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#オリジナル小説
貫一の1「ハニーポット」(28)
脇腹を何度か刺されたので、血が出ていた。そのままでは生死にかかわるために、止血しながら私は紅葉を電話で呼んだ。移動手段を確保する必要がある。
河原の道を外れた雑草畑の上で私は足をのばしていた。この時間は、福岡市から唐津方面へ向かう車が多く、いつまでも橋の上は混雑していた。ここ数日はずっと晴れていたが、土はまだ湿っていて、腰を下ろすのは心地のいいものではなかったが、応急処置を済ませるためにはこう
明の13「正しい街」(30)
私は変わらず緑を見ていた。この色に何らかの変化が起こるのを、佇んで待っていたのだ。鏡の中でも雨は降った。相変わらず、強弱に定まりがなかった。次第に私は鬱屈を覚えだした。こらえきれず気をそらそうと手のひらを見れば、それはサイコロでできていた。私の側には、一の赤い点が向いている。裏返してみると、それもすべて赤い点だった。どうも二層構造らしい。手を振ってみると、簡単に崩れてサイコロがぽろぽろと落ちて行
もっとみる香山の17「ここでキスして。Ⅱ」(35)
「『どうして泣いているんだい』
俺は分かっていた。でも、違うと願いながら尋ねた。
『あんたのせいやろ、嘘ついて、お客さん入れて、あたしどんだけ暴言吐かれながらやったと思いようと? 何で、あたしだって自分がかわいいなんて思い上がっとらんし、周りの人の反応を見ればどげん風にみんながあたしに腹の中で評価を下してるかぐらい、見透かしとう。あたしせめて会話ぐらいは一流にしようと、頑張りよったんに。大体から