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生きていること

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心にうつりゆくよしなしごと
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JAMCAFE

JAMCAFE

ごくごくと水を飲むと、最後に鼻からレモンの香りが抜けていく。

たまごのスープからは、わずかにミルクのような優しい匂いがして、思わずほっとひと息つく。

サラダにかけられたドレッシングの量は、多過ぎず、少な過ぎずの絶妙な塩梅で、野菜の味が最大限に活かされている。

じゃがいもって、こんなに美味しかったんだ。ほくほくとした食感の後から、柔らかな甘さと温かさか口いっぱいに広がってきたので、静かに目を丸

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歯医者

歯医者

何年かぶりに虫歯の治療をしてもらった。口の中に何本も細い機械を入れられて、歯がガリガリと削られる音を聴きながら、まるで道路工事のようだ、なんてことを考えていた。

奥歯にできた虫歯は少し深かったようで、時折キリリと神経に触ったような鋭い不快感を覚えた。痛いときは左手を挙げて下さいと言われていたが、挙げたところで待っているのは束の間の休息でしかなく、結局全て削り取るまであの不快感から逃れることは出来

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不味い飯

不味い飯

余りもので作った料理が美味しくなかった。それだけですべてのことがどうでもよくなってしまって、生きていることが面倒に感じられるくらい、私の人生は覚束ない。

不味い飯を食べないといけないというのは、辛い人生を生きねばならない感覚と似ている。棄ててしまいたい、死んでしまえば楽になる、という考えは良くないものだと思われる。

決して美味しくはない食事を、努めて味わわないようにしながら栄養として摂取する行

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ひみつのnote

ひみつのnote

いつどうしてはじめたのか
もう覚えてはいないのだけれど

自分の生の感情を表出するために
誰にも見せないアカウントを作って

人に伝えられる程言語化出来ていない
でも抑えのきかないような
行き場のない強い感情を勢いで
そこに打ち出していました

ふと思い立って見返してみると
やっぱり訳の分からない言葉も多くて
人に見られていなくて良かったなと思いました
でも
辛いことを乗り越える前の
自分の等身大

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皐月の迷

皐月の迷

春はみんな浮かれ気分だ

地に足のついた充実感とも違う
躁状態のような気分の高揚に酔いながらも
すぐそこに鬱々とした日々が待っているようで
なんとなく不安になってしまうのは
きっと考え過ぎのせいだけれど

5月病がすぐそこなのも
きっと確かだ

同窓会

同窓会

久しぶり!

見慣れないアイコンから連絡が来るときは、大抵この書き出しから始まるものだ。小学校6年生の頃、今から10年以上も前にクラスで埋めたタイムカプセルを掘り起こす。言われてみれば、そんなことを昔したような、していなかったような。正直、あってもなくてもいいような、今の自分の人生には全く関係のないそのイベントへの誘いを、私はなぜか断らなかった。その日はちょうど仕事が休みで、10年前の自分がどんな

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選ぶたのしさ520円

選ぶたのしさ520円

先週借りた映画と漫画の返却期限が迫っていた。自転車のライトを充電し忘れていたので、歩いて15分のレンタルショップまで自転車を押しながら向かう羽目になった。2階にあるTSUT◯Y◯へ行くのにエスカレーターに乗ったら、100均が目の前に現れた。吸い込まれるように入って行って、油性ペンを探す。いろんな太さや本数のペンが売られていて、こんなに種類要るのかなあと思いながら、一応5分程どれにしようか悩む。やっ

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おやすみのおわりに

おやすみのおわりに

ベッドの上。カーテンの隙間から射し込んでいた陽の光が、時間とともにぼんやりと柔らかくほどけてゆく。休日のおわりを感じる夕方は、なんだか少し寂しくて不安で、何もできなくなってそのうち眠ってしまうんだ。

気がつくと外はもう暗くなっていて、いつの間にかお腹もすいている。もう半日もすれば仕事に向かう時間だ。そんなことを考えながら、明日から再開される日常に向けて、心の準備を整える。

ありきたりで何もない

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春の夜の夢

春の夜の夢

 昔、物心ついてしばらく経った頃、人生の記憶としては三ページ目の半ばあたりの時期の私は、しばしばこんな事を考えていた。「自分は本当にここに存在しているのだろうか。今見えている物も、聞こえている音も、私がそう"感じている"だけで本物ではなかったら?今の私が生きている世界は、私が普段みるそれよりもずっと長い夢で、ある時ふとした瞬間にそちらの側の現実に戻るのではないか。」
 まだ、夢と現実の違いが曖昧だ

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nothing

nothing

 私はしばしば、自分が病気なのではないかと思うことがある。身体的にではなく、精神的に。時々、全てのことがどうでもよくなって、とにかく何もしたくないと思う。自分で回した洗濯機の中に湿った服を残したまま、音をたてて空腹を訴える胃袋さえもそのままにして、動かなくなった身体は死にゆく生き物さながらにどこか遠くを見つめている。

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下書き : 性格の悪さについて

下書き : 性格の悪さについて

 物心ついてしばらくの間、いい子でいることが何よりも大切だと思っていた頃の私は、自分の心が綺麗で、自分は優しい人間になれると思っていた。何でも先生や両親に言われた通りのことをして、やってはいけないことをしないことで、私は"いい子"と言われる自分を形作っていった。褒められるべき自分のことが、私自身も大好きだった。

ある時から、私には五つ歳の離れた妹ができた。三人兄妹の末っ子は、この世の苦労を全て免

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