい思いになりました。名和さんは、日本の中でもかなり早い時期に触感デバイスを導入したと話していました。新しいテクノロジーに貪欲なところが凄いですね。

「『画材屋さんにあるものが美術の材料』という前提が、僕の場合には当てはまりません。学生時代から画材に使用しない素材をリサーチして作品に取り入れていました。絵の具にしても、一般的には“絵を描く材料”として売られていますが、物性の幅は配合によって変えられる。そうした可能性のなかで、ある程度使いやすい物性にしてあるものが市場に出回る画材になります。それを自分の作品に適合させていくとき、画材ではなく、素材、物質として絵の具に向き合っている感じがします

名和晃平インタビュー: 明治神宮×最新個展でひも解くアートのヴィジョン


「技能 x 直感 x 先端技術」による価値創造


金沢21世紀美術館館長の長谷川祐子さんは、名和さんとの対談で、名和さんの特徴を「技能 x 直感 x 先端技術」と語っていました。

丸の内の作品のタイトル「Trans」とは、影と実態、現実とヴァーチャルの境の意味、リアルに存在する身体と情報として存在する身体が重なるような彫刻を目指したといいます。

情報の世界が遠い世界ではなく、その中にリアリティや身体性のようなものを見出していたからできた事だと思います。“Trans-Double Yana(Mirror)”を今あらためてこの時代に存在させることで、当時持っていた予感のようなものがどう表現されていたのか、自分でも見てみたかったんです。

リアルに存在する身体と情報として存在する身体性

「情報の世界の中に、リアリティや身体のようなものを見出した」というのは直感だと思います。名和さんは、時々衝動で作品を創ることがあるといいます。制作した当初は、その作品の意味がはっきりしなかったとしても、後から意味がわかってきたり、社会とシンクロしたりするようになるそうです。時代を先取りする直感をもっているようです。

《Trans-Double Yana(Mirror)》も10年前に制作したものですが、メタバースのような仮想空間と現実との境が議論される今こそふさわしい作品だと思います。

伝統工芸とのコラボレーション


長谷川祐子さんが指摘しているもう一つの要素、技能、作品を実現させるために、いろいろな人とコラボレーションしています

2020年秋、明治神宮の鎮座100年を記念して行われた「神宮の杜芸術祝祭」で、南神門に金銀二体の鳳凰が飾られました。これが名和さんが制作した《鳳 / 凰(Ho / Oh)》3Dモデリングしたものを、京都の仏師たちが木彫りを行い、漆を塗り、その上に箔を塗ったものです。神々しく美しい鳳凰の姿に、魂が宿っている感じを受けました。細い尾が本当に生きているような躍動感を表していますが、この部分は、3Dプリンタとかでは無理で、仏師の技術だからこそ実現できたそうです。

名和晃平《鳳 / 凰(Ho / Oh)》
名和晃平《鳳 / 凰(Ho / Oh)》

「技能 x 直感 x 先端技術」を駆使して制作した作品は、私たちを魅了し、この先いつまでも作品の価値が続いていくように思われます。名和さん自身も以下のように語っています。

社会が見ようとしている夢やビジョンは、繰り返し使われていく中で消費されることがありますが、それに対して止まって見ているだけではない見方が要るのではないかと思います。アートは、政治や歴史的背景のようなものと完全に切り離すことができないとしても、より自由な立場から表現ができるので、そこから常にずれていく、はみ出していく役割を担っているんじゃないかと思います。色々な意味合いを持つ本作は、現代で消費されないテーマを持っているような気がします。

リアルに存在する身体と情報として存在する身体性

名和さんにかぎらず多くのアーティストは、自分の創る作品が、10年後も100年後も評価されることを目指しています。その挑戦の姿が素晴らしいのです。名和さんが衝動的と表現したように、自分が創りたいと思ったこと、見出したコンセプトを表現として突き詰めているので、高い価値が長い間保たれると思います。

工業製品にも長期間続く価値を


これは、工業製品も同じです。ソニーのウォークマン、当時名誉会長だった井深大(1908〜1977)さんが、出張に出かけたときにも音楽を聴きたいと、小型テープレコーダー「プレスマン」を再生専用でいいからステレオにしてほしいと依頼して誕生したものです。録音機能がないことに社内にも反対意見はあったようですが、「いつでも・どこでも・手軽に音楽を楽しむ」というコンセプトで、“外に音楽を持ち出す”というライフスタイルの変革を起こし、多くの人に受け入れられました。今も音楽専用機として発売されていて、43年の歴史を誇っています。

大量生産・大量消費社会から循環型社会に転換しなければならない時代、私たちもアーティストの価値創造の思考を学び、長期間価値の続くものを創造していきたいものです。

現代美術はアーティストが“今”感じているものを作品化しようとする試みですから、表現に向き合い続ける限り、その姿勢そのものが作品のあり方に影響しますし、一つひとつの作品は単発ではなくて、互いに関連し合って生まれてきます。

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