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長編小説、超短編小説、実験小説、詩、、朗読ライヴの元ネタ、文体の研究などなど。多すぎてどれ読んでいいかわからない時は「【おすすめ】創作編」というマガジンをどうぞ。
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#長編小説

【長編小説】ファッション・メンタル・ヘルス

【長編小説】ファッション・メンタル・ヘルス

■あらすじ

舞台は精神疾患罹患率と自殺率が数十%のディストピアジャパン。
全ての男達が自分を性的対象として見ることに嫌気がさしたメンヘラ美少女ミアハは、自殺という形で世界への復讐を試みるが、ひょんなことから、ファンとの性交・妊娠・出産を請け負い少子化対策に貢献する厚労省お抱えアイドル「ファッション・メンタル・ヘルス」に加入し、どっちかというと世界を救済することに……。
第50回文藝賞二次通過作「

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【長編小説】世界ちゃんとバラバラ・ガールズ・ディストピア

【長編小説】世界ちゃんとバラバラ・ガールズ・ディストピア



■あらすじ

『バラバラ・ガールズ・パラダイスは、膨大な女の子パーツをあなたのオーダーに合わせて組み立てて、あなただけの理想の女の子を提供する、全く革命的な新時代のナイト・サービスです。』

自分の肢体が美しいことを確認するために毎晩バラバラ・ガールズに通い
身体を分断させながらファボを稼ぐ女・ヨソミが、
世界を旅する世界ハンターに丸ごと射止められ、世界ちゃんを襲名するまで。

2014年執筆

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新しい小説を書きたい。シーンを作りたい。仲間が欲しい。

新しい小説を書きたい。シーンを作りたい。仲間が欲しい。

昨日のの記事↓↓の補足記事です。

昨日は
「私の愛する純文学が、インターネット時代において廃れかけていることが悲しい。でも、インターネット時代の今、早くて分かりやすいコンテンツが好まれるのは、時代の潮流だから仕方ない。だから「ネット時代にも読んでもらえる純文学」を作るしかないよ」という話を書きました。

昨日の記事は本当に、私の2018年の目標でありここ最近のnoteの集大成だし、リスクもとった

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【長編小説】音楽の花嫁 19/19

【長編小説】音楽の花嫁 19/19

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通夜と葬式はつつがなく行われた。最後、煙となったおじいさんを火葬場の外から眺めると、やっと肩の荷が降りたように思って安心してしまった。葬式は疲れる。兄も同じように感じていたようで、慣れないスーツのネクタイを緩めてシャツを腕まくりして、「あちー」と言って手であおいだ。母はそんな私達を見ながらくすりと笑って、
「ねえ綾乃ちゃん、あのフルートどうしたの?」
と聞いてきた。
「うん?」

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【長編小説】音楽の花嫁 18/19

【長編小説】音楽の花嫁 18/19

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「おじいちゃんは……お父さんは、フルートの名手だったらしいのよ。その道で食べていこうと考えていたくらい、でもその前に戦争にとられちゃったらしいんだけど。でも私は一度もフルートを吹いているところを見たことが無かった。それどころかお父さんは、ラジオでクラシックがかかると顔をしかめて消すくらいだったの。一度私が友達にクラシックのレコードを借りてきたら、『そんなちゃらちゃらしたもんにかま

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【長編小説】音楽の花嫁 17/19

【長編小説】音楽の花嫁 17/19

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その時の彼の表情の変化――一瞬の出来事だったそれを私は一生忘れないだろう。まるで卵を奪われた雌鶏のように怒りで顔が膨らみ、私に掴みかかるほどの血の気で沸き立ったと思ったら直後、悲しみと安堵と諦めとがいっしょくたになって一気に顔の上を通り過ぎるように青ざめ、しぼんでいった。そして彼の顔はまるで支柱を失ったテントのように皮膚がずるずると垂れ落ち、皺が刻まれ、あっという間に私の知ってい

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【長編小説】音楽の花嫁 16/19

【長編小説】音楽の花嫁 16/19

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ふと視界の端でちらりと何かが動いた。目を上げると、そこにはバイタの群れからはぐれて、誰かの腐った分身がひとり、ぽつりと立っていた。手首につながれた鎖はちぎれ、飼い主に置き去りにされた、いや、飼い主をどこかに置いてきた迷い犬のようだった。こちらを怯えた様子で見つめているが、目は好奇心を隠せずきょろきょろとせわしなく動いている。まるで小動物のようだ。
「大丈夫、あなたは食べないよ」

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【長編小説】音楽の花嫁 15/19

【長編小説】音楽の花嫁 15/19

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遠くからいろんな声が混じり合った、声ともつかない何かが聞こえて来た。それは技師のいた部屋で聞いたマルタの声にも似ていたが、声と言うより悲しみや絶望そのものに近い、素手で心臓に触れてくるような何かだった。バイタの棺の中身よりもっとひどいものを見るだろうという予感が走ったが、足を止めることは出来なかった。
 遠目に見るとボウリングのピンのように、頭部と下部の間にくびれがある肌色の物体

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【長編小説】音楽の花嫁 14/19

【長編小説】音楽の花嫁 14/19

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「一番好きなものを思い出す」、そして「棺を上手く使う」。ネムルはそう言っていた。それと、「僕の棺によろしく」とも。でも男の人は棺を持っていないんじゃないだろうか。
 エレベーターで考え事をしているとあっという間に降りる階についてふためくように、気付いたら私は細い食道を落ち続けて少し広くなった場所に着地した。下は胃液でびちゃびちゃ、そしてあたりは真っ暗で何も見えない。まるで地下を走

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【長編小説】音楽の花嫁 12/19

【長編小説】音楽の花嫁 12/19

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こんな形でメイドの言っていた「寝室を一緒にする」機会が訪れたのは皮肉だった。私は死に絶えた城で唯一呼吸している生き物、傷ついたネムルの傍にいたかった。自分のベッドに引き入れて飽かず眺めていた。
 ネムルがケガしたのは左腕、指が六本ある方だった。革の手袋は血を吸って赤黒く染まっていた。ネムルは私の前で手袋をとったことが無い。食事もそのまま食べる。手袋をとって剥き出しの六本目の指を見

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【長編小説】音楽の花嫁 11/19

【長編小説】音楽の花嫁 11/19

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たったひとりで音楽を作り、聴いた者は全員死ぬ。そんなネムルの今までの孤独とはどんなものだったろう。美しいとは言えないけれど、私はネムルの音楽を心から好きだと思う。もともとオーケストラから派兵されたのだからこれは裏切り行為になるけれど、私はネムルと一緒に戦うこと以外考えていなかった。ネムルの音楽の一部になれることがこの上なく嬉しかった。
 でも、ネムルの音楽にどうやって私が入るのだ

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【長編小説】音楽の花嫁 9/19

【長編小説】音楽の花嫁 9/19

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指揮者の前に、肘はあるけれど背もたれが無い奇妙な椅子が一脚あり、手首と足首を固定する鎖がついていた。
「座って」
と言われたので言う通りにする。座ってみて、背もたれが無いのは棺がつかえないためだと分かった。しかし、ということは私はこれから背もたれのある椅子には座れないのだろうか、ゴミ捨て場で変なものを拾ってしまったために。
「念のため」
と言って技師がちょろちょろと動いて私の手首

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【長編小説】音楽の花嫁 8/19

【長編小説】音楽の花嫁 8/19

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・・・・・・・・・

召集令状の楽譜を読むとこれは『牧神の午後への前奏曲』、つまり午後の方角、南と西の間だろうと見当をつけて歩き始めた。
 棺はもう十分身体に馴染んでいた。というよりもう背中の一部となっていた。自分の背中を外して見られないように、棺の中の自分は見られないということが、背中に染む棺の感触で分かった。
 しばらく歩くと、椅子が沢山並ぶ広場に辿りついた。人が一人立てる程

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【長編小説】音楽の花嫁 7/19

【長編小説】音楽の花嫁 7/19

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おじいさんの家は相変わらず、リフォームした両隣の家に尻込みするように庭木に埋もれてひっそりと佇む日本家屋だった。ここに来るのは中学生以来だ。景色を映す自分の目は育っているのに景色の方が全く変わらずそこにあるなんて不思議だった。でもそれこそおじいさんが待っていてくれる感じがして好ましかった。
 私は適当な木の枝を拾うと縁の下へ向かった。セーラー襟を自分の顔に引き寄せマスクがわりにし

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