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歯医者

何年かぶりに虫歯の治療をしてもらった。口の中に何本も細い機械を入れられて、歯がガリガリと削られる音を聴きながら、まるで道路工事のようだ、なんてことを考えていた。

奥歯にできた虫歯は少し深かったようで、時折キリリと神経に触ったような鋭い不快感を覚えた。痛いときは左手を挙げて下さいと言われていたが、挙げたところで待っているのは束の間の休息でしかなく、結局全て削り取るまであの不快感から逃れることは出来ないのだろう。そう思うと少し諦めがついて、顔に掛けられたタオルの下で、顔を歪めながら阿呆のように口を開け続けた。長く感じられた削りの工程がやっと終わったらしく、リクライニングを起こしてうがいを促された。恐る恐る舌で削られた部分を触ってみると、ぼっかりと穴が空いていて、舌が届かない深さに底があるようだった。

再び横になると今度は詰め物を入れられた。どんな詰め物をどのくらい入れられているのか皆目見当も付かないので、この時だけは歯に感覚があったらなあと残念に思う。詰め物が入ると謎の機械を当てられて、ピッという音が何回か聴こえる。それが終わると、いつの間にか詰め物がもともと歯の一部だったかのように、何食わぬ顔でそこに定着しているから不思議である。

あとは形を整えていきますね。こう言われると聞こえはいいが、歯に触れた瞬間から、低くて鈍い研磨機の振動が、頭蓋骨まで響いてくるような感覚に襲われた。削られている間中頭がぐわんぐわんと回っているようだった。はじめに歯を削り取っていったドリルは鋭く高音を鳴らしたが、ここまで響くことはなかった。ぐらぐらと振動する脳みそでぼんやりと、このまま研磨され続けたらそのうち脳しんとうになるのではないかとさえ思うのだった。

やっと整形も終わってすすぎうがいをした。鏡を渡されて口を開けると、確かに治療した部分がつるつるになっていた。そのまま右上の奥歯を見せられて、親知らずに虫歯があるので抜歯か治療が必要だと説明された。つづく。

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