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シカゴ

刑事にアンパン、駆け出す女学生に食パンのように、人にはお決まりの食べ物がある。自宅警備員にとってのそれは『辛ラーメン油そば』だ。
 
先ず麺と加薬を規定の時間茹でます。器にごま油大さじ一杯、その縁を囲むようにマヨネーズを適量注ぎ、粉スープを半分ぶち込み、茹で上がった麺と絡ませて頂く。これぞ漢の勝負飯。自宅警備員は辛い料理を食べる事くらいしか戦うことがないのである。
 
弟に振舞った。感想は一言「ちゃんと駄目の類のやつ」
 
弟の勝負飯はムサカである。ギリシア料理らしい。ラザニアとの違いが分からない。もしかしたら弟はラザニアを気取ってムサカと言ってるだけかもしれない。弟は調理の際、いつも何かしらの歌を口ずさんでいるのだが、ムサカを作るときは決まってクラムボンの「君は僕のもの」をリフレインしている。若干怖い。

「君って誰を差してんの?」
「君と言う言葉はね、君と形容したいから、君と呼ぶんだよ」
 
弟は時々よく分からない事を言う。ところで俺はクラムボンなら『シカゴ』が好きだ。その歌詞にも何を指してるか分からない『アイツ』とか出て来る。でも耳心地よく、分からなくても嫌じゃない。きっとそれは『ソイツ』や『コイツ』じゃなくて『アイツ』と形容したい何かがあるのだろう。弟の言う『君』と同じように。
 
でも『ムサカ』君はやっぱり『ラザニア』だと思う。

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